写真


「はるちゃんはるちゃん。あおちゃんのお写真ちょうだい」
「おおおお」

かわいこちゃん好きの妹におさげをぐいいと引っ張られた。急にやられたものだから後ろの方に重心がかかり変な体勢になったところを、すかさず妹が正面に回り込んできて僕のお腹にアタックをお見舞いする。いたいて。

「も〜、この前あげたばっかやんか。まだ欲しいん?」
「いくらでもほしい」
「ほんま、好きやんなあ。今日このあとニアちゃんの家に遊びに行くから、たくさん撮ってきたるわ」
「……あおちゃんのお家?」
「せやから、もう少し待っとって」
「……ぼくもあおちゃんのお家行きたい」
「え?」

すっかりその気になった妹は、今度は僕のおさげを両手でしっかり握り締めた。あらら、これは「良い」と言うまで離してくれんやつや。
困った困った、約束の時間が近づいているのに、これではすごく支度をしにくい。この前また遅刻して怒られたところやのに。しばらく考えて、僕は仕方なく携帯電話を取り出した。

「分かった、ニアちゃんに電話して聞いてみるわ」
「……!はるちゃん大好き」

とりあえず手を離してくれたのはいいが、優しいあの子が快諾することは目に見えていた。妹は僕に負けず劣らずニアちゃんのことが好きやけど、ニアちゃんだって僕の妹が好きやからな。
せっかく二人きりの休日を過ごせると思ったのに、仕方ないなあとスマホを取り出したその時、同じタイミングで着信音が鳴り響く。驚いて画面を見るとそこに表示されていたのはちょうど電話をかけようとしていた彼女の名前だった。偶然の出来事に心做しか頬が緩んでしまう。

『もしもし、はるかちゃん?』
「お〜、おはようニアちゃん。どうしたん?ちょうど僕も電話しよと思ってたとこで」
『あのね、本当にごめんなさい。急に用事が入っちゃって会えそうにないの』
「ほんま?そら残念やなあ」
『ご、ごめんね……このうめあわせは今度絶対に……』

ニアちゃんがここまで喋ったところで、違和感に気がついた。なあんか声が違う。イントネーションがおかしい。その瞬間だけ電話を離しているのか、遠くの方で咳も聞こえる。

「あかん、ニアちゃん風邪ひいとるわ」
「うそ!」

結果を知りたくてそわそわしていた妹にひとまずそう告げると、今度は電話口に向かって尋ねかけた。

「ニアちゃん、風邪ひいてんのやろ」
『えっ!?風邪なんてないよ、何言ってるのはるかちゃん』
「だって声がいつもとちゃうやん」
『ちがくないよ、はるかちゃんの耳がおかしいんだよ』
「そない言い訳通らんで。用事できたいうのもウソやないの?」
『うそじゃないもん』
「分かった分かった、ウソなんやな。今すぐ行くから大人しくしとき」
『うそじゃないもん!』
「なんか食べたいものある?」
『……はるかちゃん食べる』
「ほら、普段のニアちゃんはそない大胆なこと言わんもん」

とにかく寝て待てと指示をして、さっそく支度にとりかかろうと通話を切る。妹は僕の周りを猫ちゃんみたいにうろちょろしながら、会話の様子を窺っていた。

「あおちゃん、大丈夫?」
「うん、普通に話はできるみたいやし、熱があるとしても微熱やろ。そこまで酷くはないみたいやで」
「ぼくもお見舞い行きたい」
「そらダメや。移したら大変やもん」
「……はるちゃんのバカ」
「そないなこと言ったって」

妹はまた僕のおさげを掴むと、あっという間にリボン結びにしてそっぽを向いた。こらこら人の髪はおもちゃやないで。そう注意する前にとたとたと駆け足で自分の部屋に消えていく。
そうしたらすぐに戻ってきて、僕の手に何かを握らせた。お菓子のグミだ。

「ぼくのおやつ、あおちゃんにあげる」
「おおありがとう。妹が心配してたって伝えとくな」
「はるちゃんは食べちゃだめだよ」
「ちゃんと届けるから大丈夫や」



不覚……。まさか少し雨に打たれただけで風邪をひいてしまうなんて。今日はせっかくはるかちゃんとおうちデートの約束をしていたのに、こんなのってないや。

「ニアちゃん、調子どう?」






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