お酒は弱い方ではなかったものの、普段から飲む方でもなかった。

「おっ、なまえ今日は珍しく飲むじゃねぇか!もっといくかぁ!?」

毎日のように宴が行われているこの海賊団で、いつも控えめにお酒を楽しんでいたなまえは珍しくも早くにグラスを空にして隣にいるヤソップに注がれ飲んでいた。

「私だって、飲む時は飲むんですよ。子供じゃあないんですから……」

そうだ、子供じゃない。
なのに、ここの船員ときたらなまえを、てんで子供扱いするもんだからイライラしている。
お酒をこんなにも飲むのは人生で初めてかもしれない。

「ねぇ、お頭。私子供じゃないでしょ?」

この場の中心にいるシャンクスに歩み寄り、少し千鳥足になりながらその場に座り込んだ。
そして、シャンクスの腕に絡み付いたのである。

「おい誰だよ、なまえにこんな酒やったの。完璧できあがってんじゃねぇか」

お酒のせいで少し顔を赤く染めるなまえに少し呆れたような、諦めたようなそんなシャンクスの視線がなまえに降り注がれた。

「できあがってません。私、お酒強いんですよ」

「おれはどちらかというと酒の弱い女の方が好きだ」

じゃあだめですね〜なんて言ってケラケラ笑うから完全に酔ってることをこの場にいる全員が確信した。

「ねぇ、お頭」

「そんな目で見るな、食っちまうぞ」

幼くも可愛げのあるくりっとした目は、今この場でそれ以上にとろんと色のある目で見るから、お酒の威力は怖い。

「試してみますか、一発……」

「もうその辺にしておけ、お頭もだ」

白い肌からのぞかせる鎖骨あたりのボタンを手にかけた姿に周りの船員は唾を飲み込んだが、その刹那なまえは少々強引に腕を引っ張られた。
後ろによろけたが、壁のような分厚い胸板で受け止めたのはベックマンだった。
そして、有無を言わせずそのままなまえを肩に担いだ。

「寝かせてくる」

「ちょっと、!」

そう一言だけおいていくと、周りの船員はその2人の姿を散々に茶化した。




「飲みすぎだ、何がそんなに不満なんだ?」

連れられたのは、ベックマンの殺風景な部屋だった。
なまえはベッドに腰掛けて口をムッとさせた。
不満と言われれば、不満だ。
意中の人間に子供扱いなんてされると脈なんてないと思い知らされてるようで、嫌になる。
けれど、それを口にしてしまうと余計にそんなことない頭ぽんぽんで終わってしまいそうで可愛げの欠片もない態度でなにも、と言ってしまった。

ベックマンはなまえの前に跪き、月明かりだけを頼りに互いの目線を合わせた。

「だったら、冗談でも自分を安売りすんな。てめぇは女だ」

「……だって、子供扱いしてほしくないもん、副船長にはとくに!」

普段から恐ろしい面相であるが、さらに眉間に深く皺をよせた所でこれはやばいと思ったなまえは大人しく白状した。

「子供扱いした覚えはねぇ。そそっかしくて心配なだけだ」

「それよ、それ!そそっかしいのはしょうがないとして……それだけで心配される年齢でもないじゃない」

「惚れた女を心配するのは当たり前だろう」

「いや、だからね、!……え?」

それだけじゃ理由にならないの、と反論しようとすればサラリと愛の告白が聞こえたから一瞬自分が何を言おうとしたか遥か彼方へ飛んでいってしまったではないか。

「……惚れ、え?惚れた?」

ベックマンは、立ち上がるとなまえから離れてタバコを口にくわえ何事も無かったかのように一服した。
それと同時に今まで飲んでいたお酒がサーっと頭から引いてしまった。

「……ふ、副せんちょ、私のこと好きなんですか?」

「そう聞こえなかったか?」

質問に質問で返すな余計わからなくなるじゃない、

「あの、……寝ます。おやすみなさい。」

一旦冷静になろう、お酒のせいかもしれない。そう思ったなまえはすぐに自分の部屋へ帰った。


顔が熱い。
お酒のせいなのか、それとも……。




なまえはその夜、もちろん眠ることはできなかった。



end.





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