きみが宝物になる
「なぁ、好きだ。」
そう言った端整な顔立ちの男を、ナマエは驚いたように目を丸くして見つめ返した。
何がどうしてこうなったのか。ーいや、それ以前に“好き”、とは。
この目の前の男にとって、それはどういう意味での“好き”なのだろうか。
「…聞いてんのかよ。無視すんな!」
「…! ご、ごめん!」
考えあぐねていたら怒られてしまった。
男、もとい伊之助は、縁側の外に左足を垂らし、右足は胡座をかくように曲げていた。筋肉質な両腕は上体を支えるように後ろに斜めに伸ばされており、床に着かれている手の甲は所々擦り傷がある。
いつもの猪頭は男の右側に置かれている。そうして男は大きな翡翠色の双眸でナマエのことをじいっと見つめてくるのであった。
「…聞いては、いたんだけど…」
さてどうしたものか。
きっかけは半刻ほど前、場所は任務終わりの藤の花の家紋の家である。
鬼との戦いでまだ興奮冷めやらず、上手く寝付けなかったナマエは炭治郎達を残し、そっと部屋を出た。
四つ敷かれていた布団に、左からナマエ、炭治郎、善逸、伊之助の順で寝ていたのだが、まさか伊之助も起きているとは思わなかった。
「伊之助も眠れてなかったんだね。寝た方がいいよ〜。」
縁側に腰掛けていた伊之助に小さな声で冗談混じりに言えば、横目でちらりと見られてから、ふんっと鼻で笑われる。それからナマエはそうっと男の左隣に腰を下ろしたのだった。
「好き。って……何が?」
(…何“を”?)と、聞いた方が良かったのかもしれない。しかしそう聞いてみてナマエはすぐに後悔した。
(……に、睨んでる…。 物凄く…。)
「…ハァ?! お前それ本気で言ってんのか!」
「本気も何も…、」
何しろ伊之助の常識はナマエや炭治郎、善逸の常識とは異なるのだ。