司くんの印象は、ひとことで言うなら「隙のない人」だった。
 顔立ちも、勉学も、スポーツも、性格も。何もかもが完璧で、まさに「理想の男」。妹がよく読んでる少女漫画に出てきそうな、王子様みたいなイケメンだ。

 だからこそ、こんな完璧な人物の欠点はどこにあるのだろうと探ってしまうのは、すべての人間の性(さが)なのではないだろうか。

 俺は、観察し続けた。
 観察しているということを悟られないよう、こっそりと。
 速水司という人間を、分析し続けた。

 そして俺は、ひとつだけ――気づいてしまったことがあるのだ。

◇ ◇ ◇

 春日井学園における速水司はまさにカリスマ的存在で、俺達の学年にもその名が知れ渡っているレベルだった。

 「体育祭のリレーでアンカーをつとめ、ぶっちぎりの1位でゴールし、クラスの優勝に貢献した」
 「理系でトップの成績をおさめた」
 「誰に対しても分け隔てなく優しく、平等に接してくれる」

 彼の学園内での評判は輝かしいものばかりで、悪い噂などひとつも聞いたことがなかった。

 だけど俺には、どうしても解せないことがあった。

 ――どうして彼は、姉がひどい仕打ちを受けた高校に、自ら望んで入学したのだろうか?

 泉美が春日井学園でいじめを受けたという事実は変わらない。弟がそんな高校に入学するとなれば、泉美はきっと悲しむに違いない。
 そんなことが、司くんに分からないはずはないのに。

 それなのに、あえて理由を作って、彼は春日井に来た。
 そういった事実から推測するに……、彼の根底は、実は、周りが思うような明るくキラキラしたものではないのかもしれない。

 彼には、なにか底知れない陰を感じる……。

 泉美が、そうであるように。






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雪月花