「明翠」

『何?おじいちゃん』

「最近、刀を持ちだしているようだが、使えたか?」

『・・・まだ、上手くは立ちまわれないけど、もう少し頑張って見る』

「そうか、あまり女の子が傷を作るなよ。・・・きっとお前なら使えるさ」

『どうして?』

「あれは、お前の母さんの形見だ。いや、綴木家のと言った方がいいか
 お前は、あっちの血を他の兄妹より受けているからな」

『・・・そうなの?だから、軽く感じるのかな』

「軽く感じるなら、そうだろうさ。綴木は、もう廃業しているが
 昔は名の通った家だ。それも相当な名刀だろうよ、刃渡りも小ぶりで使いやすいだろ?」

『うん・・・・・』

てっきり、椿のものだと思っていたのだけれど違ったらしい
部屋に戻って、見返してみたけれど、特にそれが母の物とわかる何かはなかった

めんどくさいと思いつつ、適当に宿題を片付けて
妖に関する書物を開いた
こっちの方がずっと興味がある
良くわからない数式解くよりもずっと・・・歴史や化学は好きだけれど

いつも日課にしているノートを書き終え
ノートの初めのページに挟んでいる、それを読み返す

禁術について、まとめたものだ

小さいころに
禁術と知らずに、それを使ったのだ

目の前にいた妖が
ただ怖くて怖くて
死にたくない一心だった
その方法を聞いた覚えもなく
ただ陣を使っただけのつもりだった

椿の名前は、本来良い名前ではない
それでも、それを姓としているのは
戒めも込めてじゃないかと言われているけれど
それが残された文献なんてどこにもなかった

祓い屋においての椿は、
ずっと昔に、妖の首を落としていた
あまりに非道で、恨みも買いやすいその方法は良くないからと
今では禁術となっている

首に陣を張り、そのまま・・・・
まるで、椿の花が落ちるように・・・


あの時は、本当に怒られた
怒られたどころの騒ぎではなかった

私は、ただ怖くて必死だったのに
その恐怖に泣きたかったのに

その冷え切った空気と
厳しい大人の視線に
あの頃の私は、母に泣きついた



「彩季は、もう祓い人にはならないと言って聞かないんだが、
お前からも何とか言ってくれないか?」

「まぁ、自由にさせてやればいいんじゃないか?父さんが言って無理なら
 俺が言ったところで、無理だろ」

「最低限の護身術は教えたが、明翠と違って興味がないみたいだからなぁ」

「どっちかっていうと、明がいるからやりたくないんだよ、あいつは
 どう頑張ったて、明と比べられる。俺があいつの姉だったとしても、嫌になる
 まぁ、俺は長男ですから、明翠に劣っても諦めはつくけどさ」

「お前もなかなかの腕だよ。私より、センスがある」

「それでも、爺さんは明翠ばっかり目をかけるからな」

「そりゃぁ、懐いてくれた孫はかわいいだろうさ」

「そういう問題じゃないよ」

「・・・明翠は、もう少し家族を頼ればいいのにな。
 1人で抱え込みすぎているように思える。
昔から、自分のことは話さないから、私もよくわからなくてね」

「父さんがそれだから、明翠も苦労するんだろ
 母さんが生きてた頃も、明翠は姉だからって我慢ばっかさせられて
 拗ねたあいつが頼ったのは、爺さんだったろ?」

「・・・どうして、あんなにも泣かないんだろうな
 辛くて苦しいなら泣けばいいのに・・・・・あの子の感情は察してやれなくて
 なかなか、どう接していいのかわからない」

「父親のあんたが何言ってんだよ。・・・まぁ、俺も似たようなものかもなー
 小学校のころに、幼馴染に怪我させて親に、“もううちの子と遊ぶな”って言われたの
 父さん知ってるか?」

「・・・いや、知らない」

「あの後、呆然と立ってるあいつを見てたけど
 全然泣かずに突っ立って、どこかに走ってたんだよ
 それから、毎日怪我するようになって、学校でも不気味がられて
 ・・・そこまでして、何になるんだよ、本当に」

「はぁぁああ・・・私は、何も知らないんだな
 お父さんは、そんなに頼りないか?」

「・・・父さん、ちょっと飲みすぎ」

「いいだろ、たまには・・・お前も帰ってきたことだし」

「はぁ・・・・俺、明日には大学の方に戻るけどさ
 もう少し明翠の事気にかけてやれよ?父さんまで彩季贔屓すると
 そのうちぐれるぞ」

「明翠は、そんな子じゃない。母さん似の優しい子だ!」

「はいはい、ほら、明日、仕事あるんでしょ、寝た方がいいって」

「冬真、お前、できたやつだな」

「父さんと違ってな・・・・・あ、そういえば、明翠って的場に嫁ぐの?噂で聞いたけど」

「まだ嫁にやるのは早いだろ・・・」

「いや、いずれって話で。仲いいんだろ?あのいけ好かないガキと」

「・・・・嫁にはやら・・ん・・・」

「はぁ・・・だから、寝るなら布団で寝ろって」



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