1ミクロンほどの裏あり



船の資料室は、放っておくといつの間にかぐちゃぐちゃになる。
誰も整理しないからだ。
そう思って、ランタンを持って1日を犠牲にしてそれを片付けていたのに。

「なんだ?資料室開けっ放しじゃねェか」

「あ、私……」

"ここにいます"と、そう言おうとする前にガチャリと鍵がしめられた。

「ちょっと!」

この資料室、内鍵がない。
つまり、外からまたあけてくれないと外には出られないのだ。
私がいないことに気がつけば、なんとかなるだろうが最悪だ。

どうしようかなぁ、とりあえず気づかれるまで資料整理しようかな。

まだ手につけていない本棚へと向かえば、誰かがすやすやと寝息を立てて眠っていた。

「……シャンクス?」
「んあ?……おぉ、なまえじゃねェか。いつの間にか寝てた」
「……」

この船の船長が、こんなところで何してんだ。
私は、はっとしてすぐにシャンクスに背を向けた。

「なんだよ、まだ怒ってんのか」
「……」

そうだ、私とシャンクスはケンカ中だった。
私の一方的なものだけど。

それは、つい先日のこと。
街の酒場で飲んでくると船員をつれて行ったのは良いのだが、シャンクスは服に真っ赤なルージュのキスマークをつけて帰ってきたのである。
そんなヘラヘラして帰ってきた彼に、無性に腹が立ちシャンクスなんて嫌いとつい言ってしまってからすごく顔を合わせづらくなって最近まで避けていた。
別に、キスマークをつけてきたからといってシャンクスがその女の人とどうこうなることはないというのは分かっている。
現に今は怒っていない。
しかし、連日避け続けていたからどう顔を合わせたら良いのかわからなくなってしまった。

「いい加減、機嫌治せよな。あれは何もなかったんだって……」
「……」

知ってる。
知ってるのだけれど……、シャンクスがしゅんとなっているのが面白くてついつい意地悪したくなる。

「いつまで無視し続けんだよ。お前に避けられ続けると結構こたえんだよ……なァ、なまえ」
「……っ」

背を向けているから、シャンクスには私の表情は分からない。
楽しくてつい笑いをこらえるのに必死だ。

「はっ、おい泣くことねぇだろ?おれが悪かったって。おれが好きなのはなまえだけだって……なに笑ってんだ?」
「わ、笑ってなんか……!」

笑いをこらえるために、必死になれば震えてそれがシャンクスには泣いてるように見えたらしい。
後ろからぎゅっと抱きしめて、甘い言葉を聞かせられた瞬間にそれはバレてしまった。

「ほーう。おれをおちょくるなんていい度胸だな」
「シャ、シャンクス?」

本棚を背に感じ、片手をつかれ正面にはシャンクスと。もう逃げられない状態。

「ね、ごめんね。シャンクス。私が悪かったから……とりえず一旦離れよ?」
「ばーか。離れたら逃げんだろ。お前に触れられなかったこの数日おれがどういう気持ちだったかわかるか?」
「でも、こんな所で」
「お喋りは終わりだ」

シャンクスは、私に噛み付くようなキスをした。

「ほら、もっと口開けろ」
「……ん」

獲物を見るようなその鋭い目は捕まったらもう終わりだ。止まることは無い。
形では止めたものの、久しぶりに感じるシャンクスの熱に触れてしまえば求めてしまう。
後は、快楽に堕ちていくだけ。


兎にも角にも、もう意地悪はよそう。
そう思った。



end.






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