私のお兄ちゃんである和くんは、友人間でHSKと呼ばれているみたい。
断じて ハイパー・シスコン・和くん の略ではない。「ハイスペック」って意味らしい。いや、ハイパー・シスコン・和くん でも大体は合っているんだけど。
器用貧乏の最良版。器用貧乏が様々なことを並みに出来ることだとすれば、ハイスペックは様々なことを並み以上に出来ることなんだって。本人が言ってたからあんまり信用できないけど。
でも、和くんがそうやって誉められるのは妹として鼻が高い。友達にだって自慢できちゃう。まぁ、誰かが和くんのことを好きになっちゃうかもしれないから自慢しないけど。和くんに彼女が出来るなんて私が許しません。和くんが私に彼氏が出来ることを許してくれるまでは!
私はソファに放り投げていたリモコンを手に取る。今やっているバラエティーはあんまり面白くない。両親は遅帰りで、和くんも遅くまで部活だから、すなわち、私は暇だ。面白い番組は無いし、と私は電源を切る。最近のテレビ、あんま好きくないからいいか。
「和くん、帰ってこっないっかなー」
言葉にリズムを着けながら呟いて、私はソファに突っ伏した。
私は中学生三年生で、もう部活も引退しちゃってるから、やることないんだよね。受験だって、秀徳にスポーツ推薦が決まってるから受けないし、勉強の必要がない。
秀徳だよ!秀徳!和くんと同じ高校に、和くんと同じ理由で進学を決めたの!
スポーツ推薦。バスケットボールでの、スポーツ推薦だ。
すごく嬉しくて、今でも決まったときのニヤニヤが出てきちゃう。私は両手で口元を押さえた。
さぁーて と、私は足を振り子の様に振って、その反動で起き上がる。腹筋は鍛えているから、これぐらいは造作もないことだ。
和くんはまだ帰ってこないだろうし、ご飯作るのはまだ後でいいだろう。和くんには暖かいご飯を食べてもらいたいし。私は和くんとご飯を食べたいし。
和くんがシスコンなら、私はブラコンだ。ふふっ 相思相愛!
私は立ち上がりキッチンに向かうと、冷蔵庫を開けた。そういえば、献立を決めてなかったな。 とりあえず冷蔵庫内を見渡してから、私は和くんにメールを送る。
『ハンバーグかコロッケ、どっちがいい?』
という内容である。なんか新婚みたいで恥ずかしいな……。私は調子に乗って、ハートの絵文字を大量に添付してみた。可愛い。
よし、送信と。
送信ボタンを押して携帯を閉じる。すると、後ろから声がかかった。
「俺はハンバーグかな?」
「!?」
聞き慣れた大好きな声に、私は身体をぐるん と回した。視界には、エナメルバッグを斜めにかけた和くんが映る。
「和くん!?部活は!?」
「今日は早帰りって昨日言ったじゃん」
「うわっ!忘れてたかも!」
私が慌て始めた様子を見て、和くんは楽しそうに笑う。今の和くんの姿は、まるで部活帰りとは思えないほどしゃんとしている。でも、汗をかいてることぐらいは分かってるから、私はシャワーをすすめた。しかし、和くんは首を横に振ってから、エナメルバッグをリビングのソファに置いてからキッチンに来る。何をするのかと思っていると、おもむろにオレンジ色のエプロンを身にまとった。
「俺も手伝うよ」
ニコッ と笑顔を見せてくれる和くんにノックアウト。我が兄ながら、完璧すぎる。
和くんって、昔からなんでも出来たんだ。
運動神経はいいし、意外と頭もいい。料理とか裁縫とかも出来て、コミュニケーション能力も高い。なんでも出来て、なんでも優れているの。
私にとって、和くんは誇りで憧れだ。
「よっしゃ!名前!ひき肉こねるぞー!」
「おー!」
「じゃんじゃん作ってやろうぜ!」
「おー!」
私たちは腕捲りをして、意気揚々と料理を始めた。
出来映えは、言うまでもないだろう。
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