compagno di cupido


※ギアッチョがルームメイトの恋に巻き込まれるだけ
※ギアッチョとメローネに彼女いる









ナマエとふたりでバーのカウンター席に座り、酒を飲んでいた。ナマエは会話の途中だっつーのに後ろを振り向き、ビクッと肩を震わせて前に向き直った。

「あー、やばいやばいやばい。ねえ、本当にやばいよね、ギアッチョ?」

ナマエは爪の先でカウンターを落ち着き無く叩く。
今にも腕にグラスが当たりそうで危なっかしく、サッとオレの方にグラスを避難させた。

「やべーのはおめーだろーがよォ〜」

オレは酒を飲みながら、後ろでダーツをやっているプロシュートを振り返った。
プロシュートは片手をスラックスのポケットに突っ込んだままボードに向かってダーツを投げている。
あいつのかっこつけはマジで害悪だ。男のオレでもかっこいいと思うが、既に容姿に恵まれているからそれ以上かっこつけんな、と言いてェ。あいつのかっこつけの所為でプロシュートを見る度にナマエにぶつぶつと独り言を呟かれるのはいい加減飽きてきた。いつも付き合わされるこっちの身にもなって欲しいもんだぜ。
「アウトボードになれ!」と心の中で叫んだが、プロシュートのヤツは得点を調整し始めているのか右下を狙っている。プロシュートの指から放たれたダーツは緩やかに下方へ向かって落ちるように飛び、ボードに刺さった。成功したのかホルマジオに向かって意味ありげに唇の端を吊り上げて微かに笑った。悪い笑みだが、それもナマエには堪らねェんだろうな。ナマエも見ていたようで、また前を向いて「やばい」を連呼し始めた。

「いい加減付き合っちまえばいいだろーが。プロシュートのヤツ、たまにナマエのこと見てるぜ?」

マジだった。プロシュートはマジでナマエのことをたまに見ているし、眼で追っている時がある。それに前に一度、「ナマエが今デートしてる男のこと知ってるか?」とオレに聞いてきた。あのプロシュートがオレにわざわざ聞いてくるってことは相当ナマエに入れ込んでる証拠だ。両想いは明らかだからとっとと付き合っちまえばいいのに。

「それ絶対嘘だし、付き合うのは無理!だって、私、職場恋愛しない主義だし、プロシュートもそうだって言ってた!」

「考えが変わるなんてよくあるだろーがよォ〜。めんどくせェェ。だったら、さっさと他の男と付き合えばいいだろ」

「それも無理なの!最近までデートしてた人に抱かれながらプロシュートのこと考えてて、最中にプロシュートの名前言っちゃったの!それでフラれた!やばいよね?これ病気?」

「病気だな……あ」

「なに?今の『あ』ってなんの『あ』?」

プロシュートはホルマジオに勝ったのか、機嫌の良さそうな面をしてナマエの後ろに来て、ナマエの髪に触れた。

「ナマエ、ゴミ付いてるぞ。動くなよ?」

ナマエは硬直したまま何も言わず、ただオレだけをまっすぐ見つめているが、きっとその頭ン中はプロシュートのことでいっぱいか、真っ白のどっちかだ。

「紙屑だ。どこで付けたんだ?」

プロシュートは指の先に乗った紙屑をピンッと弾き飛ばし、ナマエの隣に座って声をかけるが、ナマエはオレの方を向いたまま固まっている。

「プロシュート、こいつ酔っ払ってるみてェだから、連れて帰ってくれ」

「ギアッチョが連れて帰ればいいだろ」

「おまえの家でいいってよォ〜。おい、ナマエ?」

ナマエの顔の前で手を振るが、無反応だ。ただ顔を赤くさせ、瞳が揺れている。めちゃくちゃ動揺してやがる。

「ギアッチョはそれでいいのか?」

プロシュートは恐らく気を遣ってんだろうが、マジでいらねェ気遣いだ。オレにはちゃんとデート相手がいるし、ナマエみてェな恋多き女は恋愛対象外だ。

「前にも言ったろ。こいつとは仲間でダチだ。一緒のベッドで寝たことあるが、何もなかったしな」

オレは今メローネとナマエの三人でシェアハウスに住んでいるが、特に何も起きてねえ。それぞれデート相手がいて、たまにナマエとメローネがデート相手のことを話しにオレのベッドに入り込んできて互いに話すだけ話して満足すると部屋に戻って行ったり、そのままオレのベッドで寝ていったりする。勿論、オレたち三人の間で変なことは起きねえ。
おかしいっちゃ、おかしい関係だが、この生活を一年以上続けていてもう慣れた。部屋を綺麗に片付け、異性を家に連れこまないっつールールさえ守ってくれればオレはそれでいい。

「なら、こいつはオレが貰っていく。ナマエ、オレの家来いよ」

プロシュートに肩を抱かれてナマエは放心状態のままフラフラと行っちまった。
一応仲間として、ダチとして、ナマエの恋は応援してやるが、プロシュートの家に入り浸ってシェアハウスに帰って来なくなるのは寂しいかもな。それにナマエがプロシュートと喧嘩なんかしたら、絶対ナマエの肩を持っちまうだろうし。仕事もやりにくくなりそうだ。
そう思うと、ナマエとプロシュートをくっ付けるのは愚作な気がしてきたな。プロシュートにはナマエが気がある、って言っちまったし、余計なことをしたかもしれねえ。

「おい、ギアッチョ。付き合え」

プロシュートに負けたらしいホルマジオが機嫌の悪そうにしてオレのところへ来て腕を掴んでダーツボードの方まで引っ張ってきた。

「いいか?ブル、トリプル、アウトボードはマイナス47点でトビ終了。47点先取で勝ち。4ターンでな」

「いつものかよ」

ダーツにそんなルールはなく、ホルマジオの作ったルールだ。
付き合ってられねえから適当にダーツを投げると、ボードの中央の円内に刺さった。
ダーツは上手くねェが、どうでもいい時に限って当たるもんだな。

「……ブルだ。わざとか?」

「下手で悪かったなァァァ〜。おい、メローネ帰るぞ。メローネ……?」

バーにはメローネの姿はなく、いつの間にか帰ったみたいだった。しゃーねーからひとりでバーを出た。



*



「ねえ、やばいの、ギアッチョ!最悪なの!だから早く迎えに来て。朝からまたプロシュートとセックスなんてしたくないから助けに来て!今すぐ!」

「ああ……わかったから叫ぶなよォォ……」

ナマエがまだ日も昇っていねえ時間に電話してきやがった。寝そうになるのを我慢しながら、仕方なくナマエに呼ばれた場所まで車で迎えに行ってやれば、車内で仲間との性交渉の話をされて最悪な気分になった。

「こんなにセックスが合わない人は初めて!プロシュートってどうみたって上手な人でしょ?そう期待するよね?なのに、アレは本当……あんなに場所移動したり、体位変えられたりしたら私、イけない……!それにキッチンでした時なんか、私、キッチンラックに掴まらせられてた!フライパンと一緒にぶら下がってたの!」

「頼むから仲間との情事は聞かせるなよォ……」

「あんなにかっこよくて優しくて良い人なのに、セックスは駄目だなんて最早犯罪!はあ……私、もうプロシュートに顔合わせられない……!ああ、だから仕事仲間との恋愛は避けてたのに……!私の馬鹿馬鹿!」

「だりィ」

ナマエのうるせェ独り言に付き合わせられながらもシェアハウスに着いた。
そのままベッドに寝転んで寝直そうとすれば、ナマエがクッションを抱いてオレの隣に寝そべる。

「プロシュートが朝起きて私がいなかったらどう思うかな?」

「さァな。案外あっちもナマエとは合わねェとか思ってたりしてな。だから、さっさと部屋に戻って寝ろよォ」

「私と合わない?プロシュートの方が合わせようとしないんじゃない?だってあの人、唇の皮が剥けるくらいキスしてきて……」

「うるせェェ……」

うつ伏せになって枕を頭の上に乗せて耳を塞いだ。

「まあ、正直いうとキスの回数は多過ぎるけど、内容自体は最高だった……舌遣いとかもう背筋がぞくぞくしちゃうくらい良くて……それに声も匂いも好き……顔は近くで見ても、下から見てもかっこよくて完璧だし、ため息が出る程なの。スタイルいいし、手も大っきくて……それに真面目で誠実で、仲間からの評価も高いでしょ?男からの評価が高い人って貴重なのに、セックスは最低って罪じゃない?」

流石に無視をした。前まで知らねェ男の話だったからよかったが、仲間の性関連の話はキツいし、今は朝の5時だ。いい加減オレは眠りたい。

「ギアッチョ、ナマエ!」

最悪なことにメローネが朝帰りしてきたのか、メローネの弾んだ声と共にベッドに衝撃が走り、ベッドの沈み具合と気配で隣に寝転んで来たのがわかった。
今、オレはナマエとメローネに挟まれていて圧迫感がすげー。いつものことだが、朝だけはやめて欲しいもんだ。

「聞いてくれ。彼女が妊娠した」

「マジかよ」

「うっそ!おめでとう!メローネの赤ちゃんとか絶対可愛い!」

流石のオレもすっかり眼が覚めた。



*



あれからナマエは考え直して、プロシュートともう一度試してみる、とプロシュートの家に行ったきり帰ってこなかった。メローネも同様、妊娠した彼女の家に籠もっているようだった。
ふたりがいない生活は静かでよかったが、人の気配も声もしない部屋でひとりでいるのは、ほんの少しは寂しいかもしれねえ。
数日後、ナマエに迎えに来いと呼び出され、ナマエが準備を終えて出てくるまでプロシュートの家の前の車ン中で、運転席のすぐ横に立っているプロシュートと話していた。

「ナマエの男遍歴と職歴を教えてくれ」

「何故そんなこと聞くんだァ〜?」

「……待ってくれ」

プロシュートは車の前を通って、勝手に助手席のドアを開けて乗って来た。

「あいつ、まるでポルノスターだ。喘ぎ声はうるせェし、腰の動きはあそこが曲がるかと思う程激しいしよ、表情から仕草までもポルノ風だ。それに足を使って、あんな……」

「やめろよ。聞きたくねェェ……」

仲間からダチとの性行為の話をされるのはマジでキツい。耳を塞いだが、「塞ぐな」と、プロシュートに手を払いのけられた。

「いいから、聞けよ。とにかく、ナマエは強烈過ぎてオレとは合わねえ。元ポルノスターと疑うレベルだ。過去付き合ってた男が男優だったとかか?」

「ンなわけねーだろ!役所とか金融関連勤めで真面目な男ばかりだったぜ!」

「本当か?なら、オレとの話はしたか?あいつの喘ぎ声がマジに大袈裟で馬鹿にされてる気さえしてるんだが」

「聞くなよォ……仲間とそんな話したくねーよ」

「ってことは聞いてんじゃあねーか?だったら言えよ」

「言えねェェ……」

「まさか文句言ってたのか……?」

「い、言ってねェーよ!」

「言ってんじゃあねーか!」

ナマエの為に嘘をついてやったが、噛んじまったせいで速攻でバレた。悪いな、ナマエ。

「クソッ!このままナマエを返してたまるか!ナマエが本心からオレとのセックスがイイと言うまで返さねーぞ!」

プロシュートは助手席から出ていくと、勢いよくドアを閉めた。

「おい!オレはナマエの頼みで迎えに来たんだぜッ!?」

「オレが返さないって決めたからにゃあ、返さねーよッ!とっとと帰りやがれッ!」

「なんなんだよッ!おまえらはよォォォ〜ッ!」

互いの性交渉のあり方について文句を言いつつ、ちゃんと互いに歩み寄ろうとしてんじゃあねーか。ナマエもプロシュートも。お似合いだ、お似合い。めんどせェお似合いカップルの誕生だ。
付き合ってられなくて、車を出した。漸くプロシュートの家から出てきたナマエが走って追いかけてきたが、知らねェ振りして家に真っ直ぐ帰った。



*



「なんでいんだよ……」

数日後の朝、顔を洗いに洗面所に行くと、派手な柄のスラックスに黄色のシャツを着て、髪を下ろした状態のプロシュートが歯を磨いていた。
プロシュートは口を濯ぐと、髪を整えながら鏡越しにオレを見てくる。鏡越しでもプロシュートは男前だ。腹が立つ。

「ナマエがギアッチョがいないと寂しいらしいから、オレもこっちにいさせてもらう」

プロシュートはヘアゴムで一番上の部分の後ろ髪をいつものように小さく一つにまとめ、その下の髪も同様に一部器用にすくってゴムで縛っては鏡で確認している。

「いやいやいや……理由になってねーだろーが。おめーは来る必要ないだろ」

ナマエが寂しいと思ってくれてんのはダチとして嬉しいし、オレもひとりで寂しくてデート相手の家に転がり込む日もあったが、プロシュートがシェアハウスにいるのは無理だ。気が休まらねェェ。

「ちょうどメローネの部屋も空いてるところだし、オレがここに引っ越して来てもいいか?」

「はあああァッ!?」

「冗談だ。オレもひとりの時間は欲しいからな。何日かしたら帰るぜ──なあ、聞けよ。ナマエと直接話し合ってオレの悪いところは直した。それでナマエは改善後のオレとのセックスに満足しているようだ。ナマエの方も煩く喘がなくなったし、足を使ったり、ヤベーところ舐めたり変なテクニックを自慢げにすることがなくなって満足している。ナマエはポルノスター引退だ」

「だから、聞きたくねーって!この家で変なことしたら即追い出すぜ!」

「保証はできねえが、善処する」

「善処する気ゼロだろ……」

人ン家でオレのダチとヤる気満々の男にはもう何を言っても聞かないだろう。
まだ髪を弄っているプロシュートが邪魔くさくて、洗面所を出てキッチンに顔を洗いに行くと、ナマエが朝食用にマチェドニア──多種のカットフルーツに砂糖やレモンなどを加えたもの──を作ろうとしているのか、鮮やかな色の果物の詰まった籠を丸ごと水洗いしていた。

「おい、ナマエ」

「おはよう、ギアッチョ。あなたがいなくて寂しかった」

「おめーの彼氏を追い出せ」

「なんで?」

「異性連れ込み禁止ルールだ」

「でも、それって身バレ防止の為でしょ?身内ならいいよね?」

「よくねェよ」

「やだ」

「なら、ふたりとも出て行けよ」

「それもやだ。あなたにしか話せないこともあるから、お願い。冷たいこと言わないで?」

切なそうな眼をしてオレを見つめてくるナマエは可愛いっちゃあ、可愛いが、オレの今のデート相手の方がずっと可愛い。つまりは、少し譲歩はしてやっていいレベルの可愛さだ。

「いいか?この家で性交渉もイチャつきも禁止だぜ。性交渉の話も厳禁だ。寝るときは別々にしろよな」

「そんなあ……」

「オレかプロシュートを選ぶことだな」

「そんなのあなたを選ぶに決まってるじゃない!」

「やっぱりな……は?」

ナマエならてっきりプロシュートを選ぶと思ったが、オレを選ぶのか。

「プロシュートのことは好きだけど、まだお試し期間中だし……ギアッチョは大事な友達だから当然ギアッチョの方が上!だから、ギアッチョの言うことを優先するよ。勿論、メローネもプロシュートより上!だって、ふたりのこと大好きで信頼してるし、ふたりにしか話せないこといっぱいあって……あ」

「その『あ』はなんの『あ』だ?」

突然顔を硬直させたナマエの視線の先を振り返って見ると、プロシュートがいて、怒ったように眉を上げ、キッチリ七三に分けて払った前髪の下の額にはシワが寄っている。

「オレはギアッチョとメローネより下なのか?」 

「ち、違うの!そういうことじゃあなくて……!」

「下ってことなんだな!」

「違うの!」

「勘弁してくれェェ……」

ふたりの言い合いに呆れたように呟いたが、本当は内心喜んでいた。ナマエと喧嘩してプロシュートが暫く出て行ってくれれば、こっちとしては助かる。
恋のキューピッドみてーなことをしてふたりをくっつけちまったが、このふたりがくっつくのはやっぱし、やっかいだ。勿論、ナマエの幸せは願っているし、プロシュートはいい男だが、カップルとしてのふたりに家にいられると困る。オレの生活の平穏の為にもプロシュートにはこの家にいて欲しくねェ。

「暫くひとりにさせろ」

「プロシュート!待って!」

玄関の方へ向かうプロシュートに、帰れ帰れ、と内心煽っていると、プロシュートは玄関の手前で左側へ折れて、メローネの部屋に引っ込んで鍵を掛けやがった。

「帰れよ……」

ナマエがギャーギャー言いながらメローネの部屋の扉を叩くのを尻目に、とりあえず、前向きに洗面所が空いたことを喜んで顔を洗いに行くと、洗面台の物置きスペースに歯ブラシにコップ、歯磨き粉と用途の違う整髪料2種類が増えていて、いつまでいる気なんだよ、と握り拳で壁をブン殴っても気が収まらず、ホルマジオを呼んでダーツバーに飲みに行った。
店主にいつものダーツセットを借りて、酒を用意して貰っている間にホルマジオとルール確認した。

「あれをプロシュートの顔に見立てて、投げてやるぜ。200点先取な!」

「いや、いつものオレルールじゃあねえーとやんねー」

「ブルなしじゃあ、気持ちよくねーんだがよォ、しゃあねーな!」

とりあえず、47点にすんのに20点のダブルを狙ったが、ダーツがまたど真ん中に刺さっちまった。

「そんなにオレルールが嫌なのか?」

「下手で悪かったなああ!」

 
 
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