眠れ、残り香を運ぶから

 これから私はどうしたいのだろうか。アスマに問われてルリアはすぐに答えることができなかった。アスマに復讐かと問われた。ルリアを利用し傀儡に仕立てた霧隠れ。答えは否だった。しばらくしてルリアは答えた。

「生きること。私の生きたいように、自由に」
「したいことでもあるのか」
「わからない。生きてきた中で自由などなかった。だから考えたこともない。でも、これからは、自分で決める」

 その日の夜、ルリアは縛られながらもアスマの介助で温かいご飯を食べた。チョウジという丸い少年はみんなで食べるご飯は美味しいよね、と言った。ルリアは分からなかったが そうだな と答えた。

 夢を見た。夢など久しく見ていなかった。とても懐かしい人が出てきた。
 彼の名はハクという。ハクとの出会いは偶然で、彼は血継限界を持つ雪一族の子供だそうだ。ちなみにルリアも血継限界、秘伝忍術を持つ棺一族の出だ。
 この頃の水の国はとにかく荒れていて、他国との戦争も内乱も、不安定な時期だった。血継限界はどれも強力で、持たざる者たちは戦力として必要とすると同時に恐れを抱いた。そして、ほんの一握りの人間を残して一族の根絶やし作戦が行われた。
 そうして孤児になった子供は数知れず、ルリアもハクもその一人だ。ルリアは物心ついた時から施設にいて、ハクはその施設での後輩だ。
 ハクは異端の母を父に殺され、自分も母と同じ運命を辿ろうとしていた時に力を発現させて、代わりに父を殺して生き延びたそうだ。ハク曰く、施設での生活は生き地獄のようらしい。らしいというのは、ルリアにとってはここでの生活は当たり前のことで、これが異端の罪を背負った自分になせる唯一の贖罪だと思っていた。
 そしてハクや、ある程度大きくなってから施設に来た子供達の話を聞くうちに段々おかしいと気づき始め、ルリアたちは己の秘めたる力を覚醒させてクーデターを起こした。首謀者であるルリアは、霧隠れに捕まった内の一人で、忍として活躍していた叔父に引き取られた。

 ハクは捕まらなかったようだった。そのハクが夢では、クーデターからの年月相当の年数を重ねた姿でルリアの夢に現れた。彼は寂しげに、道具としてしか生きられなかったと言った。けれどザブザという男を崇高しているようだった。
 ザブザと言えば、今は抜け忍だが元霧隠れの鬼神 桃地再不斬で、ルリアは彼の後釜を務めたのだが、彼なのだろうか。とにかくハクはザブザの名前を仕切りに言った。ザブザの話をするハクはいきいきとしていた。そして、切なげな表情でルリアに未来を託すのだ。
 ルリアが目を覚ますと、ちょうど深い森に朝日が差し込んでいた。オレンジの眩しい光に細めたルリアの瞳から、涙がこぼれ落ちた。何筋も、何筋も。ルリアはそれを拭えなかった。ルリアに出来たのは幼い頃から聞かされていたからなのか、覚えている歌を口ずさむことだけだった。


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