平凡と啖呵


どうやら私にも、売られた喧嘩を買うときが来たようだ。
リーマスに避けられている。ちなみに満月が近いなんてことは全くないし、最近はレポートが新しく大量に出たなんてこともない。徹底的に避けられている。なんとなく予想はできていたけど腹の立つ事実だ。あの諸々の暴露を私を避けることでなかったことにでもするつもりか。私はそんな気全くないぞ友よ。そんなわけで、せっかくアメリアとは和解したというのに私は未だ苛立ちとともにあった。残念ながら私なんかよりよほど人を見ることに長けているリーマスに本気で逃げられては私に勝ち目はないので、最悪満月の次の日に医務室に乗り込んででも……なんてことを考え出すくらいには私は切羽詰まっていた。それでは意味がないのだ、それでは。
そんな状況は、意外な人物の力添えによってあっさりと打開されることになる。

「……ねえポッター、お願いよ」
「ええ? いくらリリーの頼みでも、こればかりは僕の一存じゃなぁ」
「だってもうあんなの見ていられないわ! ずーっと思い詰めてる様子だったのがつい先日リズと仲直りできたの!って言ってたのよ! 友達が困ってるなら、助けてあげたいじゃない……」
「君のそういう美しい心に僕は惚れ込んでいるけどね、リリー。僕だってこれでも僕の親友のことを思って口を出していないんだ」

リリーが、ポッターと、話している……!? その衝撃が一瞬イライラを上回って、耳をそばだててしまったところ聞こえてきたのがこれだ。どうやらアメリアは私がリーマスを捕まえられなくてイライラしているのをリリーにこぼしていたらしい。変なところ迂闊な彼女らしいといえば彼女らしいが、問題がデリケートすぎるから困りものだ。リリーのような心優しい勇敢な女の子はきっと、私のように怯えた態度を見せたりはしないのだろうけど。

「それに何より、君をアゴで使って本人は盗み聞きするような趣味の人間をリーマスには会わせられないね。君もそう思わないかい、サティ?」
「アゴで使われてなんか! 私はリズに頼まれたわけじゃないのよ!」
「…………や、いいよリリー。本当のことだし、思わず立ち聞きしてたのは謝るよ」
「意外と素直じゃないか。いったいどれだけ見境なく逆ギレしてるのかと思ってたのに」
「ひどい言われようだなぁ。確かに最近はイライラしてたけど、関係のない人に当たり散らしたつもりはないよ」
「へえ? 今、僕のリリーが、君のせいで迷惑被ってるのが垣間見えたのにかい?」
「リズを悪く言うのはよしてちょうだいポッター! それに、私は、誰のものでも、ありません!」
「……リリー、本当に大丈夫だから、リリーが怒ることないんだよ」

リリーはしぶしぶと言った様子で引き下がる。彼女は用事の詰まっている身でポッターに交渉していたらしく、「ところでリリー、スラグホーン先生のところにはいかなくて大丈夫なのかい? 送っていこうか?」というポッターの言葉に「余計なお世話よ!」と吐き捨てて、一瞬私の方を心配そうに見て立ち去った。

「それで? 私にわざわざこうやって嫌味ふっかけてきたってことは、少なくともポッターは私と話す気がないわけじゃないんだね?」
「他の三人は話す気がないのはよくわかってるみたいで何よりだ!」
「そりゃあね。ペティグリューはアメリア相手で散々やられてるから早々出ては来ないだろうし、ブラックは今頃きっととーっても不機嫌でしょ。リーマスは最近の態度で嫌という程わかってる。顔も見てない」
「わお! 君って思ったより僕たちのことよく知ってるんだね____ファンか何かかい? サインいる?」
「売れば高値が付きそうね、ぜひ今度お願い。もののついでに、リーマスに伝えといてくれない? 放課後空き教室、こないだと同じとこ」
「来ると思ってるの?」
「あなたがきちんと伝えればね」
「避けられてるのに?」
「私の知ってるリーマス・ルーピンは人との約束を破らないよ。それがたとえ一方的な愛の告白の呼び出しだろうともね」
「はは! それじゃあ、君からの告白のお呼び出しだと伝えておいて構わないね?」
「うん、いいよ」
「…………え?」
「いいよ、って言ったの。そう伝えるなら、付け足しといて。“告白は言い逃げするもんじゃないっつーの!”」
「えっ、おい、サティ!?」

言いたいことは言ったし、今だけはポッターを信用するしかない。逃げるように走り出す。馬鹿なりに手札は切った。私から聞き出せない以上、ポッターはリーマスに“告白”とやらを聞くしかない____なんていうのは建前で、リーマスの大親友とやらを、私も信じてみたくなったのだ。アメリアが私のために動いたように、彼がリーマスのために動くのはわかっていたからこそ。だからこそ、彼が、彼の意思でリーマスの背中を押すのを期待したかった。
私の凡庸な一言は、きっとリーマスに届かない。それでもいいと思っているあたり、どうせこの呼び出しも、これからリーマスとする話だって、私の自己満足でしかないのだろう。それでも、私は、私の大事な友だちと、また話したいと願うのだ。失いたくない相手なのだ。少なくとも、私は彼のことを、人狼であるということで嫌いにはなれそうにない。そのくらいには_____リーマスのことを、想っていた。