石化回避IF/千空夢/1話





「石神ってアセクシュアルなの?」
「あ"?」

放課後の科学実験室。いつもなんだか楽しそうな科学部員たちは今日はいない。なぜなら今は期末テスト前で大半の部活はお休み中だからだ。それでも普通に部活動に励む科学部の次期部長は、今日もなにやらよくわからない機械なのか液体なのかを黙々と弄繰り回している。テストで140点取るような天才くんには、先生ももう何も言えないだろう。

「つまり無性愛者?ってこと」
「いきなりなんだ」
「だって石神って恋愛したことないんでしょ?しかも非合理的とか言っちゃうし、そういう欲が無いのかなーって」
「超絶くだらねぇ話だな」
「えー、わりとマジで聞いてるんだけどー」

石神千空という男は私が今まであった人の中でダントツの”天才”くん。小学生の時にいつも近所の土手でなんか怪しい実験をよくしているのをチラチラ見かけて、気が向いた時だけよく声をかけていた。小中と学校は別だったけどこの広末高校で再会を果たす。しかも彼はまさかの入学式で”新入生総代の誓いの言葉”として選ばれた代表生徒だった。なにより面白いのは、その言葉というのが台本を無視した彼の大きな夢宣言『宇宙へ行く』でもう大爆笑。小学生の頃に何度か会っていたこともあって、私はよく石神の実験やなんやかんやに首を突っ込んでは仲良くしていた。

「あ、別に否定したいとかじゃないから!そこは断じて!」
「まだ何も言ってねえだろ」
「私は恋愛脳なタイプだからさ、どう考えても分からないわけよ。だから違う考えの人のお話を聞いてみたいなって」
「へー」
「うわつまんなそうな顔!まあ嫌なら無理に聞くつもりはないけどさぁー」

彼は恋愛に関してはかなりの無頓着だ。意外にも顔が良い彼はテストの点数も毎回学年一位だしなんだかんだ女子からモテる。一度彼の告白現場を目撃したことがあるのだが、あまりのバッサリ一刀両断にマジかと思った。だから無性愛者的なのかと思ったのだけど、その答えはすぐには返ってこない。

「まあ、そーゆーのは置いといて、今は特に興味ねえな」
「そっかぁー、でもまあ石神は宇宙行くのに忙しいもんね、恋愛とかしてる暇ないかー」
「ああ、お生憎さまこっちのが100億倍唆るモンでなぁ」

恋愛なんていうのは暇人がやることだ。と言ったら一部から苦情がきそうだけど、実際に恋愛に没頭っていうのはなかなかこの世で生きていくには難しい。趣味や仕事が充実している人は恋愛をしている暇なんてないのだ。今の私はまあまあ暇人なので恋愛脳だけど、いつか社会に出て石神みたいに没頭できるものが出来たら変わるのだろうか。

「あ、じゃあ好みのタイプとかはないの?多少なりとも好き嫌いはあるでしょ?」
「んなの聞いて何が楽しいんだよ…」
「えー石神の好みとかすっごい気になる!めっちゃ楽しいから教えて」

あ、すっごい面倒くさそうな顔してる。若干うざ絡みしてんなーとか自分でも思うけど、石神がそこまで私を拒絶しないので私は甘えるのだ。

「髪は短いのがいい?長いの?」
「どっちでもいーわ」
「ゆるふわガール系?ボーイッシュ系?それともクール?」
「なんでもいーわ」

うわー答える気まったくなーい!まあそうだよね、分かってた分かってた。でもせめて数ミリの情報だけでも欲しいものだ。

「つーかテメーはテスト勉しなくていいのかよ、大して頭よくねぇだろ」
「ひっど!これでも国語は90点以上なんだよ!それ以外は平均上下だけど!」
「国語だけかよ」
「あ、せっかくだから石神に勉強教えてもらおっかなー」
「教えてやってもいいが代償は頂くぜ」
「え、お金とんの!?」
「ちげーわ、労働でだ」
「ああそっちね、……って、たまに手伝ってるじゃん!それでチャラでしょ!」
「お前気が向いた時にしかやんねーだろ、いきなり途中で帰りやがるし」
「あーあはは、気ままな子猫ちゃんなもので〜」
「テメーで言うな」

石神との会話は楽でいい。いらぬ心配をしなくていいから。ただ素のまま好きに話してればいい。

ピロン♪

もう少し喋ってたいなと思ったその時、手に持っていたスマホからメッセージ音が鳴った。ロック画面に見える通知に記された名前に、私は「あ」と小さく声を出す。

「彼氏からだ、用事終わったみたい、もう行かなきゃ」
「おーさっさと行け」
「暇つぶしありがとね!アメちゃんあげる」
「いらねーわ、つかテメーが勝手に喋ってただけだろ」
「うん!でもなんだかんだ相手してくれたし」

部活のミィーティングがあるとかで少しの間暇してたのだけど、丁度よく石神が科学室にいたので立ち寄らせてもらった。他にも彼氏の部活を待ってる時とかは何度もお邪魔して、石神にはほんと世話になっている。感謝をこめてポケットに入っていたいちごみるくのキャンディーを彼の近くにぽろりと置いていく。

「あ、もし好きな人できたら教えてね、協力するから!」
「100億%ねえから安心しろ、つーか余計なお世話だ」

去り際に言った言葉は見事に叩き捨てられた。石神が好きになる子とかめちゃくちゃ興味あるじゃんね。今はまだ100億%ないのかもだけど、高校卒業して大人になったら変わるかもしれないじゃん?それまで仲良くしてるかは分からないけど、それを知りたいが為に連絡は途絶えないように頑張ろうかな。






01


yumeTOP
ALICE+