この空はあの日と変わらず

 鬱蒼と茂る森の中を一人の女と一人の男が走っていた。双方とも重傷であり、何故そんなに走れるのかと、一般の人間が二人を見たならそう思うだろう。


 霧隠れの里───
 情勢が不安定で、内乱が勃発する大変危険な里だ。血継限界を持つ一族は内乱に利用され命を散らしていく。忍も内乱や戦争に駆り出され残虐で非道なことを強いられてきた。
 二人の額には霧隠れの額当てがあった。しかしそこには大きく横一文字に傷がつけてあった。


 かくん、女の膝が折れた。

「ルリア!」

 男が慌てて肩を貸して、なおも走り続ける。意識を取り戻した女はぼう、と考えていた。チャクラも尽き、体力も気力も全てが限界だ。追っ手はまだ残っているし、彼らは小部隊で交代で休憩もしているだろう。分が悪すぎる。

「もう諦めよう、逃げ切るなんて、無理だ…」
「諦めるなんて許さない。一族として、忍びとして誇れるか!?」
「でも、もう…」

 その時森が開けた。夜のように暗い森を駆けていたからか、あいにくの曇天でも明るさに目がくらんだ。目が慣れるとそこが断崖絶壁であることを知った。二人が全快ならば対岸まで飛ぶことも、チャクラコントロールで崖を降り水面を渡りまた崖を登ることができたであろう。しかし二人とも既に満身創痍だった。逃げ場はない。
 背後に人の気配がした。それはひとつではない。二人に戦うチャクラも体力もみじんも残されていない。ここまで走れたのも僅かに残った気力のためだ。男は肩を貸したまま、崖の縁ギリギリまで寄った。
 そして───

 ルリアの肩を、とん と軽く押した。刹那、ルリアは浮遊感を感じていた。必死に彼に手を伸ばした。一瞬のことで声も出なかった。ルリアが最後に見たのは、あの日と変わらぬ空だった。


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