(削板軍覇登場)




「名前!結婚しよう!」

今日の学園都市の空は清々しいほどの快晴。気持ちのいい天気は気分も良くしてくれる。いつもの学校の帰り道、今日はお昼前に終業したのでこれから好きな所に昼食を食べに行こうと考えていた。そんな我が家への帰宅道中、突如と自分を覆う影に空を見上げれば…天から人が降ってきて開口一番そう言った。

「しません」
「そう言うなって!」

ニカッと笑って見せられた笑みはそれはもう何の穢れも無くて、相変わらずの真っすぐな彼に私はむしろ安心した。彼が来るといつも気持ちの良いほどの風が吹き、そしてその額のハチマキがそよそよとなびく。

「ていうか久しぶりだね、軍覇」
「そうだな!最近名前の顔を見てないと思ってたところだ!」

彼、削板軍覇は私の昔馴染みである。
私と同じ原石である彼とは、とある研究所で知り合った。原石について研究していたチームによって実験されることとなり、その時に彼と一緒に過ごしていた時期がある。彼はとても不思議な人で、成長した今もよく分からない。

「確かに昔そんな約束はしたかもしれないけど、アレは子供の時の話だから…」
「俺は真剣だぞ?」
「あんな約束無効だってば!」

その昔に彼と将来結婚しよう的な約束をした気がしないでもないが、そんなのは子供の戯言だ。だから今となっては意味のないものなのだけれど…彼はそうでもないらしい。そして何度断っても気にしてないのか忘れてるのか、次会ったら同じように彼は求婚してくる。もうあしらうのも慣れたものだった。
そしてそんな彼は――この学園の第7位だ。

「まあ久しぶりに会ったし、これからお昼なんだけど一緒に食べる?」
「ん?おういいな、一緒に食おう!」

一旦帰宅して打ち止めでも誘って行こうかと思ったけど、まあたまには昔馴染みと食べるのもありだろう。軍覇も乗り気のようなので、私達は飲食店の並ぶ道へと向かうことにした。

「軍覇っていつもなに食べてるの?」
「んーそうだな、牛丼、カレー、豚カツはよく食うな!」
「あー……裏切らないメニューだね(色んな意味で)」
「根性がつくぞ!」

相変わらずの根性バカで、本当に学園第7位なのかと疑うほどだ。ああ、今は8位になるのか。とは言っても彼の能力は未だに未知数なところがあるので、それが明らかになれば私なんか抜いて余裕で3位にはいけるだろう。侮ってはいけない男なのだ。

「あーー…まあ、ファミレスでいっか」

お昼ご飯何にしようかと色々考えた挙句、結局いつものファミレスに行くことにした。あそこ結構美味しいし、そういえば今は苺フェアしてるとかで気になるのがいくつかあったから頼んでみよう。そう思って、私はよく行くファミレスへと軍覇を連れていくことにした。

「軍覇って黙ってればモテそうなのにね」
「お、なんだやっとオレにホレたか?」
「いいえぜんぜん」

ファミレスへ到着した私たちは案内された席に向かい合わせで座って適当に注文をした。こうやって真正面で改めて軍覇を見ると、顔は悪くないんだけどなぁと頬杖付きながら思う。この根性バカなところと、わけの分からないつよつよ能力のお陰でなんとも馴染める気がしない。正直、よく彼といま一緒に食事をしているものだと思うくらいだった。

「ていうか、私いま彼氏いるから」
「なに!いつの間に浮気してたんだお前!」
「いやそもそも付き合ってないでしょ私たち!」
「つーか誰だソイツ、ちゃんと根性あるヤツなのか?」

”彼氏”ってハッキリ言うのもなんだか恥ずかしいけど、ちゃんとそういう関係なんだっていうのは決めたことだし…おかしなことは言ってない。

「根性あるかは知らないけど、……私を守るために戦ってくれるような人だよ」
「…………そうか、なら問題ないな」
「だから結婚はできません、ごめんね軍覇」
「つまりはソイツと結婚するってコトか?」
「え…、」

そう言われて、私はピタリと固まった。確かに、軍覇と結婚できないとハッキリ断るということは…私は彼と、

「いや、いやいやいや!」
「なんだ?結婚も考えてねぇようなヤツの為に断られたのか俺は?」
「ていうか結婚って、私たちまだ学生だよ!?」
「でもオレは、そんだけお前に惚れてるけどな」
「っ…!!」

ちょ、いつも口を開けば根性しか言わない根性バカのくせに何でいきなり真剣な顔してそんなこと言うのよ。私はあまりにその真っすぐな視線が恥ずかしくてサッと視線を横に反らした。その瞬間、血の気が引いた。

「あ……あく、せら…」

まさかのまさかの反らした視線のすぐそこには、一方通行が立っていた。彼も私を見て驚いた表情を見せている。どうやら丁度ファミレスに入ってきて席に移動するところだったらしい。一人かと思いきや後ろには打ち止めが遅れてやってきて、彼女も私に気づいて「名前ちゃんだー!」とニッコリ笑顔で言う。私は固まった。

「ん?何だ、名前の知り合いか?」
「いやっ、あのぉー…」

とりあえずさっきの会話はどこから聞かれていたのだろうか、聞かれていなかっただろうか、そんな考えがぐるぐる回ってるうちに一方通行が口を開いた。

「オイ、ンだコイツ…オトモダチかァ?」
「そ、そう!お友達!昔からの馴染みでね、今日偶然学校の帰りに会ったからお昼一緒に食べてるの!」
「おう、俺は削板軍覇だよろしくな!名前とは将来結婚すんだ!」
「ア"ァ"?」
「ちょっと軍覇さん!?!?」

せっかくオトモダチで話を終わらそうとしたのに、まさかの軍覇のバカ発言に私は思わず席をダンッと音を立てて立った。すると周りから「修羅場か?」という声が聞こえてきて、私はさらに顔を青くさせる。そして一方通行の眉間はこれでもかってくらい寄ってるし、打ち止めも騒然とぱっくり口を大きく開けて見ていた。なんて教育上良くない状況なんだろう。

「名前ちゃん…前から思ってたけど、名前ちゃんって結構浮気性なところあるよね…こういうのをなんて言うんだっけ?びっち?ってミサカはミサカは実は心に秘めていたことをここでポロっと言ってみたり」
「ちょ、打ち止めちゃん!?今まで私のことそんな風に見てたの!?ていうかそんな言葉どこで覚えたの!!」
「オイ、どーゆーコトか説明しろ尻軽女ァ」
「ひぃー!もう軍覇のせいでややこしくなっちゃったじゃん!!」

まあとりあえず座れよ!なんてにこやかに軍覇は自分の隣をポンポンと叩いて一方通行に言った。いやいや何でそんなお前は相変わらず空気読めないのって思いながらも、確かにずっとここで立ってられるのも目立つので仕方ないかと私はため息を漏らす。そして2人は私たちの席へと同席することになるのだが、私の隣に打ち止めが普通に座り、そうすると席はもう軍覇の隣しか空いていない…。物凄く盛大に舌打ちが聞こえて、そして軍覇の隣に座る一方通行というとてつもない恐ろしい光景が出来上がった。

「あー…なに頼む?」
「ハンバーグがいいな!ってミサカはミサカはこの季節限定のとろとろチーズ入りハンバーグを指さしてみたり〜!」
「コーヒー」
「はぁい…」

正直言って未だに理解できないこの状況に私の肩は狭まるばかり。とりあえず注文を終えて打ち止めがドリンクバーにドリンクを取りに行き、3人だけの空間が出来上がる。

「彼は削板軍覇……昔研究所で一緒になって知り合った”ただの知人”です。で、こっちは一方通行…今、あの…えっと、お付き合いしています…」

私は二人の男を目の前に一体なにを言っているんだ。そして私の立場は一体なんなんだ。帰りたい。

「そうか、お前が……」
「ンだァ?テメェは…」
「お前、名前のことは本気なのか?」
「ア?」
「え?」

軍覇の顔が少し真剣なものとなり、一方通行へと視線を向けてそんなことを言い出す。いやいや、

「お前はコイツの父親かよ」

うん、それ。まさにそれ。私が言いたかったことを一方通行が言ってくれて私もうんうんと頷いた。

「ちゃんと根性はあんのかって聞いてんだよ」
「………………オイ、」
「ちょっと私のこと見ないでよ!ていうか分かったでしょ?軍覇は昔からほんと、こーゆー奴なの…」
「ハァ…、お前の周りはロクなヤツがいねェな」

それはあのメルヘン男のことを言っているのだろうか…。そしてなんとか一方通行も軍覇という男のわけの分からなさを理解してくれたみたいで、逆に憐みの目を向けだした。

「俺は名前の事を好いてる。結婚してぇのも本当だ。」
「ア"ァ"?」
「けど、お前がちゃんと名前のことを根性で幸せに出来るってんなら、今はそーゆーことにしといてやる」
「”今は”って何だよ」
「そりゃあお前が根性なくした時だ」

一体何を言うのかと思えば改めて軍覇から聞く真剣な言葉に、ついつい私もドキっとしてしまった。こんな風にド正面でド真面目に好きだとかなんだとか言われ慣れていないものだから仕方ない。軍覇のことだから冗談を言うヤツだとは思っていないけど、やっぱりこういうのはなんだかむず痒いものだ。

「ハッ、だったら一生テメェの出番はねェな」
「ははっそうか!お前ヒョロっちいのに案外根性ありそうだな、気に入ったよ!」
「ア"ァ?ダレにモノ言ってンだテメェは…」
「名前のホレたヤツが知れて良かったよ、それに前よりよく笑うようになったのも…お前のお陰っぽいしな。安心したわ。じゃあオレは退散すっかな!じゃあなお前ら!」
「え、ちょ…軍覇っ?」

よっと!…そう言って、軍覇は身軽に一方通行の頭上を飛び越えて席を立ってしまった。白い学ランをマントのようになびかせ、そしてニッコリ笑って手を振る。私と一方通行は口を半開きにして彼の後姿を見つめた。

「ただいまぁー!ってアレ?あの元気なお兄ちゃんがいないってミサカはミサカは遂にキレた一方通行があの人を消してしまったのかと青筋を立ててみたり!」
「ンなわけねェだろ」
「あーあははおかえり打ち止め」

ドリンクバーで最近流行りのミックスドリンクを作ってたらしい打ち止めがおぞましい色のドリンクをもって帰ってきて私の横へと座った。私と一方通行は嵐が過ぎ去ったかのような疲労っぷりで、2人してハァとため息を吐く。

「でも……へへ、一生出番ないのかぁーそっかぁー」
「オイ、ニヤニヤしてンじゃねェぞ」
「えーだってねぇー?」
「なになに?なにかいいことあったの?ってミサカはミサカは確かに気持ち悪い顔してどうしたのかなって名前ちゃんを心配しながら聞いてみたり」
「ブスがさらにブスになって見るに堪えねェぞ」
「2人して酷い!!」

一生って言ったのだから、
そこは責任もって根性見せてもらいましょう。





根性を見せろ


 

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