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なぜ、この子はこんなにも他人への感情が透明なのだろう
何も思っていないのだろうか、他人への関心がないのだろうか
この状況を見ていながら、この子からあの人への感情は透明だった

他人も知らず、テレビもなかったあの部屋では比較することなどできなかったのだろう。幼稚園へ通うようになってから、少しずつ色が付くようになった。それでも色が薄い。他人への関心がやはりないのだろうか。この子は、どこかおかしいのだろうか。そんなことを遠い意識の中で思っていた。

自分の個性が怖かった。だから、使うことをやめた。他人のために使うこともやめて、個性のない人として生きてこうと思った。私が余計なことを言わなければバレないと思ったのだ。でもそう上手くは行かなかった。大好きだった人は、私に個性があることを知って豹変した。自分を馬鹿にしていたのかと手をあげるようになった。気づけば、あの子にも被害が及んでいた。

小学校1年になったあの子が自分と同じものが見えると知った。それが怖かった。撫でていた頭から手を放して、少し距離を取ってしまった。見せたくない。こんなに濁ってしまった彼との関係を、この子に見せたくなかった。「お母さん?」と小さく呼んだ声が震えていたことに気づいてあげられるほど、あの時の私は余裕がなかった。あの人からの暴力に精神的に限界が来ていたのだ。
離婚が成立したのは、あの子が小学校3年生の時だった。もし、あの時、触れることができていたら、あの子が置かれている状況をわかってあげられただろうか、わかってあげられるのは私だけだったのに、私は全部投げ出して家を出て、再婚相手のところへ逃げ込んだ。

あの子が、病院に緊急搬送されたと携帯に連絡が入っていた。留守電に残されていた言葉を聞いて、聞いたうえで放置した。もしかしたら、自分も罰せられるのだろうか。そんなことを思いつつ、やっと幸せになれた今を壊したくなくて、知らないふりをした。

子どもの時に会ったのは、あの子が芸能事務所に入るために書類へのサインを求めてきた時が最後だろう。
まさか、そんな話になるとは思っていなかったし、あの子が売れっ子アイドルになるなんて思いもしなかった。テレビに映るあの子が自分をどこか責めているように思えて音楽番組を見ないようにしていた。それにも関わらず再婚相手が何も知らず、彼女のファンなのが少し憎かった。

私が、ヒーローだったその人を失った時、小学校3年生になる息子がいた。お金の当てもなく、あの子の事務所へ連絡をした。どの面下げて連絡してきたのかと、思っただろう。

「妊娠期間として1年足して、小学校3年までの10年分の養育費です。これ以上はお支払するつもりはありません。もう連絡してこないでください」

まるで手切れ金のように渡された
まるでではなく、そのつもりなのだろう
母親とも思っていない目だ
それはそうだろう

お互い個性を使うことを見越して、握手をすれば、あの子の広がった縁が見えた
相変わらず色の薄い縁がほとんどだが、それでも数えられそうな強い縁は良縁の色をしていた

あの子には、私の何が見えたのだろう

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