火石のくずを蒔きながら

 あのリーという少年に、サスケは呼び止められた。今ここで、勝負をして欲しいと。あの天才忍者と謳われた天才一族の末裔に自分の技がどこまで通用するのか気になるらしい。
 それに、と言ってリーは視線をサスケからサクラにずらして、ぱちりとウィンクした。かなりの殺傷能力のある顔でのウィンクで、ルリアも軽く頬筋をひくつかせた。
 フッ!君は天使だ!なんて気障なセリフをサスケみたいなイケメンが言うならまだしも、全身タイツのゲジ眉おかっぱに言われた挙げ句投げキッスまで寄越されたらたまったもんじゃない。
 標的にされたサクラは何が何でもといった風に避けて、某映画のワンシーンのように腰を反らして回避した。その際頭にはたんこぶが出来ているが、投げキッスを受け止めるのに比べたら安いものだ。

「"うちは"の名を知ってて挑んで来るなんてな。ハッキリ言って無知な輩だな、お前。この名がどんなもんか思い知るか、ゲジマユ」

 サスケに対する嫉妬心が我慢の限界を超えたのか、ナルトが飛び出す。しかしリーは熱血だが案外冷静で、軽くいなしてから木ノ葉烈風という蹴り技を繰り出してナルトを牽制する。吹き飛ばされたナルトは極軽度の脳震盪を起こしたようで気を失ったようだ。
 現在時刻は三時三十五分より少し前。あと三十分もないとサクラが止めに入るが五分あれば十分だとサスケは一蹴してケンカを始める。
 これから中忍試験だというのに、元気の有り余っている奴らだとルリアは呆れながらため息をつく。どうもこう血の気が多い奴らばかりなんだ。少しはシカマルを見習って欲しいものだ。
 そこでルリアははたと気づく。まるで自分が姉にでもなったかのように優しく見守っている自分に戸惑ったのだ。これが、仲間という概念の最外核なのかと理解する。
 サスケが一蹴り食らい、写輪眼を開眼させる。両目とも二つの勾玉のような模様が浮かんでいる。しかし写輪眼では見きれず、顎に蹴りをサスケは食らう。あのリーという少年は体術でしか戦っていない。リーの体術は非常に優れている。だから目が反応できても身体がそれについていかない。

「知っていますか?強い奴には天才型と努力型がいます。君の写輪眼がうちはの血を引く天才型なら、僕はただひたすらに体術だけを極めた努力型です。言ってみれば君の写輪眼と僕の究極の体術は最悪の相性。そしてこの技で証明してみせましょう。努力が天才を上回ることを」

 影舞踊といって木葉が風に舞うように、宙に浮いた敵の影に追跡する技でサスケの下を跳ぶリー。その両腕の包帯を解いてリーは何かをしようとしていた。その緩んだ包帯の端が風車のついた簪のような千本によって壁に縫い付けられる。
 そこまでだ、リー! そういって静止したのは大きな亀だった。リーはその亀に叱られている。
 落下を始めたサスケは受け身も取ろうとせず、サクラが咄嗟の判断で身を挺して床との間に入り込んで衝撃を緩和した。動揺しているようで、サスケはサクラの呼びかけにまったく気付いていない。

「まったく!青春してるなー!お前らー!!」

 亀の上に現れたのはゲジマユをそのまま大人にしたような、更に濃ゆい男性だった。4人揃って顔を歪めて、あまりにもな外観に素直な感想が口から飛び出していく。それにリーは憤慨した様子だが、すかさずナルトがカウンターで噛み付いた。
 男性はリーをバカヤロー!と叫んで思いっきりぶん殴り、また4人で唖然とする。目の前で繰り広げられる胸くそ悪い熱血な茶番劇にルリアはとうとう不機嫌を露にした。

「誰かアイツらにツッコんでくれ」
「無理だ、関わりたくない」

 なんだか一気に疲れた気がする。どうしてこう木ノ葉の忍はキャラが濃いんだ。

「それよりカカシ先生は元気かい?君たち!」
「カカシを知っているのか…?」
「知ってるも何も…クク」

 そういってやけに真っ白の歯をキランと光らせた彼は顎に手を当てて…。目の前から姿を消した。
 ルリアはつい咄嗟に腰の刀を抜いて背後に突きつけていた。ガイ、と呼ばれたこの男はどうやら相当の実力者らしく、ルリアの刃を親指と人差し指で挟み込んでいた。ルリアは驚愕に目を見開く。
 マイト・ガイ 彼の話は脚色が多いようでどこまで本当なのか分からないが、カカシとガイは永遠のライバルらしい。今までにした勝負は99回に及び、ガイの戦歴は50勝49敗。
 つまりガイのほうがカカシよりも強いらしい。確かにスピードや見た感じ体術も相当やり手と見たが、まさかあのコピー忍者はたけカカシより強い男をまだ隠していたのかと、ルリアは知らず知らずのうちに胸を高鳴らせる。

「面白くなって来たじゃねーか、この先の中忍試験がよ!」
「オウ!」
「うん!」
「…」
「行くかナルト サクラ ルリア!」

 4人で今度こそ301に向かって歩き始めた。


ALICE+