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朝から2限続きのなんちゃらデザイン論とかいう講義を、ふああと大きな欠伸をしながら右から左へ流した。明歩にとって格段興味もないそれは、毎回の講義レポートと期末レポートを提出すれば単位が取れると噂の、所謂「楽単」だ。遅刻をしてもレポート用紙は貰えるし、最悪最後の30分出席すればなんとかレポートは埋まる。慣れたように早々に紙を大きめな字で埋めて、スケジュール帳を取り出した。
向こうひと月の予定が、週一の合コンと週五、夜勤の文字で埋め尽くされているのを見返して、す、と目をつぶった。



「明歩ー起きろー」

頭にゴツムと衝撃が走って、しぱしぱする目を一生懸命開ければ、同期の男が目の前に座っていた。周りの雑音で講義が終わっていたのに気付き、手元にあったはずのレポート用紙を探れば、「出しといた」と告げられる。

「クロ気ィ利くじゃん」
「デショ。俺デキる男だからね」
「見返りは私のちゅーでいいかしら」
「うわ要らない」

いつも通りのくだらないやり取りに2人して笑いながら、机の上を片付ける。元々アドバイザー被りで面識のあった黒尾と、何の因果か秋セメに入ってから水曜日の講義が全コマ同じで、どちらかが自主休講しない限り一緒に行動するのが常になっていた。机に突っ伏して寝ていたことで固まってしまった身体をぐ、と伸ばしてから、移動の為に立ち上がった。
向かうのは大学内のカフェテリアで、流石昼休み、沢山の学生で溢れていた。けれど、食券機から一番遠い明歩たちお気に入りのテーブルはいつも空いていて、迷わずそこに腰掛け、ランチボックスをふたつ。カバンから取り出す。

「300円でーす」
「ありがと。……つーか、本当にキツかったら作んなくていいぜ。割と我が儘言ってる自覚はあるのよ」
「どうせ自分の分は作んなきゃだから別に大丈夫だってば。居眠りは趣味。……あ、じゃあお礼に今度男集めてよ」
「すぐ合コンの話するよな」

いただきます、と手を合わせてかぼちゃの煮物を頬張る。いい甘さだな、と心の中で自画自賛しながら、んんと唸って不服の意を示す。
口の中の物を嚥下するまで喋らない、そんな所を、黒尾は気に入っていた。育ちの良さが端々に滲み出る彼女が、しかし毎晩の様に男女入り乱れて飲み歩いているのがどうにも不思議なのだ。料理の腕も良い、頭も決して悪くない明歩のことだから、特定の相手を作るのには困らない筈なのに。

「この2年半で48組」
「ん?」
「私主催の合コンでくっつけたんだけど」
「え、」
「とりあえずそこまで行ったら50目指すべきかなって」

破局は大体10件に満たないくらいだったかな、と思考を飛ばす。まぁ破局したって付き合っていた事実は変わらないのだから良いとしよう。学部の中で割と有名な合コンマスターだと自負していたが、黒尾はそれを知らなかったのか、信じられないものを見る目を明歩に向けていた。

「お前彼氏は」
「1年の5月に別れてからこの方いませんけど」
「ハァァァ?」
「なに?喧嘩売ってんの?ハァ?はこっちのセリフなんですけど?彼氏居たらクロなんかにお弁当作らないよ?」

ていうか早く食べなよ、と会話に夢中で未だ半分以上残っている大振りな2段弁当を指差す。腕時計は3限開始の15分前になっていた。



20170309 kmn