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“もしかしたら、何かに憑りつかれているのかもしれない・・・でも、大丈夫”

“?”

“私なら見えるし、祓い屋の娘なんだよ。たぶん何とかできる”

“・・・でも”

“病院にも行って、他に考えられるのは、それくらいなんでしょう?なら私が見て確認する”

“もしそうだったとして、君がやるの?”

“私じゃぁ不満?”

“お姉さんに頼んだ方が”

“・・大丈夫!!それくらい私にだってできるし、匠の力になりたいもの”

“・・・・・・・”



やはり止めるべきだった

そう後悔せずにはいられない


彼女が告白をしてきて
付き合い始めて
秘密を知って
自分の体質のことも話した


人のいなくなった家を前に
ただ茫然と立つことしかできなかった

あの日から、確かに体調は良くなった

関係があるのか、ないのかは、自分にはわからない
けれども、そう考えずにはいられなかった



「・・・君は、たしか」

「?」

「明翠の妹の」

「・・・・・・」

「何か、知っているんですか?君は、見えなくとも感じられると聞きましたが」

「・・・たしかに、見えないものを感じることができます。でも、俺は」

「何も知らないと」

「・・・・はい」

黒髪の男は、ただ静かに「そうですか」と言った
彼の目を見ることができず、家を眺める

「明翠の妹が怪しいと私は踏んでいますが、何か知りませんか?」

「・・・・・・」

「明翠は、当時、彼女が中途半端に妖祓いに興味を持ち始めたと危惧していました
 近くにいた、君なら何か知っているのではないかと思ったのですが・・・考えすぎでしたか」

「・・・・」

酷く冷たい声にどきりとする
すべて話してしまおうか
だが、話してしまえば彼女が原因と、彼女のせいだと言われてしまう
いや自分が悪かったのだと言えば伝わるだろうか・・・

「・・・・・」

「彼女の遺体がどうなっていたか、聞きました?」

「いえ・・・聞きたくありません」

「・・・・・そうですね、知らない方が君のためかもしれません」

「明翠さんは、捜索中と聞きました」

「そうですね。生きているのか、死んでいるのか・・・・」

何を考えているのだろうか
声からは何も伝わってこない
だが、自分が何かしらを知っているのではと
目を付けているのだろう
疑いの目が晴れることはない
やはり、全て話すべきなのかもしれない

・・・それでも、そのことを口にできなかった

「今回の件、こちらの多くの者が、妖力の強い明翠を狙った妖によるもの
 または、どこかで恨みを買った明翠が引き起こしたと言われています。
 力の強い者は、妖に狙われる
 それを知らない彼女じゃない、その点には最新の注意を払っていた」

ぞわりと何かが周囲にいるのを感じる
おそらく、この男には見えている
すっとと向けられた目が
「話せ」と言っているように見えてくる
ただ見ているだけなのかもしれない
そう見えるのは、自分に心当たりがあるからだ

相手は、知っていて尋ねているのか
知っているかもしれないと反応を見ているのか

周囲から感じる気配に冷や汗が流れる

「話した方が、身のためだと思いますよ」

「・・・・・っ」








階段を下りていく男を眺める







何が起きたのか、本当のことが知りたい

だから、なにか知っていることがあれば
ここに連絡してください


唯一、最後に聞いた言葉だけが、酷く感情を含んでいた



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