hot juicey

 








 






「せっかく来たのに休み?」


 夕飯どきも過ぎ、店はこれから夜の酒場へと顔を変える。

 食べ終えた食器もそのままなテーブルが目立つ中、ニックスはカウンターに肘をつき、いないと言われた人物を探して厨房の奥を覗き込んだ。

 対面で同じように肘をついて煙草をふかした店長が答える。


「悪いね。風邪ひいちまったみたいでさ。小一時間くらい前に帰したんだ」


 その言葉にあからさまに肩を落とす。


 惚れてる女が風邪。

 とくればお見舞いに託(かこ)つけて家に行きたいところだが、生憎来るなと念を押されている。

 本当に嫌そうだったから住んでる家も知らない。煙たがられているという自覚は一応あるのだ。片道1時間は徒労に終わってしまった。


 カウンターに下げられた捨てられるであろう付け合わせのブロッコリーをつまみながら、このまますごすご帰るはめになるのかと考えていると。


「そうだニックス、あんた様子見てきてくれよ。今スープ用意するから持っていっておくれ」


 ナイス店長!


 願ってもない申し出に、ニックスはカウンター下で拳を握った。


 最高の理由が出来た。

 これなら問答無用で殴られることはないだろう。


「家は知ってるだろ?」

「あー……入り組んでるよな……近かったっけ?」

「歩いて20分くらいってとこかね」

「そうだったか。念のため簡単な地図書いてくれよ。ほら、俺この辺疎いからさ」


 本当は知らないんだけど。


 はいよ、と返事をして奥に消えた店長を見送り、ニックスはテーブルを片付けているウェイトレスに笑顔で手を振った。
















「さて。ここまで来たわけだが……」


 蓋つきの容器に入れられた店長からのスープと、途中で調達した薬と果物が入った袋を下げてニックスは顎を撫でた。

 ノックしたところで居留守を使うだろうし、呼び掛けて外にいるのがニックスだとわかったら絶対開けないだろう。
 早退したほどだ、眠っていることも考えられる。

 要するに、内側から開かれる可能性がほぼ無い扉なのだ。


「ここはひとつ……」


 手首のスナップでぱちりとナイフを取り出したニックスは、いとも易々と解錠させた。

 建物に比例して簡素な鍵だ。


 危ねぇなあ……。暴漢に入られたらどうすんだよ。


 自分のことは完全に棚上げである。


「○○ー? ……寝てるか?」


 灯りは点いていない。

 昼間とはいえ窓は小さく入ってくる光は少量の室内で、勝手に電気をつけて見回す。


 質素な造りで調度品も最低限しかない。

 言ってしまえば、家賃の安そうな部屋。


 しかし。

 ここで○○が寝起きしている。


 着替えたり、風呂に入ったり。○○が生活をしている空間だ。


 それらを想像するだけでニックスの口元はだらしなく緩む。


「っと危ない危ない。○○ー?」


 気配はある。奥が寝室か。


 ところどころ軋む床をなるべく静かに歩き扉を開ける。

 ゆっくり開けたからか、これもギィと音を立てた。


 その音に反応してか、○○がむずがゆそうに寝返りを打つ。


 寝てる寝てる。


 そろりそろりと忍び寄ってサイドテーブルに袋を置き、イスがなかったのでベッドの縁に慎重に腰掛ける。

 体重の重みでベッドが沈み、○○の身体が傾いて前髪がはらりとこぼれた。


 熱がありそうな火照った顔。首筋に張り付いた髪。薄く開かれた唇。

 険しい眉間のしわは風邪かデフォルトか知らないけれど。


 ……エロ。


 唇を親指で撫でると少しカサつきを感じた。


 水分足りてんのか?


 ○○の向こうに手をつき、身体を屈めて唇を舐める。


 ぴく、と肩を強ばらせて毛布の端を握りしめた○○だが、仰向けに寝返りをうち、しばらくすると息を吐き出して筋肉を弛緩させた。


 そりゃ家教えたくないよな。こういうことされちゃうし。


 衣擦れの音がしてベッドの足元に目を向けると、立てた片足が毛布からはみ出ていた。


 じ、と眺めてごく自然に手を伸ばすニックス。

 毛布を掛けてやるのかと思いきやそのまま手のひらをゆっくり這わせる。


「ん……」


 ○○が吐息を漏らした。


 尻の位置を足元の方へずらして、細い足首、汗ばんだ膝裏、柔らかい太ももを堪能しつつ、○○の反応を窺う。


「ん……、ぅ……は、ぁ……」


 甘く浅い吐息が色っぽい。

 緩慢に頭を傾け柔らかな快感の波を耐えている。


 やべぇな……起きたら殺されるぞコレ。


 ならばさっさと起こせばいいのだが、それでも起こせないのは、こんなに無防備な姿の○○を見ることはもうないかもしれないという可能性からだろう。

 潜入任務張りに気配を消しているニックスもニックスだが、ここまで触られて起きないのは……風邪のせいだろうか。


 隙だらけな○○が悪い。

 ウン。

 起きないのなら。


「犯しちまうぞ、オネーサン?」


 指先で。手のひらで。敏感な内太ももを楽しんでいると○○の眉が切なく歪み唇がもどかしそうに動く。

 言葉は紡がれず吐息だけが漏れる。


 エロい。いつもに増してエロい。


 完っ全に、やめどき逃したな……。

 どうしたものか……。


 そう考えたのは一瞬で、一度頷いたニックスは太ももに視線を向けた。


 イケるとこまでイクしかないでしょう。


 膝頭にキスをして、ショートパンツの裾ラインを指先でなぞる。


 柔らけー……。

 弾力を手のひらに感じながら内ももの深いところを撫でると○○の身体がびくりと跳ね、ぱたんと足が閉じた。


 熱があるのは間違いないな。

 挟まれた太ももはかなり熱い。そしてかなり柔らかい。


 ではなく。


 ……これ手のひら広げたら届くんじゃないか?


 思わずにやけたニックスは、心の中でいただきますと合掌して指先に力を込めた。


 が、○○の足は予想以上に固く閉じられていた。

 汗で張り付いているのもある。


「ム……」


 更に力を込めようとすると、○○は足を組むように膝を交差させた。


 ……。

 視線を感じる。


「……よぉ。オハヨ」


 そろりと見ると、そのままの体勢でこちらを冷ややかに睨み付ける○○と目が合った。


「オヤスミ。このまま腕折っちゃっていい?」


 上体を起こした○○はスケベ心が原因で固定されているニックスの右腕の肘を容赦なく殴る。


「待て待て! やめろって! お前抱けなくなるだろ!」

「そんな予定はない! 安心して折れろ!」


 完璧に分が悪いニックスは左腕でぐいと膝をこじ開け距離を取って両手を上げた。


「あぁほら風邪ひいてんだろ。安静にしてろって」

「どの口が……」


 けほ、と咳き込んだ○○がじろりとニックスを睨む。


「大体……なんで家にいるの。鍵は」

「開いてたぞ。不用心だな」


 真偽を確かめるようにニックスを表情を窺うが、残念ながら読み取れない。

 いつもと違い、確実に掛けた、とも言い切れない。


 しかし住所は教えていない。


「調べたの? それとも後つけた? ……最低。帰って」

「違ぇーよ。店長に様子見てきてくれって頼まれたの。ほら地図。と、差し入れ。スープだとさ」

「……店長」


 はあ、とため息をつく。

 ニックスに教えないでと言っておけばよかった。


「で? 具合はどうなんだ? 熱があるのはわかったけど」


 その言葉に眉間のしわを深くしながらニックスを睨む。


「見ての通り。移る前にさっさと帰って」

「せっかく来たのに? 看病させろって」

「あんたの看病なんていらない」

「薬と果物買ってきた」

「いらないってば」

「意地張るなって。金なんて請求しねぇよ。リンゴ食おうぜ。剥くぞ」


 全然聞かないし……。

 出ていかせることを諦めた○○はニックスの手元に目を向ける。

 ……が、気がかりがひとつ。


「……それ、モンスター切ってるやつだろ」


 腰鞘から取り出したそれは果物ナイフにしては大振りで複雑だ。

 常備していることから日頃携行して様々なことに用いているのだろう。


「手入れしてますから」


 ○○の心配にウィンクを返し、中心に向かって食べやすい太さに分けたひとつを器用に剥く。


「ほらウサギ」

「……どこが?」


 変わった皮の剥き方だなとは思ったが完成形らしいそれにウサギらしい要素は全くない。


「お前は○○、俺はニックス、これはウサギ。そういう決まりなの。ほら」


 目の前に突き付けられたウサギと言い張るそのリンゴ。

 なおも差し出すニックスにしぶしぶながら○○は手を伸ばしたが、ひょいと手を下げられた。


 ピキリと眉間にしわを刻んでニックスを睨む。


「バカにしてんのか。やっぱりいらない。持って帰れ」

「拗ねんなって、俺が食べさせんの。ほら○○」


 何の意味が?

 じぃ、とニックスを見るが、本当に食べさせたいだけらしい。


 口で迎えに行っても今度は手を引かなかった。

 しゃくりと一口かじる。


「美味いか?」


 シャクシャクと新鮮さを表す音が部屋に響く。

 ○○は頷いた。

 硬めで、蜜がたっぷりで美味しい。


「そうか。よかった。果物ってアタリハズレあるからな」


 もうひとつ同じように切り分け、七割程になったリンゴは自分が食べる。


「お。なかなか」


 もぐもぐと咀嚼しながらふた切れめを○○に食べさせつつ、種とヘタをリンゴが入っていた袋に捨てる。


「果物なんていつぶりに食べただろ……」

「喜んでもらえて何よりだな。……これでさっきのはナシに……」

「ならない。」


 ぴしゃりと言い放ってニックスを睨むが、○○に睨まれることに慣れてしまったニックスには効果が薄く、肩をすかして袋を覗いた。


「イチゴは? 好き?」


 小さく頷いた○○に笑みを浮かべたニックスはプラスチック容器に入ったイチゴを取り出した。

 ヘタをかじって切り離し、入っていた容器にぺ、と出すと、やはり先ほどと同じく食べさせることを所望した。


 腕で身体を支え、大粒のイチゴをかじる。

 真っ赤なイチゴは砂糖がかかっているのではというくらい甘いかった。


「すげぇジューシーだな、あまり期待してなかったんだけど」


 ○○がかじって半分になったイチゴは自分が食べる。

 甘いイチゴの甘い部分だけを食べさせるニックスに甘やかされているような気分になる。

 ……洒落じゃなく。


「ほい」


 同じようにふたつめを差し出すニックス。


 腕を伸ばして顎を上げて食べさせられる。


 ……?

 ……あぁ。ナルホドね。


「甘いなこれも」


 にこにこと更にみっつめを差し出すニックスを無言で睨む。

 手の位置はさっきより少し、高い。


「……狙ってるだろ変態」

「あ。バレた?」


 さして悪びれた様子もなくニックスは歯を見せて笑った。


「俺に食べさせられてる○○が可愛いしエロいなーって思って。風邪っぴきで割り増しだしよ。しかもイチゴってエロくね? あとバナナとか。さくらんぼとか」

「食べづらくなるようなこと言わないで。いつもそんなこと考えてるわけ?」

「いつもじゃねぇけど……お前がバナナ食ってたら想像しちゃう」

「……最低」


 本当にこのニックスという男は明け透けに物を言う。

 からかって反応を楽しんでいるとしか思えない。それにしたってもっと純情に反応してくれる女性へいってくれればいいのに。


「……頭痛い」

「食ったら薬飲んで横になれよ。寝るまでついてる」

「余計寝れないから」


 重量級の優しさが煩わしい。

 ひとりにしてほしい。


 さっさとニックスを追い返すためにも、○○は最後のイチゴを食べるべく首を伸ばした。
















 首を伸ばしきって届く絶妙な距離のイチゴを、尖らせた舌の先端でちろちろと舐める。

 流し目でちらりとニックスを視界に捉えまつげを伏せると、ゆっくりと口を開けてイチゴを半分ほど含んだ。そしてじわりじわりともどかしいほどの時間をかけて顔を引く。


 ニックスが呼吸を忘れ馬鹿みたいに口を開けてこちらを見ていて思わず鼻で笑いそうになった。


 ん……。


 うつむいて流れてきた横髪を耳にかけ、座る位置を少し近づけるといろんな角度から唇であま噛みする。

 ときにはニックスの指先に触れ、舌先で遊んだ。

 口内は唾液が溜まっていて唇が離れたときは糸を引いているのが自分でもわかる。


 ゆっくりと少しずつ口内に埋没していくイチゴ。

 尻まで完全に含むとその周りを舌でなぞり始めた。


「ん、……は……ゥ、ン…………ん……」


 顎を上げ、角度を変え、何度も抽挿を繰り返すとニックスが小さく呻いた。

 溢れた唾液が口端からこぼれる。


 先端を浅く弄びながら○○は手を伸ばしてニックスの腕を自分へと引き寄せた。

 関節から軋みが聞こえそうなほど固まっているが、力が入っているわけではない。


 ニックスの逞しい腕が○○の柔らかい胸に触れる。


 指で摘ままれたイチゴは○○のすぐ下。


 その行為のせいか熱のせいか、とろん、とした瞳でニックスを見た○○は窮屈そうに舌を伸ばして顔を動かし始めた。


 ふたつの膨らみを腕に押し当て挟み込むように肩を寄せ、○○の両手はニックスの手の甲から肘、肩までをいやらしく撫で回す。

 指先や指腹で触れるか触れないか程度に。

 なめらかな腕の内側で抱き締めるように。


 その動きを続けながら、口も休むことなく行使する。

 下を向いていることで垂れやすくなった唾液を吸う卑猥な水音が部屋に響いた。


「……ゥ……、ふ……」


 眉を歪め、苦しそうに呼吸しながら舌を使ってイチゴを潰すと果汁が口内に広がる。

 柔らかい果肉をそのまま飲み込むと、ニックスの指が動けることを思い出したように○○の舌を撫でた。


「ん、……ぁん」


 それでも○○は愛撫をやめず指の股にまで及ぶ。

 丹念に丹念に舐め上げ音を立てて唇を離しながら、熱い吐息を吐き出し胸を上下させて乱れた呼吸を整える。


 そして。


 伏せていたまつげを戻すと、○○の眉間には見慣れたいつものしわが刻まれていた。
















 さっきまでの○○は幻かというほど、冷ややかな瞳でニックスを睨み付ける。


「何この手」

「そういう流れだろ?」


 ○○が弄んでいた方と逆の手は○○を引き寄せようと後頭部、首筋に添えられていた。

 今の会話を挟んでもニックスは薄く笑みを浮かべたまま顔を近づけるのをやめない。

 こちらがニックスのいう流れに明らかに乗っていないのを知った上で、それでも強引にもっていくのは自分の欲望に正直なためだろう。


 ○○は煩わしそうに顔を背けニックスの手を払った。


「馬鹿野郎、ただの果物代。これでチャラだ。満足したなら帰って」

「今ので勃った。なぁ○○」

「脱ぐな! 乗ってくるな! おっ勃てたまま帰れ、変態」

「誘っておいて生殺しかよ、ひでぇな」

「誘ってないから。ただのリンゴとイチゴ代」

「他にオレンジもあるぞ。あとグレープとかナシとか」

「多すぎ。どれだけ買ってきたんだ……食べれるわけないだろ」

「お前の好きなものがわかんないからな。いろいろ買ってきた」

「……持って帰って」


 ○○は脱力したようにため息をついた。

 その隙にニックスは向きを変えて○○の隣に座り直すと肩を抱き、指の腹でなめらかな肌を味わいながら耳元で囁いた。


「なぁ○○……セックスしようぜ。お前もその気だっただろ? ……さっきのすっげぇエロかった」


 俺にもしてくれよ。


 薄い毛布の上から太ももに手を這わせ、腕を上下に撫でる手は故意にだろう、指先が横乳をかすめる。


「あぁもう。調子に乗らせるんじゃなかった」


 短く息を吐き出した○○はいきなりニックスを押し出す。

 予期していなかったニックスは踏ん張りきれずにたたらを踏んで立ち上がった。


「わたし風邪ひいてるの。明日も仕事だから休みたいの」


 わかる? と指を立てて馬鹿にしたような口調で言ってみるが効果はなし。


「お前の風邪なら移ってもいいぜ。明日も仕事だけどヤりたいの」


 わかる? と真似までされて逆に腹が立つ。


「……さっさと帰って一人で抜け」


 これは……無視するに限る。


「人を発情させといて寝ちまうのか?」

「手ぇ出しちゃうぞー?」

「コレ鎮めてくれよ○○ー」


 ごろんと背を向けて肩口まで毛布をきっちり掛けてしまった○○には何を話し掛けてもだんまりだった。

 このまま無理に手を出して抱いたとして、よい方向には転がらないだろう。


 ……今も決して良好な関係とは言いがたいが。


 体調悪いのはマジだしな……。

 今日はおとなしく引くとしよう。


「んじゃ帰るわ。残りの果物、冷蔵庫入れとくから食べろよ。あと薬。飲めよな」


 ガサガサと袋から出して主張するようにパッケージをテーブルに置く。


 足音が遠のき、次いで開閉した冷蔵庫の機械音が聞こえた。


 勝手に動き回られ咎めたくもあるし、気を使ってくれていることに感謝の気持ちも湧く。


 だが一言でも口を開いて取っ掛かりを作るとニックスは再び腰を落ち着けてしまいそうなので無言を貫き通した。


「ああそだ、これ。薬ついでにイイモノ買ってきたんだった」


 びりびりと何かを破る音が聞こえたと思ったら膝で乗ったらしくベッドが軋む。


「動くなよ?」

「……何。……ッ!? 冷たっ」


 額に貼られた湿布のようなものは手で触れても冷たくないのに、貼られているおでこは痛いほどに冷たかった。


「冷えピタっていう便利グッズ。冷やしたタオルみたいに温くならないし、ずり落ちないし、なかなか便利なんだぜ?」


 笑顔のニックスと目が合い、さすがに無言ではいられない。


「…………ドーモ」


 礼だけ言ってまた顔を背ける。


「素直で大変よろしい」


 そんなぶっきらぼうな○○にもニックスは満足そうに笑って髪を優しく梳いた。


「明日、仕事終わってから店行くよ」

「……来なくていい」

「おやすみ」


 かき分けて覗いた耳にキスをして名残惜しそうに髪から手を離し、ニックスは初訪問の○○宅を後にした。
















 街灯の少ない路地を抜け、荒い舗装が施された道を歩く。

 この辺一帯では広めの道路だが、そもそも車など持っていない貧民層が暮らす地域だ。

 車道と歩道はかろうじて分かれているものの、車道の真ん中で酔っ払いか浮浪者が大の字で寝そべっていた。


 あんまり治安良さそうにゃ見えないが……危ない目とか遭ってねぇだろうな。


 金がないと○○は言うが、もう少しくらい生活水準を上げてもよさそうなものだ。


 いっそ強姦魔に出くわし懲りてくれればいい。

 そうしたら諭して街中に転居させられる。

 うちに来てくれてもいい。


 一回なら、よくやったって許してやる。

 ま。ブッ殺すけど。


 矛盾してることに気づかずそんなことを考えながら駅に到着したニックスは改札を通り階段を上がる。


 人もまばらなホームだ。

 到着する電車も空いていることだろう。

 電光掲示板を見ても流れているのは次の到着時刻ではなく、乗車マナー。


 待ち並ぶ必要もないのでベンチに座って待つことにした。


 ふと、右手を見る。


 強烈に残る○○の感触。


 誘うように這う指先。

 艶かしく動く唇。

 妖しく蠢く舌。

 女性特有のなめらかな肌。胸。


 あんなことされて勃たない方がどうかしてる。


 思い出した今ですら、……少し立つのが躊躇われるくらいだ。

 ニックスはぶるりと大きく身震いした。


 もちろん金など要求する気はなかったが、リンゴとイチゴで、あれだ。


「高級メロンとかムリヤリ食わせとけばヤれたかな……?」


 まさかの展開だった。

 惜しむらくは、あれで満足出来ない自分の性欲。


 ガックリとうなだれる。


 フェラされてぇー……。


 あの舌、唇に包まれたらどんなにか。

 ニヤける口元を手で覆う。


 落ち着け俺暴れるな俺。


 そう自分に言い含めても○○の視線が、感触が甦る。

 消えない。


 ……いやいや消すなんて勿体ない。


 さっさと帰って一人で抜けと言われたけれど。


 電光掲示板は相変わらずのアナウンス。

 電車はまだ来ない。


 ニックスは男子便所の看板を確認して立ち上がった。
















end
後書き