枯れた噴水にうつるひと

 ルリアは深く深く沈んでいた意識が覚醒していくのを感じていた。しばらくして目を開き、木々の合間から漏れる日差しに目がくらむ。しばらくして目が慣れると、寝ぼけもおさまって自分の置かれた状況が掴めた。

「ここまでか…」

 ルリアの身体は大木にもたれかかるように座らされ、拘束されていた。もはやここまでなのであろう。自分の師であり叔父でもある男、名はユキト。彼がせっかく逃がそうとして川へ突き落としてくれたが、この状況は好ましくない。ルリアもすぐ、彼の後を追うことになるだろう。
 こうしてルリアを殺さず縛っているということは、追忍に見つかったわけではない。けれど決して縄抜けできないよう結ばれている。つまり、他国の忍ということか。

「目が覚めたようだな」

 視線を持ち上げると紫煙が目にしみた。僅かに目を細めると、その男が誰なのか分かった。額当ての葉っぱのマーク、腰に巻かれた布には火の文字。

「木ノ葉の猿飛アスマ…」
「ご名答。霧の抜忍にまで知って頂けているとは、光栄だな」

 彼は明らかな警戒の色を目に宿していた。ちらりと彼から視線を外すと、3人の少年少女が見えた。つまり彼は新米下忍の担当上忍というわけだ。警戒するはずだ。

「なぜ私を殺さない」
「ガキどもが見てる。里に連行し、その後暗部に引き渡す」
「無駄だ。私は何も話さないし、話せない。この体を傷つければ里が吹き飛ぶぞ」
「それは脅しか?」
「否、左目と左足の呪印は見えているだろうが、胸と舌のものには気付いていないようだな。私から情報を聞き出そうと拷問しようが私は話せないし、無理に調べようと傷つければ呪印が発動し私の肉体共々木っ端微塵だ。それでも私を暗部へ引き渡すというのか」

 アスマはふー、と息を吐き出した。また紫煙が目にしみた。

「3人を遠ざけて、遠距離で私を殺せ。どのみち私はもう生きられない」
「生きられない?追忍か?」
「それもある。私はあまりに人の恨みを買いすぎた。ツケが回ってきたんだ。元々生にこだわりなどない」
「嘘だな」

 アスマは即座に否定した。けれどそれすらルリアにとってはどうでもいいことで、反論も何もしなかった。ただ木に体を預けてその時を待った。飢えが先か、魔の手が先か。

「ねえ、貴方いくつなの?」

 下忍のうちの紅一点の少女が言った。

「正式な書類が存在しないため不明だが、10代だろうという話だ」
「強いの?忍にはいつなったの?」

 矢継ぎ早に質問してくる彼女にルリアは戸惑った。困って救いを求めるようにアスマを見ると彼も肩をすくめて困っているようだった。そして彼女はまた口を開いた。

「そういえば呪印ってやつ、誰にやられたの?とけないの?」
「やったのは霧だ。解除方法は探しているが未だ掴めていない」
「なにそれ、酷い」
「木ノ葉もやっているだろう。例えば、火影直轄の暗部とか…な」

 アスマは彼女の口を閉ざさせた。そしてさらに3人を遠ざける。彼はルリアの真正面に立ってチャクラ刀の切っ先を喉元に突きつけた。

「名前と所属、階級は??」
「棺ルリア。水の国 霧隠れの里 暗部所属。階級は上忍」

 アスマはため息をついて頭を抱えた。

「なぜ里抜けしようと思ったんだ?暗部なら抜忍の最後も知っているだろう?」
「私を救った師が、この里はおかしいと言った」
「それだけか?」
「…私を傀儡でないと言った。傀儡に育てた自分が悪かったと、私に頭を下げた。その時私は、その人が里に仕えているから私も仕えていた、つまりその人が私の全てであることに気が付いた」
「その師匠は?」

 ルリアは瞬きを一度した。

「死んだ」

 ルリアは戸惑いもなくそう告げた。その瞳には何も宿っていない。それを見て、アスマは心を痛めた。けれど、心を鬼にしなければ。そうやって気を引き締めると、また彼は口を開いた。これから先どうするつもりだ、と。


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