ビドロビウスの囚人たち

 ルリアは木ノ葉に連行された。そして現在、ルリアは拘束されたまま三代目火影 猿飛ヒルゼンの前に跪いている。後ろにはアスマ率いる下忍部隊、第十班。火影の彼の脇には先鋭と思わしき暗部が数名控えている。

「アスマよ、これは一体どういうことだ」
「猛獣の捕獲任務は遂行しました」
「そのことを言っているでない。彼女は霧隠れの忍だ。それも抜忍。本来木ノ葉が立ち入る問題ではない」
「ただ、道中に彼女の身柄を拘束しただけですよ。教え子の手前あちらに引き渡すことは出来ませんでした」
「……戦争が起こるかもしれぬのだぞ」

 忍の世界において、情報はとてつもなく重要だ。里独自の忍術に加えて、血継限界から一族に伝わる秘伝忍術。大きな力を持つそれらの手の内を知れば戦況は有利になる。それだけでなく、自分たちのものにしてしまえば他里にまでその力は及ぶ。

「火影様」

 即座に暗部がルリアの傍に寄り、首に2本の刀があてがわれる。ルリアは構わずそのまま先を続けた。

「私も忍である以上、霧の忍術については呪印がなくとも話すつもりはありません」
「目的はなんだ」

 暗部の一人が口を開いた。

「ない」
「ふざけるのも大概にしろ…!」

 ルリアの腹につま先が食い込んだ。眉間にしわを寄せて苦悶の表情を浮かべ、うめき声が漏れる。

「ルリアは!追忍から私たちを助けてくれた!私たち、ルリアの力を狙ってるから攫ったって追忍に勘違いされて、それで!」
「いのちゃん、私を庇ってはいけない。貴方の立場が危うくなってしまう」

 ルリアは後ろを振り返らずに言った。背中の三人の表情は容易く想像できた。そんな三人はルリアの静かでまっすぐな背中を遠いものとして捉えていた。

「火影様、私は忍です。忍としてこれから起こるかもしれない大きな戦いに向けて 人から恨まれることをごまんとしてきました。いのちゃん シカマルくん チョウジくんを見る限り貴方の指針は甘い。けれど、私にはそれがとても眩しい。私は道具でしかなかった。忍は利用されるためにあるのだと思っていた。だけどそれは違う。仲間を守るためにならなんでもする、そのために耐え忍ぶ。それが忍だと知った。今の私には、命に代えてでも守り抜きたい程のものはない。でも、いつか」

 火影は皆まで言うな、とでも言いたいのかルリアに手のひらを見せた。そして印を結ぶ。火影自ら手をくだすのか、そんな考えがよぎった。印を結び終えた時、ルリアはふっと身体が軽くなったのを感じた。

「まさか、」
「左様、舌の呪印はワシの知るものだった。解除するのは容易い」
「……プロフェッサー…」

 プロフェッサーというのは三代目火影の通り名だ。五大性質変化は基より、秘伝・幻術に至るまで、木ノ葉に存在する全忍術を解き明かし、忍の神 プロフェッサーとまで謳われた天才。その情報は霧隠れにも伝わっている。

「忍というと、つい耐えることに慣れてしまって思い悩むことの多いものだ。お主と同じことを考え、悩むものは少なくない。むしろ多いくらいじゃ。まだ若いのに、嫌な時代だ」

 火影はルリアに背中を見せた。窓の外に広がる里は穏やかそのものだ。やがて火影は引き出しを開けて何かを取り出した。それは木ノ葉の額当てだった。

「ワシは里、そしてこの火の国全員の命を預かっておる。ワシの一存ではお主を庇いきることはまず無理だろう。だが、出来る限りのことはしよう。そのためにいくつか縛りがあるが、構わんかの?」

 もちろんだとルリアは頷いた。火影から額当てを受け取り、きゅ、としばる。暗部の刀をどかしてルリアは火影に改めて跪き、頭を下げた。

「感謝します。このご恩は必ず、お返しいたします」

 ははは、と朗らかに笑った彼は一転して、しわのある顔を真面目にさせてルリアを改めて見つめる。

「今日から木ノ葉の下忍として生きていきなさい。それがこの老いぼれに出来る唯一のことだ」


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