「うーわ」
「あぁナマエ、おはようございます」
「通常運転かよヤベーな…」
朝、起きて着替えると居間にヤバイ奴がいた。具体的に言うと大凡そ一般家庭には無いであろう、というかある訳が無い大剣を掲げる居候が居間に居た。…物理的に頭が痛い。
しかも眉を顰める私に対していつも通りにこやかに微笑みやがった。お前、それ、お前…
「それ…なに」
「これは失礼…!何用でしょう?何処へでもお伴致します」
「コンビニ行くだけだからお前はいらない」
私の身の丈を超える程の大剣を(マジックというより魔法とでも呼ぶしかない消し方で)霧散させた奴は、手のひらを胸に当てながら居住まいを正して向き直る。
私は鞄の中の財布と、テーブルの上のスマホとを引っ掴んでカカトの潰れたスニーカーを引っ掛けた。流れるように「靴が傷みますよ」と定型文句を言われたものの、言うことを聞く気は更々ない。お前が私の言うことを聞かずに家の鍵を指にぶら下げて靴を履いているように。
「…お前私の言うこと本当に聞かないよね」
「それはお互いさまでしょう」
「それな」
上着のポケットに両手を突っ込んで、鍵を閉める背中を待つ。その間に一服。…と思ったのだが妙にポケットがスカスカする。いや、財布とスマホはちゃんとある。けれども煙草とライターが見つからない。え、昨日吸ってポケット…
「お探し物はこちらですか?」
「……私アンタのそういう所マジで嫌い」
「ナマエの為ですよ」
「元気なくなったわあ」
いつの間にやらボッシュートしていたらしい私の煙草セットを、あろうことかヤツは自分のポケットから取り出した。マジかよ…
一気にヤル気も無くなって、とろとろとデカイ背中の後を追う。前を歩く後姿はやけに背筋がピンとしていて、少しばかり着込んだだけでも体格の良さが分かる。元々鍛えていたりしたのだろうか、と考えてはたと思い出す。
「そう言えばさっきの剣なに」
「アロンダイトですか?」
「ん、多分それ」
私はそういうマニアじゃないので名前やら種類やらには詳しくない。というかそもそも空中で霧散する剣なんてそんなファンタジーな
と、思っていたらそれこそファンタジー。何もない空間から、輝きを放ちながら件の剣を事も無げに取り出したのだった。というか寧ろ自慢げなのは何故だ腹が立つ。
「此れなるはアロンダイトと申しまして我が宝具、決して壊れ」
「銃刀法で捕まる前に消せ馬鹿!!!」
「も、申し訳ございません…」
その綺麗なデコにチョップをかます。正直心臓はバクバクであわてて辺りを見回してしまったので通報されたら100%言い訳できないやつである。だがしかし幸運にも周囲に人影は皆無、あっぶな…。しゅんとしてしまったデカイけれども小さい図体の背中を強めに一発はたく。それでも全く痛がる気配がないのでケツに一発蹴りもくらわせておいた。八つ当たりだったが軽くよろめいたのでヨシとする。
とぼとぼと、足並みが遅くなり先ほどとは打って変わって私が前を歩く。…あぁもう、
「しょうがないからアイスを買ってやろう」
「?冬にアイス、ですか…」
「そ。部屋あったかくして、アイス食べんの」
だから元気を出せ、なんて言える程私の精神は真っすぐでもなくて、コンビニまで速足でその手を引いてやる。
すぐに追い越されて私が手を引かれてしまったけど、まぁその時にはいつものしょうもない顔で笑っていたので許してやった。雪見大福を買ってやろう。