「なんだ?神妙な面して」
「次の島で、船を降りたいの」


船長室に2人きりで、お頭にそう告げた。


「それなら却下だ。終わり」
「え、理由……聞かないの?」
「理由聞いたってそれを許可しねェんだから同じだろ」


まるで興味ないと言いたげに話を終了させ、分かったら行けとまで言われた。


言われた通り、部屋を出るとはぁとため息が出る。

別に、海賊を辞めたいわけじゃない。
出来ることなら、ずっとお頭について行きたいとさえ思っている。

でも、ダメなんだ最近。

副船長、ベックマンを見るとなんだかドキドキしてそわそわして……普通でいられなくなる。
時々、今も彼のことを考えると胸が苦しくなったり。

もしかして、これはベックから離れろと、そういう信号なのかもしれないと思ったのだ。

結局、それを却下されたわけだけれど。
結構な覚悟で言ったのに、却下された事で安心してるなんてあまっちょろいなぁ私。


「変な顔して、どうした?」
「うわ!ベック!」


ほら、これだ。
心臓がドキドキしてきて、顔まで熱くなってきて、


そして、部屋に逃げた。
なんなんだろう、これ。









「で、なんでベック……?」
「お頭に言われたんだよ。"なまえをちゃんと見とけ"ってな」
「そんな……見てなくても、逃げ出さないのに」


数日後、新しい島に着いたというのに、お前は留守番だとベックに止められ、今に至る。


戦闘もまともにできない私を置いてくれている恩があるというのに、勝手に逃げ出すわけもない。
なのに、その見張り(?)役がベックだなんてお頭の意地悪。


「お前に避けられるようなことしたか?」
「え、?……してないけど」
「じゃあ、最近おれの顔見て逃げるのはなんなんだ?」
「それは……ベックといるとドキドキするんだもん。心臓が。今もそう!普通でいれなくなるの」


ベックは煙草の煙を深く吐き出すと、なにやら呆れた顔をした。


「色気のない愛の告白だな」
「愛?ベックの事は好きよ?」
「お頭はどうだ?」
「んー、お頭の事も好き。でも、お頭と2人でいても、ドキドキはしない」


ふっと、笑うベックを見てまた胸がキュンとした。


「おれの女になるか」
「ベックの?どうしたら良い?」
「そばにいたら良い」
「なにこれ、すごい嬉しい……かも。離れなくても良いんだ。ねぇ、ベックはこの気持ちなんなのか分かるの?」


離れた方が良いと勝手に結論を出していたから、こんな結果全く想像していなかった。
私の質問に、ベックはいつもの低い声であぁ、と答えた。


「ドキドキするの?」
「そんな柄じゃねェだろ。まあ……なんだ、お前と一緒っちゃ一緒だな」
「一緒?私にも分かる日が来るのかな」
「これからゆっくり教えてやるよ」
「わっ、」


煙草を灰皿に押し付けて、私の額にベックは口付けしてくれた。
今が今まで以上に、最高に胸が高鳴っている。


早く、この感情の意味が何か知りたい。






end.


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