連綿と未来を絶ちきって

 ルリアたちは第二の試験会場であるとある演習場、通称死の森に来ていた。第一試験に乱入したみたらしアンコというくのいちが連れて来たのだ。彼女は全員に同意書を配って、命の保証はないことを告げる。
 最中、ナルトがまた騒いで一悶着起こしたが、それ以外はつつがなく進行して説明を終えた。草隠れの里のくのいち、あの殺気は下忍にしては中々ではなかろうか。この中では要注意人物かもしれない。ルリアは脳内でライバル情報を書き留める。ポーチにある忍具や兵糧丸のストックは充分なので急なサバイバルだが問題ないだろう。

「サクラ!サスケとナルトを連れて逃げろ!」
「あら、逃がしはしないわよ」

 なんで、なんで。たかが中忍試験に 草隠れの忍として伝説の三忍が居るんだ。

 懸命に戦っていたが、あのような大物を前に下忍など風前の灯火と同等だ。すぐに消されてしまう。
 自分の出自が露呈する恐れがあったが、「仲間を守る」という木ノ葉で普通のことをしてみようと思った。ルリアとてあの三忍の一人に太刀打ちできるなんて自信もあったもんじゃないが、自分がこうするのが一番都合が良いと分かっていた。
 サスケは未完成の写輪眼と忍術で応戦したが最後は首元を噛まれて何かを植え付けられたようだ。その証拠に首筋に巴模様がついている。ナルトはおどろおどろしい、禍々しいチャクラを一度纏って狂暴になった。まるで化け狐にでも憑りつかれたようで、思わずルリアは戦慄した。しかしその勢いは大蛇丸が五行封印を使ったことによりすっかり消え失せた。
 ルリアは大蛇丸の背後に隠れて、気配を殺したまま一番に首を狙った。それは簡単に防がれてしまったが、間髪入れずに片手印を結んで術を繰り出す。

「秘術・月影」

 大蛇丸の影が凍り付いて彼の動きを封じる。今度狙ったのは心臓。がら空きのそこめがけて刀を思いっきり突き立てようとする。しかしそこにやってきたのは大蛇丸の口寄せの大蛇でルリアは退くしかない。

「その術…あなた棺一族の者ね。まさか霧隠れの忍が木ノ葉で中忍試験だなんて、思いもしなかったわ」
「術一つで見抜くとはお見事。既に滅んだ一族ではあるが木ノ葉の伝説の三忍の一人に知って頂けているとは光栄というもの」
「あなた達のことはよぉく知っているわよ。天青眼のこともね」
「なぜそれを」

 まだルリアは天青眼を使っていない。かつて栄えていた一族でもこの瞳術をメインに使うものは少なかった。血継限界を持つ者は狙われる運命にあるし、使いどころの難しい代物なのだ。
 昔から水ノ国は内政が不安定でなにかと血継限界を持つ一族への風当たりがきつかった。秘伝忍術に加えて血継限界まで、それは大きな脅威になってしまい、一族は闇討ちされてもおかしくなかった。だから隠す道を選んだと聞いていた。血継限界を持っているのでは、と噂は絶えなかったそうだが。
 その一族の大きな秘密を、なぜ他国の忍が知っているのだ。ルリアは無表情の中で目を見開いて驚いていた。大蛇丸はクククと怪しげに笑って、ルリアを見据える。

「でも棺一族はもう研究しつくしたし…今はやっぱりうちはよね。死んでもらいましょうか」

 今からおよそ二十年前。度重なる内戦のさなか、棺一族は水の国の辺境に住まいを移していた。忍として超優秀な能力を持つ一族は、その強さのあまり白眼視されていた。このままでは自分たちの一族が火種になった戦争が起きてしまう。そう考えた昔の人が、遠い地でひっそりと静かに生きることを選んだ。けれど内戦は始まってしまった。霧隠れの先鋭たちが次々に棺一族を殺していく。
 当時赤子だったルリアはその殲滅作戦の唯一の生き残りと言える。その後、既に忍として十分な信頼を得ていて殲滅の対象にならなかった叔父が、施設に入れられていたルリアを迎えに来た。いよいよ殺されそうになっていたルリアに里への忠誠を誓わせ、自分が修行をつけて優秀な忍にすると水影に進言した。水影はそれを聞き入れ、ルリアも血反吐を吐くような努力を積んで、感情を殺しただ任務を遂行する、「優秀」な忍となった。
 今この世にはルリアと叔父、棺はたった二人だ。しかも、叔父はあの時あの崖で追忍にやられてしまったと思っていた。だけど、叔父はもしかしたら命からがら逃げ伸びたのかもしれない。そして、マッドサイエンティストで有名な大蛇丸の実験に…。
 ルリアの中にふつふつと怒りがこみ上げてくる。どうせ棺について知り尽くしてしまったのだろう。こうなれば力を使ったところで手の内を知られている以上、勝ち目は万に一つもない。しかし、「木ノ葉」流の忍の生きざまと、怒りが、ルリアを奮い立たせる。

「サクラ、ナルトとサスケを連れて逃げなさい。ここは私が何とかする」
「でも…」
「ここに居たって巻き込まれるだけ。二人はもう戦えない。代わりにサクラが戦って守るの。貴方にならできるはず」
「わかったわ!」

 サクラはまずもがき苦しむサスケの腕を肩に回し、姿を消した。ナルトは右手後方の木の幹に張り付いている。その方向を守ればしばらく大丈夫なはずだ。

「私と一騎打ち?フフフ」

 そう言って不気味に微笑む大蛇丸の殺気に肌が粟立つ。武者震いを隠すように、強く刀を握る。
 ルリアの刀は白雪という名の名刀だ。よく見ると意外に使い古されている。それは、刀分けという風習が棺一族にはあるからだ。師が本来二刀流の一本を弟子に託す。弟子は師匠の歴史を感じ取り、努力する。師匠に一人前と認められた時、師匠は自身の刀 あるいは新たにあつらえた刀を弟子に贈る。そうやって繋いできたものだ。
 今の私は一人ではない。師匠、どうか私に守るための力をお貸しください。


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