09


「おかえり、遅かったな」
「ただいま。消太さんの方が先だったか」
「飯は」
「まだだけど?」
「食うか?」
「え、消太さんが作ったの?」
「これは、作ったっていうのか?」
「食べる」
「・・おう」
「誰かに作ってもらったご飯なんていつぶりだろ」
「・・・いや、別に俺が作ったってほどじゃ」
「・・っ・・・でも、家に帰って来て、誰かが、ただいまって言ってくれて」
「・・・・・」
「ご飯が出て来るなんて、・・・っ」

本当にいつぶりだろう。記憶を遡っても思い出せなかった。

「お前、最近よく泣くな」
「・・・ごめんなさい」
「すぐ泣き止むけどな」
「・・・・嬉しくて泣いてるから」
「手洗いついでに顔も洗って来いよ」
「はい・・・っ」

頭を子供の様にわしゃわしゃと撫でられた。2つしか違わないのに、たまに子ども扱いされる気がする。・・・不満はある、嫌じゃないけど、この人教師だし・・・。しかし、歳かな・・・涙腺が弱くなった気がする。

「・・・・お前、そのガラクタどこに置く気だ。前拾ってきたやつがまだ片付いてねぇだろ」
「これは解体して部品にするの。その部品で、こっちが修理できる。それにガラクタじゃない!!」
「・・・ガラクタだろ」
「修理したらちゃんと売ってる。そのために免許取ったし」
「そういや、いつからやってるんだ?」
「10歳とか?」
「・・・・・・」
「暇があると、拾って来たり、どっかで貰って来て家で修理していた。家で使う時もあったけど、売れないから粗大ごみに出すこともあった気がする」
「わざわざゴミ拾ってきて金出して捨てんのか」
「まぁ、そうなるね・・・現役の時も家でやってたんだよ。趣味だったから・・・でも公式プロフィールには流石に駄目って言われて表向きにはならなかったけど」
「まぁ、確かにアイドルの趣味らしくはないな」
「私もそう思う。なんかね、第二の人生送ってもらえると思うとさ、修理するの楽しいよ。前は捨てたりしてたから淋しかったんだけど。あと、頼まれて修理した時に喜んでもらえると、やっぱり嬉しい。」
「・・・・・」
「だから、ガラクタじゃない」
「・・・・・ほどほどにしとけよ。家がゴミ屋敷になる」
「ゴミって言った」
「・・・・・」
「消太さん、気まずいと目を逸らしますね」
「人間誰だってそうだろ」
「私、怒ってませんよ?」
「どう見ても怒ってるだろ」
「怒ってない」
「怒ってる」
「怒ってます」
「怒ってんじゃねぇかよ」
「少なからず、修理する物に自分を重ねてるのであんまり、ゴミとかガラクタとか言わないでください」
「・・・・・」
「物の縁は見れませんが、きっとあの子たちにも何かあるんだと思います」
「・・・・俺には理解できん」
「そんな気がします。私も消太さんがゼリーばっかり摂取するのが理解できないのでお互い様ということで、深く触れずに置きませんか?」
「・・・・・そうだな」
「私も、拾いすぎには気を付けます。だから、たまにでもいいから消太さんも私と一緒にご飯食べてください」

「わかった」と目を伏せたまま言った消太さんに安心して、準備してくれた食卓の上のものに手を付けた。同棲する前から、私が消太さんに食事を作ることはあった。帰りを待って、用意をして、自分が作ったものを、“いただきます”と“ごちそうさま”を言って食べてくれるのだ。それも同じくらい嬉しいことだった。

「病院、どうだったんだ」
「・・・・・あ」
「あ、じゃねぇだろ」
「・・・ストレスだろうって」
「・・・・」
「いくら自分が楽しくても環境の変化は、ストレスになるんだって。1人暮らしも長かったし、他の人と一緒に暮らすことが自分の気づかないところでストレスになって体の負荷になった結果、微熱が続いたみたい・・・誤解しないで、同棲が嫌だとかそういうのじゃない」
「わかってる。今は、大丈夫なのか?熱は」
「食べれるくらいは元気だよ。でも、ちょっと疲れが抜けない感じはあるから薬飲んで早めに寝るね」
「大きな病気とかじゃなくて良かったよ」
「ご心配おかけしました。もう少し生活に慣れれば自然と調子も戻るって」
「何かあったらすぐに言えよ。我慢するな」
「うん」
「じゃぁ、それ食って、さっさと寝ろ」
「了解」

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