論理でもいい己れの閑静

 301の教室の前の廊下にはカカシが立っていた。カカシは4人全員揃っていることを確認すると、安心したような声を出したのでどう言うことなのかとサクラが尋ねる。
 この試験は三人一組スリーマンセルもしくは四人一組フォーマンセルで行うらしい。もとよりこの第七班は四人一組なので誰か一人が来なくても何とかなったようだ。しかし、担当上忍としては普段通りの、本来の班で臨んで欲しかったようだ。

「じゃあ 個人の自由だ、なんて言ったのは」
「サスケやナルトは強引にお前を誘っただろうからネ。たとえ志願する意志がなとくても、サスケに言われれば…お前はいい加減な気持ちで試験を受けようとするだろう?」
「そうだったんだ…」
「だが、お前らは自分の意志でここに来た。俺の自慢のチームだ。さあ、行ってこい!」

 カカシに送り出されて第七班は教室に入る。教室は刺々しい空気に包まれており、扉が開いて新たに入ってきたルリアたちを大勢の受験者たちが品定めするように視線を送っていた。
 思わずそれに圧倒されていた元祖第七班の緊張をほぐしたのはいのちゃんだった。いのちゃんはサスケの背中に飛びついて、ライバル関係にあるらしいサクラに挑発的に接する。
 遅れてやってきたのは懐かしの第十班のシカマルくんとチョウジくん。さらにやって来たのは第八班のメンツ。彼らとは初顔合わせになるので自己紹介をしておく。

「遅れて第七班に配属になった棺ルリア。よろしく」
「油女シノだ」
「日向ヒナタです」
「俺は犬塚キバ!っつーか、お前ら四人とかずるくね?有利じゃん」

 それは違う、とルリアは思ったが、先にシノくんに否定される。とてつもなく回りくどい説明だったが、言いたいことは分かる。まとめると、今回の試験内容が隠密など、機密性が高い場合は人数が多いとかえって動きにくくなるといことだ。
 キバくんが挑発してナルトも乗ったり、同期の新人下忍9名が揃ったことで少し騒がしくなってきた頃、一人の男が近付いてきた。ルリアは人より第六感が優れているせいか、どうもこの人の良さそうな笑顔を胡散臭いと思ってしまった。いや、それ以上にあの男からはただならぬ気配がある。ルリアは無意識に身を硬くして生唾を飲み込んだ。
 彼は年に二回しかないこの試験を既に六回受け、今回で七回目になるそうだ。四年目となるとそれなりに情報収集が進んでいるようで認識カードという、彼自身のチャクラを注がなければ見れないものを見せてくれた。
 サスケが見たいと希望したのはやはりと言うべきか、砂漠の我愛羅とロック・リーだった。年頃なので多少血の気が多いのは仕方ないとは思うが、執念深さは蛇のようだとルリアはこっそり胸の内で思った。
 他の受験者からの無言の圧力プレッシャー、そして信頼できる(?)先輩からの助言。それらは明らかに幼く経験も浅い彼らを脅していた。ナルトは俯いて小さく震えていて、あのバカにも案外可愛い所があるじゃないか、と思った所でアイツは声高らかに宣言した。

「俺の名はうずまきナルトだ!てめーらにゃあ負けねーぞ!分かったかー!!」

 ああ、心配した私がバカだった…。ルリアは思わず目元を手で覆って上を向いた。励ますように肩に置かれたシカマルくんとチョウジくんの手が痛く感じる。
 その時明らかな殺意の篭った視線、そして動きを感じた。動きを見せたのは音符の額当て 音隠れの忍だ。藁のような素材の雨避けから見えた機械の腕には穴が空いていて仕掛けがあることを示唆していた。
 狙われたのはあの薬師カブトとかいう男で、彼もそれなりに経験は積んでいるようで攻撃をさっとかわす。完全に避けた、にもかかわらずカブトの眼鏡が割れて、嘔吐する。あの腕がなんらかの作用をもたらしたことは分かりきっているが、一体どう言うタネだろうか。
 教室の前方でどろんと煙が上がる。おおよそ試験管たちの到着だろう。中から野太い声がして、騒がしい受験生を叱りつける。煙が晴れて姿を現したのは顔にまで傷跡のある男と、彼の背後に控えるニヤニヤした笑いを隠しきれていない数十名はいる忍たちだった。

「では、これから中忍選抜第一の試験を始める…。志願書を順に提出して、代わりにこの座席番号の札を受け取り、その指定通りの席に着け。その後、筆記試験の用紙を配る」

 ルリアとしてはこの試験の目的はもはや信頼を勝ち取ることに他ならない。中忍になれるかなれないかは二の次だ。しかし、ほんの少し前まで上忍であった実力者が、中忍試験に落ちるということがあっても良いのだろうか。

 第一の試験は減点法で行われる。問題を間違えればもちろん、カンニングをすれば減点。持ち点を使い果たせば三人(ないしは四人)まとめて退場。もちろんフォーマンセルの第七班が有利にならないようきっちり足並みが揃うように計算される。
 しかし、問題を見てしまえば到底下忍には解けないような問題ばかり。

「(なるほど、カンニングを公認した情報戦というわけか)」

 とはいってもルリアにはカンニングの必要はない。幼少から里の良いようにこき使われる忍になるためだけに、エリート教育を施されてきたのだから。だが、大人しく標的カモになるのも気に食わない。さて、どうするか。ルリアはカリカリ鉛筆を走らせながらも、鏡を駆使したり、忍術を用いたカンニング行為を全てはねのけた。
 試験時間は一時間。四十五分を過ぎた所で最後の第十問が発表される。そして、約束の時間になった。
 選択は第十問を受けるか受けないか。受けないを選べばその場で持ち点はゼロになり仲間共々失格となる。しかし、受けるを選び正答することができなければ、永久に受験資格を失って下忍のまま…。
 なんの陰謀なのかルリアは試験管に最も近い席なので後ろにいるチームメイトの姿を確認することはできない。けれどきっと、ナルトは肝を冷やしているに違いない。彼は見た目通りのバカであるし、きっとこの試験の意図にも気付いていない。ならば彼はこの第十問に賭けていた筈なのだ。自分の首の皮が一枚でも繋がるかどうか。

「俺は逃げねーぞ!!」

 試験管はカンニングをチェックしていた中忍たちにアイコンタクトを取ってから、"受ける"を選択した総勢79名に合格を言い渡した。彼は先程までの冷徹な表情を一変させ、二カッと笑う。
 いわば受けるか受けないかの二択が第一の試験の正念場だったようだ。一から九問目までは情報収集能力を、そして、第十問はここ一番で仲間に勇気を示して苦境を突破する能力、中忍という部隊長に求められる資質を確かめるもの。ということだろう。
 にしても、この男。確か森乃イビキ。心理戦が得意なのかと思っていたが、やりくちはまるで拷問。それに最中も度々ルリアに視線を送っていた。席順にも悪意を感じるし、どうやらこれはある程度仕組まれていたことらしい。
 ルリアの存在は明るみになればかなりの衝撃を誘う。だから本当に限られた人しか知らないのだ。この男も、知らされて猜疑さいぎしていたのかもしれないな、とルリアは思った。


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