11


「お前、どこにいたんだよ」

『・・・・・・・・・・』

それはすごく偶然
通学路の途中で蹲っている
あの妖を見つけた

周りに人がいないことを確認して声をかけたけれど返答はなく
目だけがこちらを向いた

「とりあえず、どこかへ移動しないか?」

そう伝えれば、のそりと動き始め
山の中へと入って行った

「・・・・・・・今は、明翠さんですか?」

『?』

「・・・・・おれの言っている意味がわかりますか?」

左右に首を振り、また頭を傾げ『明翠?』と言った

「覚えていませんか?」

『・・・・・・・人の子』

「!!」

自分が人の子であることは、覚えているのだろうか
まだ不思議そうに、人の子?人の子?と首を傾げている

「貴女は、4年前に、この妖に取り込まれたんです」

『・・・・・・・・』

「貴女は、椿明翠という女性だった」

『・・・・・明翠』

「はい・・・・・何か、思い出しませんか?」

『人の子・・・明翠・・・・・・椿』

手を伸ばしてそっと妖に触れてみた
痛みが来ることもなく、ただほんのりと暖かい

『・・・人間』

「はい。貴女のことを、名取さんから聞きました」

『名取?』

「祓い人の名取さんです」

『・・・祓い人』

「思い出しませんか?」

何か、彼女が残っている証拠が欲しい

「何でもいいんです」

『・・・・・・・・』

不思議そうに首を傾げては、同じ言葉を繰り返す

『明翠、椿、人間、祓い人、名取・・・・・・明翠?』

「・・・・・・・」

首がこてんと横に倒れた

『・・・・・・・・・・・・まと・・・ば』

「!!」

『・・・お前、知ってる?』

「何をですか?」

『黒い髪・・・・・・お前より、少し長い』

「黒髪で、おれより少し長い・・・?」

『・・・・・・・・何か』

「?」

『・・・言ってる』

焦点があわず、どこかをぼーっと見ながら
ぼそぼそと独り言のようにつぶやいた

彼女が的場さんに最後にあったのが4年前なら
髪がおれくらいでもおかしくはない
妖とのやりとりのために、それから伸ばしたのだとしたら

「的場さんを覚えているんですね?」

『・・・・的場』

「!」

今度は首を傾げることなく
まっすぐおれをみてそう言った

『的場せい“・・・黙っていれば、調子に乗りおって”』

「・・・・っ!」

『“邪魔するつもりか”』

「お前が」

『“手遅れだ、残念だったな”』

「明翠さんは、まだ生きてる」

『“・・・さっきまで、だろう?”』

「!」

『“邪魔をするなら、喰らうまで”』

「明翠さん、思い出してください!!貴女は人間だ!」

『“黙れっ!!”』

「っ!」

とびかかってきた妖に跳びかかられバランスを崩して腰をついた
殺気だった目がおれを見据え
荒い息が顔にかかる

先生が言っていた通り
弱っているのか、こぶしで殴れば少し怯み後ろに下がった

そのすきに、来た道を戻った
途中合流した先生に明翠さんのことを話し
再び帰路についた

「その女を喰らっている妖を祓うしかなかろう」

「・・・・・」

「引き離す方法はそれしかない」

「妖の方を封印すれば、喰われた明翠さんは戻るんじゃないか?」

「それが成功するとしたら
 その明翠とかいう女が、自我と記憶がそろわなければ無理だ」

「?」

「自分が何かもわかっていない状態では、もろとも封印されることになる
 それこそ、最期だろうな」

「・・・・・・」

「時間もあまりないぞ
 お前に会う前、何か所かで妖の血を見た
 力をつけて一気に消化してやろうと思っているんだろう」

「そんな」

家について、名取さんに連絡を取ろうとしたが連絡はつかなかった
仕事で忙しいのかもしれない
なら、どうしたらいい・・・
どう・・したら・・・

自分では、祓うことも封印することも



目次
ALICE+