石化前/スタンリー夢/4話





あれから、スタンとは3週間ほど会えていない。
元々頻繁に会えるような人ではないことは知っていたけど、ここ最近はほとんど毎週のように顔を合わせていたので麻痺していた。彼は軍人さんで、下手したら半年会えないなんてことだってあるのだ。まだ彼は年齢的にも低い階級で、海へ出ると連絡も簡単には取ることが出来ないらしい。寂しくて辛いと思う事もあるけど、ハイスクール卒業から今まで数年会えていなかったのだからそれに比べたら全然だ。私も私で学校に通いながらカフェでバイトをして、自分のこれからのことを考えなくてはいけない。次スタンに会えるまで、もっと素敵な女性になろう。

「もっと素敵な女性になったら、スタンは私を―……」

その時私は、気づいてしまった。

「なにを、言ってるの…?」

どうしてスタンが私を?おかしいじゃない、だって私は最下位でもいいって彼にお願いしてまで彼女になったんだから。最下位の女が、どうしてスタンと一緒になろうなんて……未来を、見ているの?

「だめだ、私……だめ、」

いけないことを考えている。いつの間に私はこんなにも強欲な女になってしまったのだろう。面倒くさい女にならないように、都合の良い女であることでスタンのガールフレンドにしてもらったっていうのに、こんなの契約違反だ。でも考えれば考えるほど、スタンの1番になりたいと思う自分がいる。スタンが他の人に触れているのを見たくない。私以外の子の名前も呼んで欲しくない。

ああ、だめだ。

どうしよう、こんなんじゃ私もう……スタンと一緒にいてはいけない。頑張って隠しても、ふとどこかで抑えきれなくなってしまうかもしれない。今ならまだ、引き返せるだろうか…。きっとすぐには無理だろう。でも、きっと今なら、スタンに迷惑をかけずに……離れられる気がする。

スタン、私を見ないで――。



▼△▼




こんなのいつまでも続けられるハズなんてなかった。
あの時はそれだけでも幸せなのだと思っていたのに、人間というのはなんとも汚い欲にまみれた生き物。どんどんと欲しいが大きくなってしまい、いつしか自分の首を絞めてしまうのだ。欲しい…なんて、思ってはいけないのに。

「ねえアナタ、ほんといい加減にして」
「え?」

今日も夜までのバイトが終わって丁度カフェを出た時、突然私の前に女性が立ちはだかった。そしてトーンの低い声と険しい顔で私をグっと睨みつける。一体何を言われているのか分からなかった。

「アナタがスタンを独り占めしてるんでしょ!」
「え、え…っ?」

怒りをぶつけるように投げつけられた彼女の台詞の中には、私のよく知る彼の名が入っていた。瞬時に…とまではいかないが、どうやら彼女はスタンに関係のある女性なのだということは理解する。そして今の台詞からして、彼女はスタンのガールフレンドの一人だ。よく見たらR&Bで見たことがあるような気もする。

「前はあんなに私と一緒に居てくれたのに、ここ最近スタンからまったく連絡がないのよ!そしたら最近、スタンってばアナタばっかりかまってるらしいじゃない?」
「そ、そんなっ…それにスタンは今、」
「あのねぇ!ちょっとスタンに気に入られてるからっていい気になってんじゃないわよ!アンタみたいな地味な女が彼の周りでは珍しかったから相手してくれてんの、分かる?」
「っ…!」

突然の辛辣な言葉に私の心臓へグサグサと矢が刺さっていくようだった。私の言葉など聞き入れないというように間髪入れずに言葉を述べる彼女に、私は完全に委縮してしまった。そして彼女の言っている言葉が尤もすぎて、何も言えなくなってしまう。

「アンタ目障りなのよ、いい加減スタンから離れてくれる?」
「っ………」

ごめんなさい。そう言おうにも言葉が上手く発せない。まるでハイスクールのあの時みたいに、私はビクビクと震えるだけの臆病者だ。スタンと一緒にいるようになって勘違いしていたのかもしれない。私はなにひとつ変わっていない、地味で哀れな女だ。

「さっきから聞いていれば、酷い言いがかりだね」
「っ!?な、なによアナタ!」
「おおすまない、レディーの会話を立ち聞きするつもりは無かったんだが、あまりに君が声を荒げるので聞こえてしまっただけだよ」
「ちょっと、部外者が口を挟まないでくれる?」
「そうだね、部外者は部外者だが、彼女は僕の友人でもあるんだ、そして僕は君の大好きなスタンリーの親友でルームメイトなんだが…」
「え!スタンの!?」

会話に横入りするように入ってきたのは、まさかのゼノだった。会話を中断されたとあって最初はキツくゼノを睨みつける彼女も、スタンの友人だと知って少し顔色が変わる。ゼノはいつの間にか私の横に立ち、萎縮して肩を縮める私の肩を抱いた。

「彼の女遊びには目に余るものがあるとは思っていたが、まさかこんな卑俗な者にまで手を出していたなんて、我が親友ながら呆れるよ…」
「なっ!!?」
「まあ彼にも非があることは認めるが、彼女に当たるのは頂けないな、こんな公共の場でよくもまあ下等な台詞を述べられたものだ」
「ッ…!!」
「それに君、僕を知らないってことはスタンのアパートには招かれたことないね?つまりはスタンの中でも下の下の最下層な女の一人ということだ、君こそいい加減諦めて他のダーリンでも探すんだね」

そ、そこまで言わなくても…。私がそう思ってしまうほど、ゼノは饒舌に彼女を突きさす言葉を銃弾のように次から次へと撃っていく。彼の顔は正しく私がハイスクールの時に見た怪しげなニヒルな笑みで、少し怖いなという印象を蘇らせる顔だ。そんなゼノの言葉に言い返すことが出来なくなってしまった彼女は、とても悔しそうに下唇を噛んだ後勢いよくその場を去っていく。

「気にすることはない、あんなのは負け犬の遠吠えというんだ」
「あ……ありが、とう…」
「例を言われるほどのことはしてないよ。……とりあえず、一旦ここから離れようか」
「あ…」

気づけば私たちの周りには少しの人だかりができていて、今更ながら注目されていることに気づく。そのことに顔が急激に熱くなり、私は小さく頷いて顔を伏せた。ゼノが肩をそっと抱いて引き寄せてくれて、私たちは早々にその場から離れる。

「それにしても偶然だね、君は一人でショッピングかな?」
「あ、いや…私はさっきのカフェでバイトしてて…今丁度その帰りなの」
「なるほど、そうだったのか!あのカフェはよく通り過ぎてはいたけど入った事は無くてね、君がいるなら今度はコーヒーでも買っていこう」
「ふふ、ありがとう…」

ただでさえ弱かった私の心はさっきの彼女の言葉でボロボロになりそうだったけれど、ゼノのお陰でなんとか普通に会話はできている。私を気遣ってくれているのか、そうでないのかは分からないけれど、ゼノの淡々とした真っ直ぐな喋りは変に気を遣うことなく私の弱った心をゆっくり持ち直してくれるようだった。

「ゼノ、ありがとう、もう一人で帰れるから…」
「とんでもない!君をこの状態で放っておけるほど、僕も冷酷ではないよ。よかったらこれからディナーでもどうだい?仕事終わりなのだったら夕飯はまだだろう?」
「まだ、だけど…でも、」
「なら決まりだ!近くにスタンとよく行くレストランがあるんだ、君も気に入るよ!」
「え、あ、ちょっ…」

私の言葉は綺麗に遮られ、再び肩を抱いたゼノは軽快な足取りで進んでしまう。私はそれについて行きながらも本当にいいのだろうかと申し訳ない気持ちだった。けれどその時、スタンの「もっと自分に自信もちな」という言葉が聞こえてきて、少しだけ私は…図々しくも頼ってみようかと思った。
ゼノに連れられてやってきたのは、すぐ近くのこじんまりとしたレストラン。前回スタンに連れてきてもらったレストランよりは敷居の低そうな落ち着いた雰囲気で、やっぱりあそこはデートとして彼が選んだ少し特別なレストランだったんだと知る。きっと普段はこういったレストランに訪れるんだろうなと、あまり知らない彼のプライベートを知れて私は嬉しく思ってしまった。ああ、だめだ私、さっき散々言われたばっかりなのに。

「名前、君はお酒はいけるかい?」
「あ、うん…少しなら」
「ではこれなんてどうだい?女性には人気らしいよ」
「おいしそう…これにする」

ゼノのお勧めしてくれたピーチのカクテルドリンクに私は決めた。ゼノはウィスキーの入ったオールドファッションを注文し、私たちは向かい合わせになって座る。ゼノが真正面に私を見つめ、静かににこりと微笑んだ。……なんだか、やっぱりこの空気おかしいよね。そもそもスタン以外の男性と2人きりで食事なんて、よく考えたら初めてじゃないか。どうしよう、今更ながら緊張してきた。

「蒸し返すようで悪いけど、さっきみたいなことは今までに何度かあったのかい?」
「えっ……と、その…」
「あったんだね」

ないわけではないけれど、最初のはそんなに酷いものではなかった。それに言われて当然のことだったし、彼女は何も悪いことは言ってない。だからゼノにハッキリと言われるも、私は上手く肯定できなかった。

「あの、今日のこと……スタンには黙っていてほしいの」
「おお、それはどうしてだい?」
「だって、その…スタンは悪くないから」
「ふむ?明らかにあの男が悪いと思うが?」

ゼノは心底不思議そうな顔をして首をかしげる。本当に同い年なのかなって思うほど、彼の顔は幼く見えた。さっきも地味に年齢確認されそうになっていたし。

「ううん、私が出しゃばって彼女たちからスタンを奪ってたから…だから、スタンは悪くないの」
「うん???ちょっと待ってくれ、君はスタンの恋人なんだよね?」
「え、ええ…一応そうだけど、でも私はスタンの、最下位だから…」
「What!?」

ゼノが少し声を荒げる。幸い賑やかな店だったので注目されるようなことはなく、でもゼノは「失礼」と言って小さく咳払いをした。なにをそんなに驚いているのだろうか、私には分からない。

「すまない、てっきり僕はスタンと君は列記とした恋人なのかと…いや、恋人ではあるみたいだが、いやちょっとややこしいな……えーとつまり、君はスタンと付き合っていて、スタンは君意外にも恋人がいるってことでいいかい?」
「うん、YES」
「Hmmm―――…」

そう唸ると、ゼノの玉のようなおでこに盛大に皺が作られた。どうしてゼノがそこまで悩むことがあるのだろうか。それにスタンの女性関係についてはよく知っているような感じだったし、今更悩まなくても…。

「確かにスタンはそういうところがあるが、僕は君があの幾多の女性たちと同等…ましてや最下位だなんて到底思えなんだが、」
「え……と、そう言ってくれるのは嬉しいけど、別にもういいの」
「もういい?どういうことだい?」

いつの間にかテーブルには注文したドリンクと食事が運ばれてきて、ゼノがグラスを持ったので私も同じくもって乾杯をする。とりあえずひとくちドリンクを喉に通し、私は再び口を開いた。

「やっぱり私、もうスタンといるのは……やめようと思って」
「なぜ?君はスタンを愛しているのだろう?」
「そっ、そうなんだけど……だから、もう、彼に迷惑はかけたくないの」

私は必死に顔を取り繕い、ここ何日で悩んで悩んで決めたことを静かに彼に打ち明ける。けれどゼノは、すぐに理解してくれなかった。

「私は約束を守れなかった、だからスタンと一緒に居る資格がない…」
「資格なんて、愛にそんなものは関係ないさ」
「ううん、私たちにはそれがあるの。だってスタンは私を愛してないもの」
「どうしてそう言い切れる?」
「え?だって……そんなの、」

当たり前のことじゃないか。なぜそんな改めて聞き返す必要があるのだろう。私の不思議に思う顔に気づいたのか、ゼノはどうしてか少し困った表情を見せた。

「僕は君を気に入っているよ」
「あ、ありがとう…?」
「君が魅力的だというのは大前提ではあるが、僕は幼馴染を信じている」
「…?」
「だからこそ、僕は君を気に入っている」

やっぱり私には彼の言っていることの八割が理解できなかった。科学者だと聞いてはいるけど、やはりどこか私たちと別の次元を彼らは見ているように思える。

「とにかく、君が彼から離れるというのなら僕は止めないよ、むしろ彼には良い薬なのかもしれない」
「?」
「ただ、必ずちゃんと彼にハッキリと自分の気持ちを言うんだ」
「う、うん……」
「ああすまない、話してばかりでは料理が冷めてしまうね、とにかくせっかくのディナーなのだから楽しもう」

それ以降の会話は私にも十分理解できるものばかりだった。ここのレストランの料理はどれも美味しくて、そしてゼノが色々と質問をしてくれるので私も緊張する間もなく会話をすることができる。

「もしスタンとの関係が終わっても、是非僕とは友達で居てほしいんだが、いいかい?」
「嬉しいけど…」

勿論!と言いたいけれど、スタンとの関係を絶って、彼の幼馴染であるゼノと会うのはなんだか気が引けた。それに、変に思い出してしまいそうな気もする。

「まあ、彼との話に決着がついたらまた考えてくれ」
「う、うん……」
「ああちなみに、僕は下心はないので安心してくれていいよ。とは言っても、まだ会って二度目の男の言葉なんて信じれたものではないね」
「そんな、ゼノは素敵で紳士だし、信じるよ」
「うん、君のそういうところ…、きっと彼も同じように思ったんだろう」
「?」

やっぱり彼は、素敵な人だ。



▼△▼




あれから私はゼノと何度かやり取りをするようになる。私の働くバイト先のカフェにもよく顔を出してくれて、何度かランチも一緒にした。

『やあ、突然電話してすまないね』
「ううん、どうかしたの?」
『ああ、僕の腕時計を知らないかい?探しても見つからなくて、もしかしたらカフェに忘れてきてしまったのかもしれない』
「あ、それならカフェに届いてるわ、ゼノのだったんだね」
『おおそうかい!これは幸運だ!お気に入りだったからダメ元でかけてみたんだが、よかった。明日はカフェにいるかな?』
「うん、20時までバイトよ」
『丁度いい、20時頃にカフェの近くに行くので立ち寄らせてもらうよ』
「わかった、待ってるね」

落とし物だなんて普段なら絶対に返ってこないけれど、ゼノは本当に運がいい。とても親切な紳士な方が私たち店員に落とし物だと言って届けてくれたのを思い出す。私はすぐに働いているカフェに電話をかけ、落とし主が見つかったから置いといてくれと伝えた。
その時、私のスマホに一通のメッセージが届く。ゼノからまた何かあったのかと画面を見てみると、そこにはスタンリーの名が記されていた。

”明日空いてる?”

とても簡潔な、今までと何も変わらない彼らしいメッセージだった。私の心臓は瞬時に急速に動き出し、メッセージを見ただけだというのに体が熱くなる。そして自分の今の素直な感情に、嫌気がさした。なにを、喜んでいるんだ。
私は震える手を必死で抑えながら、彼に返事をするべくスマホへと指を伝わせる。明日は一日バイトを入れていて夜まで無理なの、と打って送信する。するとすぐにまたスマホにメッセージの着信音が鳴った。

”OK”

と、シンプルにこの2文字だけだった。……OK?それはつまり、どういう返事なのだろうか…?”OK,じゃあ今日は無しだ”なのか、”OK,じゃあその後に”なのか。分からない。けれど私はこれ以上メッセージを送ることができなかった。きっとこれは”NO”の”OK”だ。私は都合の良い女でなければいけないのだから、都合が悪いとあればここで話は終わりになるだろう。わざわざスタンが私の為に時間を作るなんて、あってはならないのだ。

でも、言わなきゃいけない。

彼からのメッセージを見て、いつものように”YES”を送ろうとする自分がいた。決心をしたはずだというのに、また私は彼に縋ろうとしている。このまま何も知らないふりをして、自分の心を抑え込めばいいじゃないかと、私の知らない誰かがそう囁いた。一瞬、その時は…できるかもしれない。けれどそれはいつまで続くの?私はどれだけの時間、そう自分を騙せるのだろうか。



▼△▼




今日は少しだけ冷え込んだ。彼と最後に会った時は温かな気候が多かったけれど、街はいつの間にか冬支度を始めていた。バイトの時間になって慣れた足取りで家を出て、バスに乗り、見慣れたカフェへと入る。考えは結局上手くまとまらなくて、私はあまり考えないようにと仕事に専念した。
時刻は20時少し手前。もう上がっていいよと言われたので私はチームメイトに軽く声をかけてスタッフルームへと向かった。自分のロッカーでスマホを確認すると、ゼノから『あと10分ほどで到着予定だ』とメッセージがきていた。OKと返事を返し、その間に私も着替えを済ませる。ちょっと早いけれど店の外で待ってようと、私はカフェで受け取った彼の腕時計を手に外へと出た。今日は寒いからテラス席はがら空きだ。ここで待ってよう。そう思って私はテラス席に腰かけようとした。

「おい、くっつくなって」
「え〜どうして?いいじゃない、久しぶりにスタンに会えたのに」
「だから俺はこれから――っ」
「え……、」

久しく聞いていなかった声が聴こえ、そしてその姿は視界に入る。同じく彼も私の存在に気づき、私たちはお互い目を合わせた。うそ、なんで…、

「スタン…?」
「名前、」

私が今最も会いたくて、会いたくない相手がそこにはいた。少しだけ髪が伸びている。傷も少し増えている気がする。でもやっぱり変わらない、私の愛しい彼そのものだ。

「ねぇスタン、固まってどうしちゃったの?」

そして彼の隣で彼の腕を掴み身を寄せる…知らない女性。ああそうか、そうだよね、私が都合悪いんだから別の人に行くのは当然よね。なにもおかしなことなんてない。でも出来れば、見たくなかった…。

「やあ名前!待たせたね――…って、おや、スタンじゃないか」

私が上手く言葉を発せないでいると、別方向から私の名を呼ぶ声が聞こえた。丁度ゼノが到着したみたいで、私の後にすぐにスタンを見つけて視線はそちらへと向いてしまう。

「は?なんでゼノがここに…それに待たせたって、あんたら会う約束でもしてたんかよ?」
「君こそ、その女性は誰だい?また新しいガールフレンドかい?」

ゼノを見た瞬間、スタンの顔が少し険しくなる。けれどゼノは至って普段と変わらぬ声と口ぶりで、彼の隣にいる女性へと目配せしてそう言った。

「それよりこっちの質問に答えな。なに、あんたら俺が居ない間に会ってたわけ?随分仲良しじゃん?」
「ただ友人として会っていただけだが、なにか問題でも?」
「大ありじゃんよ、コイツが俺の女なの知ってんよな?」
「ああ知ってるさ、君の沢山いるガールフレンドの一人だろう?」
「ッ……!」

なんだか、ゼノの言葉がいつもよりも刺々しい。あの時のような2人が醸し出す和やかな空気とは打って変わって、ピリリとした冷たい色が見えた。

「さあ名前、約束通り今からディナーに行こう、今日の店は君の好みに合わせたよ!」
「え?」
「はぁ!?ちょっと待てよゼノ!ふざけんな!」

くるりとこちらへ視線を戻したゼノは私の肩を抱き、そして身に覚えのない約束を持ち出す。一体どういうことだろうか、何故そんな嘘を…そう思って彼に視線を向けるも、ゼノはただ薄く目を細めて口角を上げるだけだった。

「……名前、」

スタンが私へと視線を寄こす。その瞳は、苦しくも私を見つめていた。

「ゼノとはただのお友達よ。それより、デートの邪魔してごめんなさい…」
「は?デートって…いや、これはちげーって!コイツが勝手に、」
「それと、もうスタンとは会えない」

瞳を見るのが怖かったけれど、自分の心にも区切りをつける為にも、私はハッキリと彼の眼を見て言った。

「は?なに、どういうことよ?会えないって、意味わかんねぇ」
「私から言ったのにこんなの身勝手だって分かってる…ごめんなさい。でももう、私は……あなたの都合の良い私でいられなくなってしまったの…」
「何言ってんよ、俺はあんたのことそんな…」

震える声を必死で抑える。

「さようなら、スタン」

アナタの視界から、私を消して――。







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