05
的場と話すと嫌でも4年経っていることを実感する。聞きなれない言葉に、自分の知っている彼とは違うのではないかと怖くなる。高校3年の時、たしかに大人との付き合いが増えたせいか私に対しても丁寧に話すことが増えた。それでも今まで通りの話し方が多かったし、一人称も“おれ”であることがほとんどだった。
まるで、年下に対して諭すような言い方に同じ人だと思えなかった。
食事がのどを通らない理由も
吐き気の理由もわかっている
口に入るものは、それでないと言うのに
あの感覚が戻ってくるのだ
妖を喰らうあの感覚が
...妖だけじゃない
「いくら邸から出ないとはいえ、寝癖ぐらいは直してください」と前に言われたけれど、
本当は鏡を見るのが怖い
自分が自分の成りをしているのかさえ不安になる
物音や気配に敏感になり
夢見も悪くてまともに睡眠もとれない
魘されるたびに、苦しくなるほどの吐き気を感じるたび
あのまま助からなければ良かったのにと思う
妖祓いが妖に無抵抗なまま喰われ、今こうしてここにいる自分に嫌気が刺す
何のための力だ、家族すらまともに護れない
『......っうぐ』
胃には何も入っていない
喉の焼けるような痛みにも慣れてしまいそうだ
このまま何も食べずに衰弱すればいいとさえ思ってしまう
こんな役立たず、消えれば良かったのに
『雪』
「明翠、外に出ていいのか」
『的場は仕事で出かけたし大丈夫』
「式がいただろ」
『一撃で』
「...明翠」
『こうやって、ちゃんと話すのは久しぶりね』
「そうだな」
『まだ、私のところにいてくれるの?』
「あぁ、当たり前だ」
『...ありがとう。雪は、変わらないね』
「人と妖の時間の流れは違うからな、お前も感じただろう?」
『うん』
「明翠」
『何?』
「また、会えてうれしい」
『...私も雪に会えてうれしいよ。来てくれてありがとう』
雪にしがみつきその暖かさと変わらない毛並の良さに安心する
『ねぇ、雪』
「なんだ」
『雪には、今の私がどう見える?ちゃんと人間?』
「人間に決まっているだろう。あまり馬鹿なことは言うな」
『...そう』
「...妖力が上がったのは、お前も感じているんじゃないのか」
『妖と繋がりが強くなるほど、力は強くなるから仕方がないわ』
「怖いのか」
『......』
「自分がか?妖がか?」
『全部』
「明翠。死にたいなんてことは考えるな」
『............』
死にたいわけではない
あのまま消えてしまえば良かったのにと思うのは事実だけれど
これは、違う
今の苦しさから逃げたいだけだ
昔、触れてしまったあの感覚とは違う
「あの男は、ずっとお前のことを探していた」
『......』
「お前は、覚えているのか」
『雪、的場の話はしないで』
「なぜ」
『怖いから、あの目が怖い』
「.........」
怖いと言った、明翠の様子は、どこかおかしかった
まるで妖の目線だ
感覚が同調することがあったと聞いてはいたが
まだその感覚が残っているのかもしれない
明翠を喰らった妖を、あの男は探しては消そうとしていたのだ
弓や術の痛みを思い出すのかもしれない
明翠から負の感情ばかり流れ込んでくる
あの男が邸の外に出したがらないわけがわかる
今の明翠は、いつ同じ目に遭うかわからない
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