philia o eros
※性悪夢主
※暗チに嫌われる
ナマエは小柄な美人だ。男を誘うには十分過ぎる程の豊かな体の曲線がある一方で、背が低いという致命的な欠点があった。ただ背の低さによるスタイルの悪さは10センチ以上あるピンヒールを履きこなすことでなんとかカバーできていた為に、美人という印象をオレらに与え続けられたが、どうにも性格だけは誤魔化しがきかなかった。ナマエは顔を見たり、声を聞いたりしなければ、ブン殴りたくなる程の性悪女だった。
ナマエにとって男は玩具や道具で、自分を満足させる為に言いなりにさせ、言うことを聞かないやつには他の男を使って力づくで従わせていた。その癖飽きたらなんの未練もなく捨てるものだから、隔週で恨みを買った相手に殺されかけていた。勿論、自身のスタンド能力で返り討ちにしているようだから、本人は反省することもなく、日々男を使い捨てていた。
そんなナマエもチーム内では恋愛絡みの問題を起こさねえようにオレたちには色眼を使うことはなかった。リゾットが「職場では弁えろ」と何度か言って聞かせていたからかもしれねえ。
だがある時、ホルマジオがナマエにチーム内で誰がタイプかと聞いたその瞬間、ナマエはリゾットの教えに背いた。ナマエがついにオレたちにまでその悪女っぷりを発揮してきやがった。
「私の好きなタイプは強くて、私の為に死ねる男よ。だからこのチームにはいないわ」
外で聞けば、思わず振り向いちまうような色っぽい、低めの息漏れ声で、ナマエは最悪なことを言ってのけた。
「ナマエくらいイイ女なら、自分の命を投げ打つぜ?な、イルーゾォだってそうだろ?」
「一発ナマでできんなら、熊とサシで戦ってもいいぜ。プロシュートはどうだよ?」
「オレはナマエが頭下げたら抱いてやる」
「うぜー」
「プロシュートがうぜーのは珍しくイルーゾォに同意だな。オレはナマエの為ならピラニアの池に飛び込むぜ」
「口ならどうとでもいえるわよ。私を抱きたいならチーム内で殺し合ってよ。最後に生き残った人なら誰でもいいわ。一番強い人に抱かれたい」
ナマエの言葉に、その場にいた全員が口を閉ざした。
仲間を失った過去を持つオレたちにとっては今の言葉は、例え冗談だったとしても聞き流すことはできなかった。それに、ナマエは本気で言っているように見えたから尚のことだった。
その日から、誰もナマエを挨拶代わりに褒めたり口説いたりしなくなるどころか、仕事以外では無視をした。話しかけられたら適当に一言は返してやるが、一切眼を合わせなかった。ナマエと余計な交渉を持つと、ロクなことにならないと気づいたからだ。
ナマエも漸く自分の愚かな発言に気づいたのか、「この前のは冗談なのに、なんで皆冷たくするの?」と狼狽たことがあったが、そんなことは一度きりで、それ以降はアジトや仕事ではすまし顔で持ち前の気の強さを崩すことはなかった。
*
明くる日、アジトでの集会後に酒を取りに貯蔵庫に行くと、ナマエがダンボールの上に座って泣いていた。
あの悪魔のナマエが涙を流していることに驚いて、扉を開けたまま言葉を失っていると、「出て行って!」とオリーブの缶詰を投げつけられたから反射的に頭を傾げて避けた。オレじゃあなかったら顔面に食らっていただろう。
「おい、この顔を傷つける気か?」
「この勘違いブロンド男!今すぐ出て行って!」
「出て行かねェよ」
泣いている女、特に仲間を放っておくわけにはいかなかった。ナマエは最低な女だとは思っているが、一応は仲間だ。それに初めて見るナマエの弱さに興味を持った。オレの知っているナマエは、本当に「悪女」と形容されるべき女なのかと。
扉を閉めると、濁った光を発する裸電球の付いた部屋は薄暗く、オレの脚にナマエの体がくっ付くくらいに狭かった。
近くで感じるナマエの体は思った以上に小せえ。顔の作りも小さく、涙を拭ってオレを睨みつける、真っ赤に充血した眼は鋭いが、全体的に小ささを感じる所為か、いかんせん怖くはない。子猫に威嚇されているようなもんだ。
「なに?なんで出ていかないの?」
「オメーが泣いてるからだろ。オレが話を聞いてやる」
「放っておいて!私のこと無視してたくせに!」
「まさかそんなことで泣いてるのか?」
あの性悪女のナマエがそんなことで泣くとは思わなかった。正直男に性病でも移されたか、妊娠でもさせられたかのどちらかだと思っていた。
「これが私なのっ……!本当は弱くて、仲間に無視されたら辛いのっ……!私には友達も家族もいないからっ……仲間が全てなのにっ……仲間しかいないのにっ……!」
「意外と可愛いとこあんじゃあねーか」
ナマエの気の強さは、弱さを隠す為のものであることがわかり、初めてナマエに好感を持てた気がした。
ナマエと視線を合わせるようにその場に片膝をつくと、ナマエの震える息遣いが聞こえてくる程顔が近くなった。ナマエは近くで見ても美しい顔立ちをしている。個々のパーツの美しさは勿論、その配置には文句の付けようがなく、肌は陶器のような色の白さと滑らかさで、見たところ毛穴が見当たらない。唇は泣いている今も口角が上がっていて濡れたように潤いがあり、綺麗なカーブを描いている。
ナマエの涙に濡れて顔に張り付いた髪を耳の後ろの方へ掻き分けてやると、ナマエは不思議そうに瞳を丸くさせてオレを見つめたまま黙りこんだ。
「やっぱ、綺麗な面してんな」
「やっぱ?私は生まれながらに美貌に恵まれてるのっ!今更褒めても遅いわ!私のこと皆と一緒に無視したくせに……!」
可愛いところがあると言えば、この調子だ。ナマエは傲慢で強気で、それでいて繊細なところがあるようだ。
「そりゃあ、あんなひでェこと言ったからな。オレらはオメーをトラブルメーカーだと判断して関わらないようにしていただけだ。無視っつっても話しかけてきたら返してやっただろ?」
「さっき、『今何時?』って返しやすい質問したら、『眼ん玉落っことしたのか?』って言ったくせに……」
「そりゃあ、目の前に掛け時計があるのに聞いてきたからだろ。それで泣いたのか?」
「ううん……ホルマジオがそれ聞いて笑って……他にも何人か笑ってたわ」
「それで泣いたのか?」
「泣いてない!誰かが『男になんでも任せているから時計も読めねーんだろ』って笑って……」
「で、泣いたのか?」
「……周りを見渡したら、皆私の話をしてるのに誰も私のこと見てくれなくて、孤独を感じて……それで泣きたくなったの……だから、慰めるんじゃあなくてもう無視しないで。私を見て……お願いだから、ちゃんと眼を見て会話をして。前に言った暴言は取り消すから……」
未だに涙に頬や唇を濡らすナマエに、なんとなくキスをしたくなった。癒してやろうとか、そんな可愛げのあるものではなく、ただナマエが欲しくなった。たった今気がついたが、普段とびきり気の強い女が泣く姿にオレは堪らなく興奮するみてえだ。
顔を近づけて、唇がギリギリ触れない距離でナマエの眼を見つめると、ナマエもオレを見つめたまま、唇を震わせていた。荒い息が薄く開いた唇から漏れている。
ナマエの小せェ頭に手を添え、唇を重ねた。塩辛い涙の味がするが、げんなりするどころか余計に興奮が増すだけだった。
吸い付くようなキスと、食むようなキスをナマエの上唇と下唇に落とせば、ナマエは両手でオレの肩にしがみついてきた。
顔を傾け、緩んだナマエの唇の間に舌を挿し込み、口内で絡ませた舌を外に誘導して吸い上げれば、口内にナマエの唾液が流れ込んできて、喉の奥へと生温かく滑り落ちていく。
──唾液の多い女だ。
見た目とは裏腹に、犬のような浅ましさをナマエから感じると、スラックスを突き上げるような強張りを感じた。
「立てよ」
唇を離し、ナマエの腕を引っ張り上げて無理やり立たせた。嫌がってんのか迷ってんのか、出入口に視線を向けるナマエを逃さねえように、邪魔なダンボールを端に蹴飛ばし、ラックにナマエを押し付けた。
「何するの……?」
「わかってんだろ?」
「わかってるけど……仲間とこういうことするのは……」
「オメーが欲しい。他の男全員と別れて、オレの女になれよ。他のヤツから庇ってやるし、隔週で送られてくる刺客からも守ってやる。高ェ買い物はしてやれねーが、愛は幾らでもくれてやる」
ナマエならその価値はあると思い、口説いた。ナマエはオレの言葉が理解できてねえのか、瞳を大きく見開いたまま揺らし、困っているような態度を見せる。
「なんで……?私、性格悪いわよ?」
「知ってる。大そうな理由なんてねえ。ただオメーが欲しい。心も身体も全部オレに寄越せよ」
「……私、絶世の美女よ?そんなに私が欲しいなら跪いて靴を舐めて。そうじゃなきゃ信用できない」
「オメー、さっきまで泣いてただろ……」
オレに言い寄られて調子づくナマエに、体の関係を持つことの不安を感じたが、こんなナマエを屈服させることの悦びを考えれば、そんな不安は大したことじゃあねえ。
「いい?私は泣いてなかった。泣いたって誰かに言ったら……」
「うるせえ。黙ってろ」
ナマエの小せェ顎を掴んで唇を塞いだ。どんな反応をするのかと思えば、ナマエは中途半端に抵抗しながらもオレを受け入れ、終わった直後には放心状態になって床にへたり込んだ。
相性はまあ、悪くはねえ。ナマエの自分から動くことのない完全の受け状態は気に入った。オレは女に責められるのが大っ嫌いで、一方的に抱くのが好きだからちょうどいい。
ナマエの手を引いて貯蔵庫を出れば、廊下を歩くホルマジオとバッタリ会った。ホルマジオはオレたちを交互に見ると、神妙な顔をした。
「……熊とピラニアどっちだ?」
「ナマエが頭を下げた」
「おめー、マジでうぜーヤツだな」
「私、頭下げてないわよ!この人が……」
「ナマエ、オメーは黙ってろ。ホルマジオ、今後はナマエを無視すんじゃあねーぞ。こいつは冗談のセンスが絶望的にないだけだ」
「あァン?ナマエの手の平の上でコロコロされてんのか?騙されてんだろ」
「言ってろ。ナマエ、行くぞ」
「うん……」
大人しくオレに従うナマエを連れて外に飯を食いに行く途中、ナマエの捨てた男たちが徒党を組んで不意打ちで襲ってきやがった。
なんとか全員始末したが、ナマエがスタンド能力を使ってオレを庇ったのが気に入らなかった。
「オメーが何もしなくとも、オレひとりでやれた」
「あ、そう。死なれちゃあ困るから助けてあげただけよ」
「そう簡単に死ぬかよ」
「……言ったでしょ?私の好きなタイプは強くて、私の為に死ねる男よ。だからこのチームにはいないの」
「何が言いてえ?」
「言い方が悪かったかも。チーム内で私の為に本当に死ねる男がいたら、その人とは付き合えない。私、皆のことが大事だから死なれたら困るわ」
「言ってること全然違ェじゃあねーかッ!もっと言葉選べよッ!なんであんなひでーこと言ったんだよ?」
「本気に好きになられて命を投げ出されたら困るから……嫌な女だな、って思われたくて……だから、あなたも私に本気にならないで。大事な仲間だから。仲間はひとりも失いたくないわ」
辛そうに眉を翳らせるナマエを見て、オレの思っていた通り、ナマエに「悪女」という形容は正しくない気がした。ナマエをもっと的確な言葉で形容すると──
「稀に見る傲慢で可哀想な女だな」
「そうよ。これが私。だから、これまで通りの関係でいましょ?」
「断る。傲慢で可哀想な女は好きだぜ。オメーこそ、オレに本気になって命を投げ出すんじゃあねーぞ」
「あなたが傲慢な男ってこと忘れてた……」
「思い出してくれて何よりだ。それでオメーはどうしたい?オレとのことは忘れんのか?」
「……わからないわ。あなたと付き合ってあげてもいいけど深入りはしたくない」
「その答えで十分だ」
ナマエの細い腰を抱き寄せ、漸く目的のリストランテの付近までつくと、最悪なことに、以前何回か体の関係を持ったことのある女に襲われかけた。すぐさま片付けたが、ナマエの疑うような眼が痛く、マジに余計なことをしてくれたと女を恨んだ。
「あなたも命狙われてるの?」
「オレはオメーとは違う。女は大事にするが、何故か隔月で襲われる」
「振り方が下手くそなんじゃあないの?教えてあげるわよ?」
「いらねえ。隔月が隔週になるだろ。それに今後は互いに襲われる心配はなくなるだろ?互いに他の異性とは遊ばなくなるわけだからな」
「どうかしら?」
含みのあるナマエの言い方に、やっぱ悪女なんじゃあねーかと認識を改めた。
※暗チに嫌われる
ナマエは小柄な美人だ。男を誘うには十分過ぎる程の豊かな体の曲線がある一方で、背が低いという致命的な欠点があった。ただ背の低さによるスタイルの悪さは10センチ以上あるピンヒールを履きこなすことでなんとかカバーできていた為に、美人という印象をオレらに与え続けられたが、どうにも性格だけは誤魔化しがきかなかった。ナマエは顔を見たり、声を聞いたりしなければ、ブン殴りたくなる程の性悪女だった。
ナマエにとって男は玩具や道具で、自分を満足させる為に言いなりにさせ、言うことを聞かないやつには他の男を使って力づくで従わせていた。その癖飽きたらなんの未練もなく捨てるものだから、隔週で恨みを買った相手に殺されかけていた。勿論、自身のスタンド能力で返り討ちにしているようだから、本人は反省することもなく、日々男を使い捨てていた。
そんなナマエもチーム内では恋愛絡みの問題を起こさねえようにオレたちには色眼を使うことはなかった。リゾットが「職場では弁えろ」と何度か言って聞かせていたからかもしれねえ。
だがある時、ホルマジオがナマエにチーム内で誰がタイプかと聞いたその瞬間、ナマエはリゾットの教えに背いた。ナマエがついにオレたちにまでその悪女っぷりを発揮してきやがった。
「私の好きなタイプは強くて、私の為に死ねる男よ。だからこのチームにはいないわ」
外で聞けば、思わず振り向いちまうような色っぽい、低めの息漏れ声で、ナマエは最悪なことを言ってのけた。
「ナマエくらいイイ女なら、自分の命を投げ打つぜ?な、イルーゾォだってそうだろ?」
「一発ナマでできんなら、熊とサシで戦ってもいいぜ。プロシュートはどうだよ?」
「オレはナマエが頭下げたら抱いてやる」
「うぜー」
「プロシュートがうぜーのは珍しくイルーゾォに同意だな。オレはナマエの為ならピラニアの池に飛び込むぜ」
「口ならどうとでもいえるわよ。私を抱きたいならチーム内で殺し合ってよ。最後に生き残った人なら誰でもいいわ。一番強い人に抱かれたい」
ナマエの言葉に、その場にいた全員が口を閉ざした。
仲間を失った過去を持つオレたちにとっては今の言葉は、例え冗談だったとしても聞き流すことはできなかった。それに、ナマエは本気で言っているように見えたから尚のことだった。
その日から、誰もナマエを挨拶代わりに褒めたり口説いたりしなくなるどころか、仕事以外では無視をした。話しかけられたら適当に一言は返してやるが、一切眼を合わせなかった。ナマエと余計な交渉を持つと、ロクなことにならないと気づいたからだ。
ナマエも漸く自分の愚かな発言に気づいたのか、「この前のは冗談なのに、なんで皆冷たくするの?」と狼狽たことがあったが、そんなことは一度きりで、それ以降はアジトや仕事ではすまし顔で持ち前の気の強さを崩すことはなかった。
*
明くる日、アジトでの集会後に酒を取りに貯蔵庫に行くと、ナマエがダンボールの上に座って泣いていた。
あの悪魔のナマエが涙を流していることに驚いて、扉を開けたまま言葉を失っていると、「出て行って!」とオリーブの缶詰を投げつけられたから反射的に頭を傾げて避けた。オレじゃあなかったら顔面に食らっていただろう。
「おい、この顔を傷つける気か?」
「この勘違いブロンド男!今すぐ出て行って!」
「出て行かねェよ」
泣いている女、特に仲間を放っておくわけにはいかなかった。ナマエは最低な女だとは思っているが、一応は仲間だ。それに初めて見るナマエの弱さに興味を持った。オレの知っているナマエは、本当に「悪女」と形容されるべき女なのかと。
扉を閉めると、濁った光を発する裸電球の付いた部屋は薄暗く、オレの脚にナマエの体がくっ付くくらいに狭かった。
近くで感じるナマエの体は思った以上に小せえ。顔の作りも小さく、涙を拭ってオレを睨みつける、真っ赤に充血した眼は鋭いが、全体的に小ささを感じる所為か、いかんせん怖くはない。子猫に威嚇されているようなもんだ。
「なに?なんで出ていかないの?」
「オメーが泣いてるからだろ。オレが話を聞いてやる」
「放っておいて!私のこと無視してたくせに!」
「まさかそんなことで泣いてるのか?」
あの性悪女のナマエがそんなことで泣くとは思わなかった。正直男に性病でも移されたか、妊娠でもさせられたかのどちらかだと思っていた。
「これが私なのっ……!本当は弱くて、仲間に無視されたら辛いのっ……!私には友達も家族もいないからっ……仲間が全てなのにっ……仲間しかいないのにっ……!」
「意外と可愛いとこあんじゃあねーか」
ナマエの気の強さは、弱さを隠す為のものであることがわかり、初めてナマエに好感を持てた気がした。
ナマエと視線を合わせるようにその場に片膝をつくと、ナマエの震える息遣いが聞こえてくる程顔が近くなった。ナマエは近くで見ても美しい顔立ちをしている。個々のパーツの美しさは勿論、その配置には文句の付けようがなく、肌は陶器のような色の白さと滑らかさで、見たところ毛穴が見当たらない。唇は泣いている今も口角が上がっていて濡れたように潤いがあり、綺麗なカーブを描いている。
ナマエの涙に濡れて顔に張り付いた髪を耳の後ろの方へ掻き分けてやると、ナマエは不思議そうに瞳を丸くさせてオレを見つめたまま黙りこんだ。
「やっぱ、綺麗な面してんな」
「やっぱ?私は生まれながらに美貌に恵まれてるのっ!今更褒めても遅いわ!私のこと皆と一緒に無視したくせに……!」
可愛いところがあると言えば、この調子だ。ナマエは傲慢で強気で、それでいて繊細なところがあるようだ。
「そりゃあ、あんなひでェこと言ったからな。オレらはオメーをトラブルメーカーだと判断して関わらないようにしていただけだ。無視っつっても話しかけてきたら返してやっただろ?」
「さっき、『今何時?』って返しやすい質問したら、『眼ん玉落っことしたのか?』って言ったくせに……」
「そりゃあ、目の前に掛け時計があるのに聞いてきたからだろ。それで泣いたのか?」
「ううん……ホルマジオがそれ聞いて笑って……他にも何人か笑ってたわ」
「それで泣いたのか?」
「泣いてない!誰かが『男になんでも任せているから時計も読めねーんだろ』って笑って……」
「で、泣いたのか?」
「……周りを見渡したら、皆私の話をしてるのに誰も私のこと見てくれなくて、孤独を感じて……それで泣きたくなったの……だから、慰めるんじゃあなくてもう無視しないで。私を見て……お願いだから、ちゃんと眼を見て会話をして。前に言った暴言は取り消すから……」
未だに涙に頬や唇を濡らすナマエに、なんとなくキスをしたくなった。癒してやろうとか、そんな可愛げのあるものではなく、ただナマエが欲しくなった。たった今気がついたが、普段とびきり気の強い女が泣く姿にオレは堪らなく興奮するみてえだ。
顔を近づけて、唇がギリギリ触れない距離でナマエの眼を見つめると、ナマエもオレを見つめたまま、唇を震わせていた。荒い息が薄く開いた唇から漏れている。
ナマエの小せェ頭に手を添え、唇を重ねた。塩辛い涙の味がするが、げんなりするどころか余計に興奮が増すだけだった。
吸い付くようなキスと、食むようなキスをナマエの上唇と下唇に落とせば、ナマエは両手でオレの肩にしがみついてきた。
顔を傾け、緩んだナマエの唇の間に舌を挿し込み、口内で絡ませた舌を外に誘導して吸い上げれば、口内にナマエの唾液が流れ込んできて、喉の奥へと生温かく滑り落ちていく。
──唾液の多い女だ。
見た目とは裏腹に、犬のような浅ましさをナマエから感じると、スラックスを突き上げるような強張りを感じた。
「立てよ」
唇を離し、ナマエの腕を引っ張り上げて無理やり立たせた。嫌がってんのか迷ってんのか、出入口に視線を向けるナマエを逃さねえように、邪魔なダンボールを端に蹴飛ばし、ラックにナマエを押し付けた。
「何するの……?」
「わかってんだろ?」
「わかってるけど……仲間とこういうことするのは……」
「オメーが欲しい。他の男全員と別れて、オレの女になれよ。他のヤツから庇ってやるし、隔週で送られてくる刺客からも守ってやる。高ェ買い物はしてやれねーが、愛は幾らでもくれてやる」
ナマエならその価値はあると思い、口説いた。ナマエはオレの言葉が理解できてねえのか、瞳を大きく見開いたまま揺らし、困っているような態度を見せる。
「なんで……?私、性格悪いわよ?」
「知ってる。大そうな理由なんてねえ。ただオメーが欲しい。心も身体も全部オレに寄越せよ」
「……私、絶世の美女よ?そんなに私が欲しいなら跪いて靴を舐めて。そうじゃなきゃ信用できない」
「オメー、さっきまで泣いてただろ……」
オレに言い寄られて調子づくナマエに、体の関係を持つことの不安を感じたが、こんなナマエを屈服させることの悦びを考えれば、そんな不安は大したことじゃあねえ。
「いい?私は泣いてなかった。泣いたって誰かに言ったら……」
「うるせえ。黙ってろ」
ナマエの小せェ顎を掴んで唇を塞いだ。どんな反応をするのかと思えば、ナマエは中途半端に抵抗しながらもオレを受け入れ、終わった直後には放心状態になって床にへたり込んだ。
相性はまあ、悪くはねえ。ナマエの自分から動くことのない完全の受け状態は気に入った。オレは女に責められるのが大っ嫌いで、一方的に抱くのが好きだからちょうどいい。
ナマエの手を引いて貯蔵庫を出れば、廊下を歩くホルマジオとバッタリ会った。ホルマジオはオレたちを交互に見ると、神妙な顔をした。
「……熊とピラニアどっちだ?」
「ナマエが頭を下げた」
「おめー、マジでうぜーヤツだな」
「私、頭下げてないわよ!この人が……」
「ナマエ、オメーは黙ってろ。ホルマジオ、今後はナマエを無視すんじゃあねーぞ。こいつは冗談のセンスが絶望的にないだけだ」
「あァン?ナマエの手の平の上でコロコロされてんのか?騙されてんだろ」
「言ってろ。ナマエ、行くぞ」
「うん……」
大人しくオレに従うナマエを連れて外に飯を食いに行く途中、ナマエの捨てた男たちが徒党を組んで不意打ちで襲ってきやがった。
なんとか全員始末したが、ナマエがスタンド能力を使ってオレを庇ったのが気に入らなかった。
「オメーが何もしなくとも、オレひとりでやれた」
「あ、そう。死なれちゃあ困るから助けてあげただけよ」
「そう簡単に死ぬかよ」
「……言ったでしょ?私の好きなタイプは強くて、私の為に死ねる男よ。だからこのチームにはいないの」
「何が言いてえ?」
「言い方が悪かったかも。チーム内で私の為に本当に死ねる男がいたら、その人とは付き合えない。私、皆のことが大事だから死なれたら困るわ」
「言ってること全然違ェじゃあねーかッ!もっと言葉選べよッ!なんであんなひでーこと言ったんだよ?」
「本気に好きになられて命を投げ出されたら困るから……嫌な女だな、って思われたくて……だから、あなたも私に本気にならないで。大事な仲間だから。仲間はひとりも失いたくないわ」
辛そうに眉を翳らせるナマエを見て、オレの思っていた通り、ナマエに「悪女」という形容は正しくない気がした。ナマエをもっと的確な言葉で形容すると──
「稀に見る傲慢で可哀想な女だな」
「そうよ。これが私。だから、これまで通りの関係でいましょ?」
「断る。傲慢で可哀想な女は好きだぜ。オメーこそ、オレに本気になって命を投げ出すんじゃあねーぞ」
「あなたが傲慢な男ってこと忘れてた……」
「思い出してくれて何よりだ。それでオメーはどうしたい?オレとのことは忘れんのか?」
「……わからないわ。あなたと付き合ってあげてもいいけど深入りはしたくない」
「その答えで十分だ」
ナマエの細い腰を抱き寄せ、漸く目的のリストランテの付近までつくと、最悪なことに、以前何回か体の関係を持ったことのある女に襲われかけた。すぐさま片付けたが、ナマエの疑うような眼が痛く、マジに余計なことをしてくれたと女を恨んだ。
「あなたも命狙われてるの?」
「オレはオメーとは違う。女は大事にするが、何故か隔月で襲われる」
「振り方が下手くそなんじゃあないの?教えてあげるわよ?」
「いらねえ。隔月が隔週になるだろ。それに今後は互いに襲われる心配はなくなるだろ?互いに他の異性とは遊ばなくなるわけだからな」
「どうかしら?」
含みのあるナマエの言い方に、やっぱ悪女なんじゃあねーかと認識を改めた。