これはイケメンが多い部活のマネージャーの宿命と言える。
昼休み体育館裏に呼び出されて始まるのはただ一つ。いじめだ。


「まじ目障りだわー」

「ありえない!色目使ってんじゃねーぞドビッチが!」


私的にはなんとも言えない。まったく色目なんかは使っていないし、いや、使ったところで意味ないし。でも、意見したら生意気だって殴られるし。何も言わなくても殴られるし。つまり、ここに連れてこられた時点で結果は決まってるんだ。私は殴られるの。

赤司くんには嘘を吐いていることになる。何かされたら言えと言われているが、こんなことに手を煩わせる訳にはいかないし。ただ、殴られればすむ話だから。誰にも心配かけさせずに私がやられてれば問題ない。

ただバスケが好きだからマネージャーになったのに。いやはや、思春期って怖いものだ。勘違いも甚だしい。


「なんか言えっつーの!!」

「かはっ」


なんか言ったら一発いれるくせに。黙っていたら一発いれられた。鳩尾だ。かなり痛い。
腹部にかかった圧力のせいで呼吸が上手くいかなくなった。ぜぃぜぃと息が切れる。まだおなかだからいい。顔はみんなにバレてしまうから避けないと。


「あは!苦しそうねー?」

「ざまぁないなぁ!ヒャハハ!」


女の子たちは楽しそうに高笑いを上げながら何度も踏みつけてくる。唇を噛んでぐっと我慢した。でも、少しだけ涙が滲む。悔しい。なんでこんなことで泣いているの。私は弱くないわ。なにがなんでもみんなでバスケがしたいんだ。だから、これくらい我慢しないと。


「声ぐらい出せよ!」


脇腹を踏み込まれ、思わず声が出る。瞬間、彼女たちの表情は愉悦に染まった。


「なにやってんの」


しかし、その一声で彼女たちは動きを止める。いつもと変わらないほわほわした声なのに、どこか張りつめていた。


「ねぇ、名前ちんになにしてんの?」


彼女たちの肩越しに見えた紫原くんはいつもの調子で語りかける。だが、その手は私の脇腹を踏み込んだ女の子の頭を掴んでいた。ギリギリと、嫌な音までする。女の子はガクガク震えながら泣いているではないか。泣かない方が無理かもしれない。


「ごめ、ごめんなさい」

「いや、俺は謝ってほしい訳じゃない。何をしてるのかって聞いてんのー。それに、謝るなら名前ちんにでしょ?」


そんなことも分からないの? 紫原くんは静かに続け、更に握力を込める。女の子は泣き叫んで許しを乞おうとしている。


「名前さんごめんなさい!」

「もうしない?」

「も、もうしませんっ!」

「あっそ、じゃいいや、どっか行って。目障りだから」


紫原くんは掴んだその子をまるで壊れた玩具のように投げ捨てた。女の子は慌てて立ち上がると、周りにいた女の子たちに声をかけながら去っていく。


「ありがとう、紫原くん」

「本当。俺がいなかったらどうしてたの?」

「殴られてた」

「案外落ち着いてるね、ムカツク」

「まぁ、慣れたし」


しまったと思った時には遅かった。紫原くんは私を凝視してから溜め息を吐く。


「慣れたって、それなりにやられてたんだ」

「う、うん…。ごめんなさい……」

「もう隠さない?」

「………………はい」


隠さない自信は無いけど、頷く。今の紫原くんなら本当に捻り潰されそうだ。

「今度やられたら俺を呼んで。絶対に守るから」

「紫原くんが?」

「うん。俺が直々に」


紫原くんはそう言うと、私に小指を突き出してくる。私は徐にその小指に自分の小指を巻き付けた。指切りの形態だ。


「今度から隠さないって誓ってね」

「うん、分かった」


私が頷くと、紫原くんは「嘘吐いたら針千本だから」と釘を刺してくる。紫原くんなら本当にやりそうだ。