見惚れるほどの高身長に、目標に面と向かって進む努力家なところ。でも、それを誰にも見せないところが彼の素晴らしいところ。

私が大好きなところ。

宮地先輩の、好きなところ。


「おい、何見てんだよ」


テスト期間に入った秀徳。もちろん、部活動は全停止なのだが、成績のいい宮地先輩だけは特別な許可を貰って体育館で個人練習をしている。
そして私は、そんな宮地先輩を見守っているのだ。


「なんなんだよお前」

「見守ってます」

「わかってんだよ、轢くぞ」

「ぜひ」


私がそう言い放てば、先輩は鋭い舌打ちを吐き出した。
宮地先輩って、案外扱いやすいんだよね。口は悪いけど、まぁ、それも口だけだし。中身は本当に優しくて、後輩思いなんだから。


「集中できないだろうが」

「私の事は気にしないでください」

「気になるに決まってんだろ、殴るぞ」


はーっ と深く溜め息を吐いた宮地先輩は、一度頭をかきむしると、手にしていたボールをかごに投げ入れ、更衣室に歩いていく。


「あれ?練習はどうするんですか?」

「萎えた。帰る」


更衣室の扉を開けた先輩が私を指差しながら言ってくる。
ああ、私の所為か。先輩の邪魔になっちゃうのなら来なければよかった。そんなつもりじゃ無かったのだけれど。

先輩に会いに来たことが至極申し訳なくなって、私の顔は必然的に伏せってしまう。
ごめんなさい、ごめんなさい って心の中でいっぱい謝って、私は膝を抱えた。


「何やってんだバカ」

「いたっ」


後頭部に軽い痛み。暗闇に染まっていた私の視界が自然と明るみに晒された。
見上げるとすでに制服に着替えた宮地先輩がいて、不機嫌そうに私を見下ろしている。


「帰るぞ、名前」

「あ、はい!」


一緒に帰ってしまっていいのだろうか。いや、宮地先輩から声をかけてくれたのだから、きっとそうなのだろう。

私は急いで立ち上がろうと手を床につける。肘辺りに力をこめて、立とうとしたら、目の前に掌が現れた。私は思わず首を傾げてしまう。


「早く掴まれ。モタモタしてると刺すぞ」

「は、はい!」


大きな大きなその掌に、私は恐る恐る自分の手を乗せた。自分の平均的サイズであるはずの手が、かなり小さく見えてしまう。


「ちっせぇの……」


ぼそり とそんな声が聞こえて、私は自分の頬が熱くなるのを感じた。今、絶対赤い。真っ赤だ。ゆでダコだ。


「おい、大丈夫かよ」


ぶっきらぼうに乱雑に吐かれた言葉に、私の肩は揺れる。すごくどうでもよさそうに言うくせに、言葉がいちいち優しいんだ。こういうところも好きなんだよ。宮地先輩は何にも分かってない。


「大丈夫です」


なぜかそれがとても悔しくて、私は繋がる掌を力一杯握ってみた。案の定、反応は無い。

言葉が途切れたのを感じて、私は声を発する。出来るだけ、無駄な時間は作りたくないんだ。


「先輩、私は邪魔でしたか?」

「邪魔だろ」


やけにきっぱり言われた言葉に、いまいち落ち込むことも出来ない。複雑だ。悲しいはずなのに、先輩らしくて嬉しいと思っちゃう私がいるのだ。


「でも、まぁ………集中出来ねーとか、萎えたとかは……嘘だよ」

「え?」


まさかの発言に、度肝が抜かれてしまう。そんなこと、知らなかった。確かに宮地先輩は不器用で天の邪鬼だけどね。


「今日は7時まで練習しようと思ってたんだよ。お前のことだから、絶対俺が帰るまで練習を見てくだろ?んな、遅い時間に帰らせれるわけねーだろ。よく考えやがれ。だけど、自惚れんなよ、殺すぞ」


真っ赤な顔でそんなことを言われて、自惚れんな って言う方が無理な話だ。自惚れてしまう。だって、つまり、宮地先輩は私が心配だったってことだよね。

嘘つきな宮地先輩。
不器用な宮地先輩。
天の邪鬼な宮地先輩。

吐いた嘘は全部全部優しくて、私をことごとく喜ばせちゃってるよ。


「先輩大好き!」


勢いのまま抱き着けば、真っ赤に焦った宮地先輩がキレ始めて、本当に可愛かった。

でも、「キレ」は照れ隠しだもんね。

宮地先輩の全てが分かっちゃえば、やっぱり可愛いとしか言いようがなかった。