なまえは、おれの娘みてェなもんだからなァ

私がまだ幼かった頃、シャンクスに拾われて成人した今までお酒を呑むと必ずシャンクスはそう言う。
最初こそは何とも思わなかったその言葉に、物心ついた時には複雑に感じるようになった。
いつしか、そんなシャンクスに恋心を抱くようになったのだ。

年が離れているといっても、10といくつかだけ。
そんな娘だと思われる年齢でもないじゃない、と、まだ帰らないシャンクスのベッドの上で勝手に毛布にくるまりながら少し拗ねていた。
私は子供としてじゃなくて、もう女として見てほしいの。
シャンクスの匂いのする毛布を体に巻き付けると本人に抱きしめられているような感覚に陥る。
そういえば、昔はよく一緒に寝てくれてたな……。
微かに残る意識は少しの衝撃で覚めた。

「んあ!?……驚かすんじゃねェよ。なにしてんだ、なまえ」
「……おかえり」
「ただいま、ってそうじゃなくて、何してんだって言ってるんだけどな」
「怒ってるの?」

シャンクスは不機嫌そうに眉を寄せると、ため息をついてベッドに座った。

「野郎のベッドにそんな無防備な格好でいて、何かされても文句言えねェぞ」
「じゃあ、文句言わないから手出してよ」
「……なんだって?」

目を細めて先程よりも、ずっと低い声でシャンクスはそう言った。

「私、シャンクスの事が好きなの」
「あぁ、おれだってお前のこと」
「娘みたいに大事に思ってるって、?そんなのじゃなくて、私の言いたいこと分かるでしょう?」

シャンクスの言葉を遮り、こう言うつもりだったんだろうと問えば図星だったのか、私から目をそらした。
娘みたいに、なんていらない。

「おれとなまえは歳が離れすぎだろ。もっと同じ年代のヤツを好きになった方が良いんじゃねェか?」
「そんなのシャンクスが決めないでよ。私が好きになったのは他の誰でもないシャンクスなの。私だってもう大人だって言われる年齢になったのに、いつまでも子供扱いしないで……」

言っているうちに、感情的になってポロポロと目から溢れ出た。
あぁ、こうやって泣いたらまたほらまだ子供じゃねェかって言われる。
私は、強く目を擦るとシャンクスによってそれを阻止されぎゅっと引き寄せられるのを精一杯拒んだ。

「好きじゃないのに、そんなことしないで」

なんて面倒臭い女なんだ。
自分の可愛げの無さに腹が立つ。
でも、これが今出来る強がりだった。

「おれが本当に今でもお前を子供扱いしてると思ってんのか?」
「……」
「まず、この部屋にいることについてこんな風に言わねェ。昔みてェにベタベタ触らねェ。なんでか分かるか?」

案に相違するシャンクスの問に首を横に振る。

「なまえを、女として見てるからだ」
「……え、……えぇ?どういう事?」
「さっきも言っただろ。おれとお前じゃあ歳が離れてる。もっと若いヤツ見つけて幸せになってくれりゃあ、おれは満足なんだよ」

実際そうなったら、そいつの顔面1発殴っちまうかもしんねェけどな。私に背を向けて話すシャンクスが、今どんな顔をしてそんな話をしているの分からない。

「だから、突き放すように娘みたいだって言ったの?」
「あぁ、そうだ。そうだよ。ダッセェな、おれ」
「結局、シャンクスは私のこと……」

シャンクスの腕に触れようとすれば、今度こそ逃げられないように私の頭の後ろに手を回して続きの言葉を消し去るようにキスをした。

「好きだ」

ああ、ほんと無理。
なにこれ、反則じゃないだろうか。

「とりあえず、おれは寝る。お前はどうする?」
「……私も寝る!」

せっかく両想いだと分かったのに寝てしまうのは如何なものかと思ったけれど、起きてからまた考えよう。

「……もう寝てる」

静かに寝息を立てて眠るシャンクスを少しだけ見つめて私もその隣で眠りについた。






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