メビウス


「カトルね」

少女は椅子に座ったまま、カトルの方へは向かずそう言い当てた。

「どうしてそうわかるんです。ぼくは気配を消すことには長けているのに」
「なんとなく、カトルが来てくれたかなって」

持って来た紅茶をテーブルに置くと、向かいの椅子に座った。手探りで紅茶を探し、口にする彼女を見る。そう、彼女は目が見えないのだ。

「カトルの話、今日も聞かせて」
「そう面白い話ではありませんが、会議の話でも聞きますか?」
「わあ! わたし好き、十天衆の会議の話!」

カトルが今日起きたことや、会議のことや、街のことをカオに話す。これがいつしか日課になっていた。星屑の街で暮らしているカオは、自宅で鍼治療の仕事をしている。自分にできることを見つけ、決して自分を不幸だとは言わないカオがカトルは好きだ。そのことは口にしていないはずなのに、どうしてだか、見透かされているようだった。彼女には人には見えないものが見えるらしい。

「ねえカトル、もうエッセルへのお返しは決まったかしら」
「いいえまだ」

バレンタインのお返しのことをカオに相談していた。どこか人の心の中を見ているようなカオに、カトルはこういった相談することが多い。

「手作りじゃないとおかしい? 今日、頂いて食べたチョコがとてもおいしかったの。チョコにお花を添えてね。オレンジが良いわ、エッセルは明るい色が似合うもの」
「そうしましょう。何故だか、それを聞いてすぐに姉の喜ぶ顔が浮かびましたから」
「カトルにもらえるなら、誰だって喜ぶわ」

頑張ってねと、カオはカトルの両手を包むように握った。

「カオさんも、ぼ、ぼくからもらえると喜びますか」
「ええ、もちろん。カトルはセンスが良いもの」
「センス……だけですか」
「趣味も良いと思うわ」

好きだからどんなものでも貰えると嬉しい、なんて言われたかったカトルは少し残念。

「でもいちばんは、カトルが元気でいることがいちばん。怪我なく、病気なく、明るく元気で」

手のひらにカオは丸を指で描きながら唱えるようにそう言った。これはおまじないらしい。カオは願い事をする時によくこうしていた。

自分も同じ思いだと、言葉に出せなかった。カトルはグッと手のひらに描かれた丸を握りしめて、どうかいつまでも生きて欲しいと願うのだった。