マリーの部屋を肯定せよ

 ルリアは第七班に配属が決まった。担当上忍はコピー忍者のはたけ カカシ。ルリアを含めたフォーマンセルのメンバーはうずまき ナルト 春野 サクラ うちは サスケ。うちはの悲劇はルリアの耳に届いていたので、生き残りがいたのかと目を見開いたのは記憶に新しい。
 ちなみに何故アスマ班もとい第十班ではないのかというと、七班の方が監視に最適だから、だそうだ。
 その第七班というのは今Cランクの中期任務に出ているので、彼らが帰ってくるのを待つのみの状況だ。その間ルリアは下忍の登録書類の作成やらアパートを借りたりやら慌ただしい日々を送っていた。
 そしてついに、彼らが帰ってきた。火影様の雑務を手伝いながら待っていたので、彼らとはすぐに火影室で会えた。全員が神妙そうというか怪訝というか、あまり乗り気でない顔をして挨拶を済ませた。

 六月二十四日、下忍としてDランク任務を数回こなす頃には彼らと打ち解けていた…とはいかなかった。元々人とのコンタクトが極端に少なかったルリアは接し方がわからないし、ナルトとサスケは少しぎすぎすしていた。そんな彼らに板挟みにされているサクラもサクラで、なにか悩んでいる節を見せていた。班として機能しているのが不思議なくらいのチームワークの乱れ具合だった。
 その日の任務を終えた第七班は、カカシが招集されたこともあってすぐに解散となった。サスケはその後すぐに修行に向かってしまった。残されたのはルリアとサクラ、ナルトの三人だった。
 サスケを慕うあまり修行が疎かになっていることをサスケに指摘されたサクラは沈痛な面持ちで、いつもの覇気がなかった。ルリアはチームで同じくの一として話を聞くべきなのだろうが、中々タイミングが掴めないでいて、少し離れた所から気配を消して伺っていた。
 彼ら(途中で出会ったナルトの知り合いらしいアカデミー生三人含む)は追いかけっこのようなものを始めて、曲がり角を曲がるときだった。先頭だった木ノ葉丸が誰かにぶつかって転けた。その誰か、というのは砂の忍だった。ルリアは一触即発な雰囲気に素早く対応して彼らの前に現れた。

「ルリア!!」

 砂忍は短気なようで、自分より遥かに年下の木ノ葉丸を掴み上げていた。ナルトが助けるべく入ろうとする。
 ルリアは砂忍の指が不自然にぴくりと動いたのを見逃さなかった。素早くナルトの方を掴んで止め、後ろへ下がらせた。木ノ葉丸を掴んでいる腕をルリアは左手で強く握った。

「…傀儡使い、」

 ルリアは右手で腰につけてある短めの刀を抜くとすぐにナルトの足下を払うように振るった。ナルトは予想外に自分の方へきた刀に驚いたようだが、足につけられていたチャクラ糸は切れた。
 ルリアと砂忍、カンクロウは睨みあう。カンクロウの腕は震えてきていて、限界が近いことがわかる。ルリアは更に左手に込める力を強くする。すると、カンクロウは木ノ葉丸から手を離した。
 木ノ葉丸はピューッとナルトたちの後ろに回ってこちらを見守っている。

「ここは木ノ葉の里、郷に入っては郷に従えというだろう?」
「アンタもソイツらも生意気じゃん」
「貴方こそ、何様のつもりだ?」

 ルリアは至って冷静に砂の忍を睨みつけた。木ノ葉に身を置いている以上、木ノ葉の人間は仲間で守るべき対象だ。しかも木ノ葉丸という名前からして、火影様から聞いていた孫だろう。こんな奴に手を出すとは砂も命知らずだ。
 砂の忍はぐいと首元の布を引っ張って背負っている包帯でぐるぐるのナニカを地面に落とした。おそらく、傀儡だ。不自然に動いた指先にルリアはさっと距離を取る。傀儡使いと戦った経験はないが、傀儡には無数の仕掛けがある。出方が分からない以上あまり深く攻め込むのは懸命ではない。ルリアは短めの刀を構えて臨戦態勢を取る。
 ひゅっと石が投じられた。それは砂の忍に当たり、一同が石の飛んで来たほうを見た。そこには一本の木が立っていて、その枝にサスケが腰掛けていた。上から威圧的に見下ろして女の方は引き際だと男に訴える。包帯が巻かれている傀儡の唯一露出している毛の部分に男の手がかかる。

「おい、カラスまで使う気かよ」
「カンクロウやめろ。里の面汚しめ」
「我、我愛羅…」

 サスケの座る枝の少し上の枝。真横に伸びたそれに足にチャクラを集結させて逆さになる赤髪の青年が居た。木ノ葉の人間がいつの間に、と驚く中 砂は随分慌てているようだった。
 ルリアはしっかりと我愛羅を観察する。額の左側に愛の入れ墨、目を縁取るようにある濃い隈は不眠症の証、そして背中に背負われた巨大な瓢箪。身内にも 黙れ、殺すぞ を本気の殺気を込めて言うとは、かなり偏った思想の持ち主のようだ。
 我愛羅の周りに風が渦巻いて竜巻になり、次の瞬間には他の砂の忍の元に居た。風遁忍術か、とルリアは目を細める。詫びを入れてから踵を返した3人に、サクラが声をかける。

「確かに砂は木ノ葉の同盟国。だけど両国の忍の勝手な出入り条約で禁止されているはず…。目的を言いなさい!場合によっては貴方達をこのまま行かせる訳にはいかないわ」
「フン!灯台下暗しとはこのことだな」

 通行証を見せながら女は言葉を紡ぐ。彼らは全員砂隠れの下忍で木ノ葉に中忍選抜試験を受けにきたそうだ。
 この国では木ノ葉 砂の隠れ里とそれに隣接している小国内の中忍を志願している優秀な下忍を集めて、昇格試験が行われるらしい。合同で行う目的は、同盟国同士の友好を深め忍のレベルを高め合うことが建前で、本音は隣国とのパワーバランスを保つ事が各国の緊張を上手い具合に調節してくれるからだろう。
 サスケも降りてきて砂と対峙する。名前を訪ねた彼に自分かと勘違いした女は一蹴され、瓢箪の男と訂正される。

「砂漠の我愛羅。オレもお前とお前に興味がある。名は?」
「棺ルリア」
「うちはサスケだ」

 3人の別格のオーラにふわりと風が舞う。ルリアは基本的に冷静なのでそこまで殺気立っていないが、サスケと我愛羅は武者震いのような緊張感のようなモノがあった。

「あのさあのさ!オレはオレは??」
「興味ない、いくぞ」

 今度こそ去った砂の3人。興味ないの一言で拒否されたナルトはどこか落ち込んでいる様子で木ノ葉丸に愚痴をこぼしていた。
 木ノ葉の者たちは全員気付いていないようだが、さっきからサスケにばかり向けられた嫌な視線。そこには確かに嫌悪や憎悪、殺気が込められている。ちらりとルリアが盗み見たその方向の大分奥には3人の音隠れの忍が息をひそめていた。


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