IH前の話



 沢北栄治はバスケットに人生を捧げたような人だった。四六時中バスケのことばかり考えて、考えて、考えて……。
 そんな人が、まともな恋愛なんてできるわけない。

「名前が好き」

 それはあまりにも真っ直ぐで濁りなんてなかった。

「………ごめん、付き合えない」
「はぁッ!?」

 夜の公園、青春の一枚を切り抜くシチュエーションにしては最高だったかもしれない。けれど私はその真っ直ぐな告白を一蹴してしまった。――すると、予想もしていなかったという清々しいほどまでの反応が返ってくる。

「ぜってー名前は俺の事好きだと思ってたのに…!」
「……好きだよ」
「はっ?意味分かんねぇ!」

 私は彼が好きだ。そして彼も、私の事を好きでいてくれていることに最近なんとなく気づいていた。だからこの告白は私にとってはそこまで驚くことではない。…ただ、心臓はどうしてかいつもより騒ぎ立てていた。

「栄治のこと好きだから、ずっと見てたんだよ……だから知ってる、栄治がどんな人なのか」
「……どんなヤツか言ってみてよ」
「バスケが大好きな人」

 沢北栄治はバスケットマン。それもただのバスケットマンじゃない――日本一の高校生なんて言われている正真正銘だ。

「……ごめん、私がだめなの。私は栄治みたいになにかに打ち込めるものがない。だから多分、付き合ったら栄治だけになっちゃう。……でも、栄治は私だけにはならないでしょ?」
「ッ……」

 私たちはまだ高校生で、まだまだ恋愛の仕方なんて分かっていない。大人のような余裕なんてない。好き――だけで、どこまでいけるのか、私には自信がない。
 それに栄治は優しいから、無理やり時間を作ろうとしてくれるだろう。でもそれって、彼のバスケを邪魔することになってしまわないだろうか。

「私は栄治には真っ直ぐにバスケしててほしいって思ってる。……だから、付き合えない」

 私の放った決定的な一言に、彼は静かに頭を伏せた。込み上げてきそうな涙を必死にこらえて、私はグッと手に力を込めて耐える。
 ――のに、雫は思いもよらぬ方から零れた。

「納得いかねぇ…!!」
「はっ、栄治…?」

 ポロリ、小さな雫が栄治の瞳から流れる。そして諦めの悪い顔が物凄い勢いで私を睨みつけた。

「それでも俺はッ…名前が他の男のモンになるなんて絶対イヤだ!イヤだったらイヤだ!」
「ちょ、我儘言わないでよ……それに、これは栄治の為にも…」
「俺の為なんだったら俺のモンになってよ!」
「っ…」

 私は拍子抜けしてしまった。だって、こんな真面目に顔ぐちゃぐちゃにして、まるで駄々をこねるような…。

「確かに多くの時間を名前の為に取れねーかもしれねぇけど、でもッ…でもそれ以上に――、名前を好きなのは俺が一番だから!」

 それはやはり真っ直ぐで――強引で。
 バスケだったらあまりにも独りよがりなプレイになっているであろう。でも、それが許されるのが…

「負けたことがないって、ほんと厄介」

 結局私は、彼の負けず嫌いに負けてしまった。







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