| 「月の光」と同じ夢主 「ただし、そこの不審者はダメだよ」 私たちは長い山道を休み休み進んでいき、おおきな街に辿り着いた。久々の街だということで野宿から解放されると喜ぶ皆だったが、なにせ私たちのパーティーは目立つ者が多すぎる。特に目立つのはシンアのその仮面で、彼は頑なにそれを外そうとしないので自動的に留守番組となった。あからさまにズーンと暗くいじけるシンアの丸くなった背中を見て皆は苦笑いだった。 「私も一緒にお留守番するよ」 「そう?じゃあ俺たちで宿を探してくるから、名前とシンアはここで待ってて」 「はぁーい」 皆を見送って、私はシンアの隣へと腰かけた。ここからは街が一望できて、とても眺めがいい。そう思って景色を見ていると、隣からの視線に気が付く。 「どうしたの?」 「……ありがとう、名前」 「ん?一緒に残ったこと?」 「………」(コクリ) 「ちがうよ、私がシンアと一緒にいたかっただけ!」 そう言って隣にいるシンアに笑いかければ、シンアは視線を街へと戻してまた蹲った。彼の表情はハッキリ見えないけれど、少し笑ってくれているような気がした。 「でも宿見つけたら、シンアも街に行かなきゃだね。お面どうしようか…」 「夜……みんなが寝たとき……行く…」 「それじゃあシンアがずっと待ってなきゃいけないよ?それに、シンアも街に出かけたくないの?」 「…………」 頷くわけでも、否定するわけでもないシンアの反応に、少なからず街に出ることを嫌がっているわけではないということが分かった。出かけられないことに落ち込んでいたわけだし、シンアはずっと岩山に引きこもっていたのだから、こんな大きな街は初めてできっと気になるだろう。このお面さえなんとかなれば…。 「あ!そうだ!」 「?」 いいことを思いついたとしゃがんでいた体を起き上がらせ、私は自分のカバンの中をゴソゴソと漁りだした。シンアは不思議に私を見ていて、私は手探りで見つけたカバンの中のあるモノを取り出す。 「じゃーん!」 「…………?」 シンアは盛大に首を傾げた。私が取り出したのは正しく”包帯”で、これで何をどうするのかというとー…。 「シンア、お面外して!」 「っ!?」 「大丈夫、今は私だけだから!………それでも嫌かな?」 「…………名前なら、いい」 シンアがお面を外すことに抵抗があるのは知っている。でも前に、私にはその美しい瞳を見せてくれた。あまりシンアの嫌がることはしたくないとは思っているけど、それよりもシンアと街を歩きたい。 ”私にならいい”とそう言ってくれたシンアに私は嬉しくて満面の笑みを見せる。そしてゆっくりと、その大きなお面に手をかけた。 「あは、目瞑っちゃってる」 「………ごめん」 「いいよ、まだ明るいもんね」 お面を外したシンアの瞳は、きゅっと閉じられてしまっていた。私に許してはくれても、やっぱりまだ抵抗はあるだろう。だから私はすぐに包帯を手に取り、そしてシンアの目元をそれで覆った。 「この包帯ね、結構網目が大きくて何重にもしないと視界が塞げないの。でもね、外側から見ると目が見えないようになってるんだよ」 「………これ、」 「シンアのその眼なら、多少塞いでもハッキリ見えるでしょう?」 これだったら、外からは目を覆っているように見えて、内側からは景色が見れるだろう。それに街の人からは目が見えない人だと思われるだろうから、そこまで目立つこともない。 「ねえ、これで一緒に街へ降りてみない?」 「え………でも、」 「皆には街で会えるかもだし、会えなくてもここに置手紙残しておけば大丈夫だよ」 シンアは少し不安げに私の方を向く。目はハッキリとは見えないけど、少しだけ彼の中に湧き上がる何かを感じ取った。 「あと、街中ではずっと手を繋いでようね」 「え?」 「だってそれじゃあハッキリとは見えないでしょう?私がシンアの目になるよ!」 「っ………」 こうして私はシンアの手を引いて、街へ下りることとなった。先ほどまでの殺風景な山道とは打って変わって、街は予想以上の賑わいを見せている。こんなに活気だった街は滅多に見ることができなかったので、私は思わずシンアの手をグっと引いて前に前にと歩き出した。 「ねえシンア!すごいね!」 「うん………、」 「わぁ!可愛い髪飾り!」 街の露店が並ぶ通りに出ると、それはもう可愛い装飾品を置く店があった。その中でも美しい金糸雀色の石が埋め込まれた髪飾りがあり、それはどの装飾品よりも私には輝いて見えた。 「ね?とっても綺麗だと思わない?」 「ん……名前に、よ、よくにあ――」 「姫様にきっと似合うわ!」 「え……」 きっと姫様の赤い髪にとても似合うだろうなと思ってシンアへと目を輝かせながら言うと、何故かシンアは言葉を詰まらせた。そう言えば何か言いかけていたような…。 「それにこの石、シンアの瞳の色にそっくりでしょう?」 「オレの…?」 「うん!だからとーっても綺麗で大好き!」 「っ……」 再び言葉を詰まらせるシンアに不思議そうに首を傾げると、露店のおじさんが「買うのかい?安くしとくよ」と声をかけてきた。でも生憎大事な旅の資金を贅沢に使えるほどの余裕なんてものは私たちにはない。 「ごめんなさい、買うのはまた今度で…」 「オレが…買う……よ」 「えっ、シンア!?」 まさかのシンアの発言に私はこれでもかというほど目を大きくぱちくりとさせた。だって、シンアにそんなお金なんて…。 「この…首飾りと、交換……だめ?」 「んん?物々交換はあんまやらねぇんだが……んー、まあ悪い代物じゃねーな、いいぜ、交換してやる」 「え、でもいいの?シンア、それ…」 「うん……コレより、それが…いい」 シンアの首にかかっていた首飾りは呆気なく露店の商人に手渡され、代わりに髪飾りがシンアの手に渡った。なんだか私のせいで申し訳ないなと思いつつも、姫様の為ならとシンアのその気持ちを嬉しく思う。そう思ってシンアを見上げたら――…、 「はい、これ…」 「え…………?」 「うん、やっぱり……名前に、よく…似合う」 シンアはその髪飾りを、私の髪にそっと手を添えて付けた。私はまったくもって予想してなかった動きに、再び目を大きくぱちぱちと瞬きさせる。 「え…あの……これ、姫様の為にじゃ…」 「…?違うよ……ヨナも、似合うと思う…けど……オレは、名前にあげたい」 「そ、そんな……だって私はこんな綺麗なモノ…」 シンアの瞳は見えなかったけれど、彼は確かに微笑んでいた。私の綺麗でもなんでもないボサボサな髪に付けられた、美しく光る髪飾り。こんな美しいもの、私なんかが付けていいのだろうか…。だって私は、ただの侍女で… 「…………イヤ、だった?」 「ううん!嫌じゃない!!」 少し悲しそうに眉を寄せるシンアに思わず大きな声で否定した。嫌とかそういうわけではない。むしろ嬉しくて、でも私がこんな幸せでいいのかって、そんなことばかり…。 「名前が…喜んでくれるなら……オレ、嬉しい」 「なに言ってるの…私の方が嬉しい!すっごく嬉しい!どうしよう、嬉しすぎてにやにやが止まらないよ…!!」 私の笑顔なんてもう見飽きてるだろうけど、でも今の笑顔はもっと違う。嬉しくて嬉しくてたまらない。だってシンアが、シンアが私に…私のために首飾りを失ってまでくれたプレゼント。一生大事にするんだと、私はその髪飾りにそっと手を添えた。 「ねえ、もっと色々見て回ろう!」 「うん……っ」 再びシンアの手を取り、私は歩き出した。街中にある鏡を見つけてはその都度髪飾りが見えるように首を捻ってみたり、さり気なくポーズを決めてみたり、かなり浮かれていただろう。 その後、たまたま姫様達を見つけたのでそのまま合流し、宿もなんとか見つけられたということでその日私は姫様と同じ部屋に泊まった。そして布団に入って眠る時私は髪飾りを外すのがなんだか寂しくなってしまい、しばらく髪飾りに手を添えて今日の出来事を思い出す。 「それ、とても似合ってるわね」 「姫様っ……い、いえ、私にはもったいないくらいで…」 「そう?名前の髪にとても合うわよ」 眠っている時に謝って踏んづけたりして壊してしまったら怖いからやっぱり外そうと思って髪飾りを優しく髪から抜いた。その時、隣のベッドで横になった姫様が優しく目を細めてそう言ってくださった。素直に喜べばいいものを、やっぱりどこか不安な気持ちがあって上手く返事できない。それでも姫様は、私を褒めてくださった。 「実はこれ…シンアが、くれたんです」 「まあ、シンアが?」 「私…こんなに綺麗なもの、貰っちゃって…よかったんでしょうか?私にはそんな資格…」 「そんなことないわ、それはアナタが付けるべきよ」 ヨナ姫様はハッキリとそう言った。 「アナタだって一人の女の子ですもの。可愛いお洋服や飾りを付けて、そしていつまでも笑っていてほしいわ……心の底から」 「姫…さま……」 そう言って微笑む姫様の表情は、とてもとても…お優しかった。 「シンアが…そう、うふふ……アナタ達見てると、なんだかとても幸せな気持ちになるわ」 「へっ?」 「今日はいい夢見れそう!おやすみなさい、名前」 「あ、はいっ!おやすみなさいませ、姫様!」 どうして姫様がそんなに嬉しそうなのか上手く理解できず、私はただ答えるだけで同じく布団に潜った。そして今日のことを思い出しては、胸がきゅーっと熱くなるのだった。 |