01

“教えてやる。価値のない奴のところに助けなんて、ヒーローなんて来ないんだよ”

“誰もお前を必要となんてしていない、ヒーローが来てくれるなんて思うなよ?ばかばかしい”

“母親にまで助けてもらえないなんてな。まぁ、俺の世間体のためには必要だから置いてやるが中学までだからな”


解放されたはずなのに、嫌な時になるほどあの人の言葉が響いてくる。
”ほら、やっぱりお前には助けが来ない”と、そう言われているような気がする。

人の多い表通りを抜けて、裏道に逃げ込んだ。追ってくる鈴の音に耳を澄ませながら、上手く巻いてタクシーを拾えれば逃げ切れるだろう。そう思っていたのだが、30分ほど逃げてもなお一定の差で追ってくる・・・個性か何かわからないが、すでに知らない場所まで来てしまった。今、どのあたりにいるのか確認したくとも立ち止まればアウトだ。とにかく逃げ切って家に帰りたい。こういう時に限ってたくさん止まっているはずのタクシーにも出会えない・・・。

すでに体力的に走ることはできない。後遺症で弱り切った体力を少しずつ回復させてきてはいたが、完治はできず、ここまで息が切れてしまえば倒れるのも時間の問題かもしれない。一度どこかで息を整えたいが、ふと気を緩ませた隙に鈴の音が随分と近くまで来ていることに気づいた。

ここで倒れるより人のいる場所で倒れた方がいいと思い、最後の力を振り絞るつもりで再び表通りに戻ろうと走り始めた時だった。他に人がいるなんて考える余裕もなかったし、暗がりで気づくことができないまま、十字路を右に曲がった先で人にぶつかり、そのまま後ろにしりもちをついた。

「・・・痛っ」
「悪い、大丈夫か?」

余裕がなかったからか、自分が思っているよりもずっと彼らの存在を心のよりどころにしていたのかわからないが、よりにもよって第一声がこれだったなんて、後で思い返してもきっと笑い話だ。

「あ、あの、貴方ヒーローですか?!」
「え?」
「すみません、ぶつかっておいていきなり・・・そちらは大丈夫ですか?」
「俺は何ともないが、悪かったな怪我は?」
「・・平気です」
「・・・随分、息が上がってるが何かあったのか?」
「え?・・・あ、」
「・・・追われてるのか?」

私が来た道を振り返ったからか、地面にしゃがみ込んだその人は同じように暗がりの道の先を見て、そう言った。

「鈴の音、聞こえますか?」
「・・・・あぁ」
「かれこれ30分ほど、その人に追われてて」
「ストーカーか?」
「おそらく・・・あの、もしかして」

立ち上がって、そっと手を貸してくれたその人は、自分はヒーローだと肯定してくれた

「怖いかもしれないが、少しだけ我慢してくれ」
「・・・・?」
「安心しろ。ちゃんと捕まえてやるから」

頭を雑に撫でる手が子ども扱いされてる気がして嫌な感じがしたのに、見えている縁の暖かい色に、この人を頼りたいと思った。「大丈夫だ」と一言残して屋根の上へと上がったその人を目で少しだけ追って、自分に今できることを考える。おそらく、私は囮だ。狙いは自分なのだから、私はここを動かなければいい。上がったままだった息を整えながら、ただそこでじっとしていた。

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