| 石化回避IF/千空夢/2話 どうやら私はモテるらしい。 人数でいえば大した数字ではないけど、22歳になる今の今まで一度もそういった相手が途切れたことは無かった。女子力的なものは気にかけている方だけど別に特別可愛いわけでもない。多分中の中の上くらいだと思う。距離感が近いとはよく言われるけどあまり意識したことも無かった。今までお付き合いしてきた方たちは色々だけど皆いい人たちだったと思う。そう、悪い人なんて全然いなかった。なのに、なのに…! 「セックスレスで毎回別れちゃうのなんでぇ〜〜!!」 「うるせぇ!あと場所を考えろバカッ!」 ビール片手に私はそれなりに大きな声で居酒屋で嘆いていた。そして目の前に居る同級生に制止をくらう。これが泣かずにいられますか!1年続いていた年上の彼氏とついさっき別れたばかりで私の心はズタボロに傷ついている。 「突然最寄に居るっつーから何事かと出てきたら…、まじシカトしたらよかったわ」 「そんなこと言わないでよ石神ぃ〜〜!私の傷心した心を癒してくれるのはあんたしかいない!」 「うぜえ!つーか飲みすぎだ」 ついさっきまで彼氏(元)と居たのだけど別れを切り出されて撃沈し、そのまま帰ろうとしたら丁度たまたま同級生の家がある最寄り駅を通るルートだったので一か八か特攻をかけてみた。そしたらその同級生、石神千空はわざわざ駅まで出向いてきてくれたのだ。高校を卒業してからもなんだかんだと不定期ながらにチャットしたりして連絡を取っていて、たまにこうやって会っては飲んだりしている。あんまりそういうの乗ってくれなさそうだと思っていたけど、案外情に厚い人種らしい。 「セックスってそんなに重要?お互い好きなんだったらいいじゃん…!なのになんで皆そんなえっちばっか求めてくるのー!」 「知らねーわ、体目当てだったんじゃねーの」 「ひっっど!こんな傷ついてるのにそんなこと言う!?」 「超絶どーでもよすぎてテキトーに言ったわ、なんかスマンな」 相変わらずデリカシーのない男!でも今の私にはそれくらいドライな返しをしてくれる人の方がいいのかもしれない。自分の湧き上がっていた熱がゆっくりだが落ち着いていくのがわかった。 「まあこんな話、童貞の石神に言っても意味ないよね〜、こっちこそなんかごめんね」 「テメー超絶腹立つ返ししてくんじゃねぇか」 「でも別に石神は童貞でもいいんでしょ?結局あれから石神の浮いた話とか全然聞かないし」 「あってもテメーには言わねーけどな」 「えっ!もしかして……浮いてるの!?」 「どーゆー質問だ」 もしかして私の知らない間に脱童貞してたりしたの!?だとしたら割とショックなんだけど…!石神はなんだかんだ科学一筋の一生チェリーボーイだって思っていたのに。こんなのあんまりだ! 「もしかして性への好奇心が抑えきれずお店で卒業したとか…!?」 「いい加減にしねーとマジでハッ倒すぞ」 「ごめんなひゃい」 すいませんごめんなさいってば調子乗りました。だからそんな思い切り頬をつねらないでください。石神は顔はかっこいいから捨てようと思えば捨てられるもんね、童貞とかバカにしてすいません。でも石神が童貞とかうんぬんよりも、彼が好きだと思える人が現れることがショックだと思った。なんだかんだ石神はずっとこうやって2人で飲んだりしてくれる人だって思ってたから。 「石神に恋人できたらちょっとショックだけど、ちゃんと言ってね、飲みに誘うとか控えるし…私そういうの気遣える女だから…」 「なにありもしてねぇことにショック受けてんだよ、バリバリ独り身科学三昧で楽しくやってるわ」 どうやら私のいきすぎた妄想だったらしい。それを聞いて物凄くホっとしてしまい、更にはどんどんと気が抜けていった。 「ほんと?よかったぁ〜〜」 「おい、なにフツーにここで寝ようとしてんだ、いい加減もう出るぞ」 「ん〜〜…はぁい…」 気が抜けるとお酒がいい感じに回ってきて、テーブルにうつ伏せてそのまま寝ようとする私を石神の手が頭をぐっと押さえて阻止する。瞼も落ちかけて、うとうとしている間にコートを羽織った石神が真横に立っていて私を席から立ち上がらせた。 「あれ、お会計は…?」 「もう払ったわ、とりま上着きろ」 後ろの壁に掛けてあった私のコートを取って手渡される。「いくら?」と尋ねると「フラれ記念に奢ってやる」と返ってきて、石神まじいいやつ〜〜〜!なんとかコートに袖も通せたので私たちは店を後にした。冬真っただ中なので外に出ると急激に冷たい風が襲ってきて、お酒で火照っていた体は一瞬にして冷めてしまう。 「駅こっちだぞ」 「んーー…」 「大丈夫かよ」 「だい…じょぶ……」 「あ、オイッ」 一瞬ぐらついてしまい倒れそうになるところを、石神の手が私の腕をつかんで引き留めてくれた。その時、石神もちゃんと男の子なんだなぁと思って、…そして何かがぶわっと出てきた。 「うっ……ぅ…」 ついさっきまで恋人だった彼の顔が浮かび、そして彼と過ごした1年間が走馬灯のようによみがえってくる。ああ本当に別れてしまったんだ私たち。もう彼の家に行くことはなくなるんだ。彼ももう私に会いに来てくれなくなるんだ。そう思ったら涙が止まらなくなって。 「あ"ーーークソ、めんどくせぇな」 「うっ…ご、ごめん……ちゃんと帰るから、もう…」 「うるせえ、黙って歩きやがれ」 「えっ…」 石神が掴んでいた腕を引いて歩き出す。けれどそれは駅の方面じゃなくてその反対で…。ぽろぽろと涙を流しながら私は、ただただ彼に引かれながら足を動かした。 石神の家に行ったのは小学生以来だった。もうほとんど記憶にないその家は一人で住むには少し大きくて、普通の一般家庭マンションの一室。お父さんと住んでたのだけどそのお父さんは今や宇宙飛行士となってなかなか帰ってこないらしい。テレビの中継で見たことがあるけど、石神と全然違って愉快で楽しそうな人だった。一度会ってみたいなぁ。 「私ね、実はナカイキっての未だに経験したことがないの」 「ぶっ…!」 「入れられててもあんまり気持ちいいって思えなくて、でもみんな別に下手ってわけじゃないんだよ…ねぇ私ってもしかしてフカンショーってやつなのかな?」 「知らねーわ、俺に聞くな」 石神家のリビングで私たちは飲み直すことにした。もう飲むなって言われたけどちょっとだけだからとアルコール3%のほぼジュースなお酒を購入。ついでにデザートのプリンも買った。そして石神は私を慰めるでもなくただ話を文句付けながらも聞いてくれて、あ〜やっぱりマジいいやつ。 私の性事情を聞かされて可哀想にって思うけど止まらない。こんな話なかなか女子会でだって言えないんだもん。私の周りはセックス気持ちいいって言う子ばっかりだし、やっぱり私がおかしいのかな。 「童貞でも石神なら知識とかはあるんじゃないの?なんか良くなる方法とか知らない?」 「悪いが俺は専門外なんでな、…けどまあ何かの論文で匂がいいと思う相手とは遺伝子レベルで相性がいいだとかは聞いたことあんな」 「匂い…かぁ、」 「どっかの国では数日間洗ってない不特定多数の人間の衣類の匂いを嗅いで、お互い好みだったら実際に会うっつー婚活もあんだとよ」 「へぇ、やばぁ」 石神大先生からそう言われて、確かに今まで好きだと思えた体臭の人には出会えてないかもしれない。同じ男性の汗でも大丈夫な人と不快に思ってしまう人がいたりするけど、そういうのが相性に繋がるのかな。 「…………オイ、何してんだ」 「え、匂い嗅いでる」 「なんで俺のを嗅ぐんだよ」 「いや、とりあえずすぐ近くに居たから……でも、石神の匂いは嫌いじゃないかも」 言われたらすぐに試したくなるのが人間ではないですか。すぐ近くにいた石神に顔を寄せてくんくんと匂いを嗅いでみると、思ったよりも嫌じゃない……むしろ、好きかも。 「フェロモンって耳の裏から出るんだっけ?そこ嗅いだら分かりやすいかな」 「おい…、…」 石神の肩に手をかけて覗き込むように彼の右耳に顔を寄せて、再び鼻を動かした。 「…………」 「…………」 「………………すき、かも」 思わずぽつりと声が出てしまい、私ははっと気づいて石神の顔へと視線を向ける。そしたら今までに見たこともないような顔で石神が私を見つめていた。あれ、なんだか…。 「ねぇ…」 どうしよう、私は今からよくないことを言ってしまうかもしれない。いいや、”かも”じゃない、確実にこれは……。 「私と、シてみる…?」 アウトでしょ―――。 |