せめて今だけは

「出て行ってくれないか」

 傷つけたかったわけじゃない。その感情とは裏腹に、俺の口から出る言葉は目の前の彼を傷つける。彼は目に涙を湛えながら申し訳なさそうに俯く。違う、そうじゃない、とか、ごめん、とか言いたいことはたくさんあるのに、伝えたい言葉ほど喉の奥につっかえて出てこない。ようやく絞り出した言葉は、その一言だった。

 切原赤也は良く言えば天真爛漫、悪く言えば無神経。でも決して本人に悪気があるわけではなくて、後先考えずに行動した結果、相手を怒らせたり不満を抱かせたりすることがある。怒りっぽくて喧嘩っ早いし、まあ手のかかる後輩だけれど、俺にとってもきっと部のみんなにとってもかわいい後輩であることは間違いない。
 俺が病に倒れてから、赤也は真田や蓮二と一緒によく見舞いに来てくれた。俺が好きだからって、毎回花束を抱えてきて赤也の選ぶ花は赤や黄色と派手な色が多かったから、白ばかりの病室に映えていいって褒めたら喜んでいた。いつも誰かしらと一緒に来ていたけど、いつからだったか赤也一人でも来るようになって、折り紙で鶴をつくりながらいろんな話をしてくれた。テニスの話、レギュラー陣の話、勉強や学校のこと、赤也のクラスのこと、よくもまあ話のネタが尽きないなと思うほどだった。



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ナーバスな幸村くんに辛く当たられる赤也を書きたかっただけです
書きたいところだけ書いて満足して終わってしまいました

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