「頼んだぞ」
私は資料室から先生が出ていったのを確認して、小さく溜め息を吐く。
目の前に積まれたのはげっそりするほどの資料タワー。明らかに重そうだ。
係だからといって、私一人に持たせるなんて最悪だ。一応女の子なのに。……と、悪態を吐いても仕方ないので、私は資料を手に持つ。
「うぐっ……」
予想以上に重かった。
紙って一枚一枚はとても軽いのに、重なるとなんでこんなに重くなるんだろう。もうこれは紙から人に対する嫌がらせとしか言いようがないんじゃないかな。紙、恐るべし。
私はゆっくりとしたスピードで歩む。少しでもバランスを崩したら資料をぶちまける自信があります!だからこその慎重さだ。
足下と手元を気にしながら進む。前を資料で埋め尽くされてしまったから、足下の状況と感覚でクラスを目指すしかなかった。
「わっ」
ふいに手の内が軽くなった。軽くなったと言っても、重さが消えたわけじゃないけど。
ちなみに、視界も広がった。キョロキョロと周りを見渡せば、先ほどのタワーの上半分を持った笠松先輩が目に入った。
「笠松先輩!」
私が声を上げれば、笠松先輩に睨み付けられた。すいません、驚きのあまり大声を出していました。
「危ないだろうが」
そんな声が聞こえて、笠松先輩の方を見れば、無愛想に唇を尖らせている。もしかして、怒ってらっしゃる?
「誰でもいいから頼れ。お前一人じゃ今ごろ怪我してたぞ」
言わずもがな、資料のことだろう。うう……。忠告痛み入ります。
「ありがとうございます!助かりました!」
素直に感謝を告げれば、笠松先輩は真っ赤になった。笠松先輩、女の子苦手なのに…。そう思うと少し嬉しくなったけど、もしかして女の子に思われて無いんじゃないかと勘繰ってしまう。
だから、ちょっとした出来心だ。
「笠松先輩」
「なんだよ」
「私のこと、ちゃんと女の子として見てください」
そこまで言って気付いた。あ、これ、勘違いを生みそうな台詞じゃないかな。
まるで私が、笠松先輩を好きみたいな……。
「笠松先ぱ……あれ?」
弁解をしようと隣を見るが、笠松先輩がいなかった。まさかと思い慌てて後ろを見れば案の定、真っ赤な顔で資料をぶちまけている笠松先輩が視界に入る。
あ、やっぱ勘違いされたな、これは。
「大丈夫ですか!?」
急いで駆け寄ると、後ずさられた。ちょっと傷付くかも。てか、傷付きました。
だから、私は意地悪を続ける。
「いきなりあんなこと言われても困りますよね……」
少し肩を落とし、床に散乱した資料を拾い集める。出来るだけ悲しそうに。
すると、いきなり目の前が真っ暗になった。
なんだろうと身を捩るが、身動きがとれない。だけど、少しだけ感じる匂いで誰かは分かった。
「笠松、先輩?」
私、今笠松先輩に抱き締められてるの?え、え?あの女の子が苦手な?てか、どうして?
「あの」
「お、俺は、お前を女子として、見てる……つもりだ…。おま、おまえ、お前が…」
あ、なんか嫌な予感。ていうか、周りの視線を感じちゃうんだけど。そりゃ廊下の真ん中で抱き締め合ってたらね。
「名前が好きだから!!!」
予感的中。周りの歓声がやけに大きく聞こえた。これはもう、資料を運ぶどころじゃない。まさか、私が笠松先輩に好意を寄せられてたなんて。
思わせ振りな言葉を言った手前、私は断ることも出来なくて、笠松先輩曰く「結婚を前提なお付き合い」が始まった。
私も結局笠松先輩に惚れて、結婚までに至るのはまた別の話。
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