ladro di sposa
パールホワイトの、光沢のあるドレスを纏ったナマエは予想通り綺麗だった。本当は写真で見るだけに留めようと思っていたが、本人が来て祝福して欲しいっつーから仕方なく来てやった。今日はナマエの結婚式だった。
式場はこじんまりした、草木や花に囲まれたチャペルで列席者用の長椅子は窮屈だった。ナマエは今、祭壇にいる神父の前に立ち、その隣にはオレ以外の男が立っている。
何故ナマエの隣にいるのがオレじゃあねーんだ?ナマエと同じパールホワイトのタキシードを着ているのがオレじゃあなくて、あいつなのはおかしいだろーが。
ナマエの凡ゆる初めては全部オレが貰った。「他の人には馬鹿にされるから」と、神と自己との関係を打ち明けた相手もオレが初めてだったはずだ。カトリックの保守派のナマエが、神を裏切って婚前にオレへ処女を捧げたのは、ナマエが神に愛されるよりも、オレに愛されることを選んだからだ。つまり、神よりオレを選んだってことだ。だが結局はオレよりもあの男を選んだってのか。
同じカトリックの信徒である新郎は童貞らしいが、オメーは童貞なんか嫌いだろう。あんだけオレとのセックスに溺れ、時間も場所も選ばずに求めてきただろーが。「あなたなしじゃあ生きていけない」なんて、泣きそうな顔で何度だってオレを求めてきただろ。なんで童貞野郎と結婚しようとしてんだよ。そいつはオメーが処女じゃあねえって、オレに全てを捧げたって知ってんのか?「私、またヴァージンになったの!」ってオレを振る時に、そーいや言ってたな。あれは冗談じゃあなくて本気か?オレの為に神を裏切った今は、新郎も裏切るのか?
「──ここに結婚の誓いを……」
神父の声に反応して、つい長椅子から立ちあがっちまい、すぐに着席した。神父や周りがオレに不審なものを見るかのような視線を投げかけ──ナマエは動揺したように瞳を揺らしている。
クソッ。何をやってんだよ、オレは。オレはナマエに未練がねえから、ナマエの幸せを願って祝いに来てやったんだ。何故さっきから未練がましくふたりを睨んでるんだ。ナマエもナマエでこんなんで動揺してんじゃあねーぞ。
ナマエはカタギだ。オレと一緒にいたら危ねえし、いつかオレが、万が一にも、ヘマしちまったらナマエはひとりになる。例え新郎が童貞野郎でも、オレといるより安全で幸せになれるはずだ。だから、さっさと誓いを立てて、誓いのキスを──。
無理だ。想像するだけで反吐が出る。オメーがオレじゃあなくて、他の誰かとキスなんて、他の誰かのもんになるなんて、オレは認めねえぞ。
「ナマエ!」
一番後ろの列席者の席にいたオレは立ち上がって、中央の通路に出た。
周りが騒めき、痛い程の視線が集まる中、ナマエのいる祭壇の方へ歩き出した。昂る気持ちを抑えるように花の散った真紅のカーペットを革靴で、確かに一歩ずつ踏みしめていく。
手を伸ばせば触れられる程ナマエの近くまで行くと、ナマエは落ち着きなく視線を泳がせ、最後には諦めたようにオレを見つめた。──オレと出会った頃と、オレを振った時と、その後と変わらない瞳で。
「ナマエ、愛している。オメーが何度オレを裏切ろうとも、神と違ってオレはオメーを見放さねえし、愛し続ける。神の代わりにオメーを守り、見守り続ける。だから、残りの人生はずっとオレの隣にいろ。神よりもオレに愛されてェなら、オレと来い」
オレの告白に、ナマエは神だけでなく、この場にいたオレ以外の全員を裏切った。
オレの手を取る花嫁を引っ張り、ヴァージンロードを逆走し、ブライダルカーを飛ばした。向かう当てはねえが、愛する女が隣にいればそれだけでよかった。無責任だ、と後でヒスられても、オレは神よりも慈悲深くナマエを愛せるから何の問題もねえ。
誰もいねえ緑の高台に車を止め、隣でさめざめと泣くナマエを、神にはできねえ方法で愛した。
「死んだらっ、魂が、天国に、いけないわっ……!」
「オレが毎日神の代わりに天国へいかせてやる」
「ばかァっ!」
ヒスって喚きながらも、髪をぐしゃぐしゃにして激しく乱れるナマエを、宣言通りに何度も天国へいかせてやった。