それから彼は、ほとんど自由に家中を歩き回るようになった。
今までとは全然違う。
この家からはいつだって逃げることが出来るだろうに、それもしない。
あの日みたいに、複雑な表情も浮かべない。どうやらその件の答えはもう出ているようだ。
だから、私がとやかく言うものではない。
二人でテレビを見て、料理をして、今までの欠陥を埋めるように言葉を重ねて。
私が買い出しのために家を出て、やっぱり心配になってすぐ帰っても、彼はそこにいる。
「んな焦んなよ」と笑いながら、そこにいる。
それが何よりも幸せだった。
私が歪んだことを言っても彼は笑ってくれる。全てを許してくれる。傍にいてくれる。
こんなことになるなんて、思わなかった。
私のことを愛してくれるようにしたいと思いながら、どこかでそれを諦めていたのかもしれない。
だから本当にこれは予想外。予想外の幸せ。
肝心なことはお互いに触れないように。
いやもう、私としては騙されていてもいい。これが偽りの笑顔でも。
彼は私をこんなにも幸せにしてくれた。だから、私は彼を苦しめたりしない。
そう、苦しめたりしないんだ。
だからもう、いいんだよ。
偽りならそう言ってくれて。
私は泣かないから。
いや、泣くかもしれないけれど、幸せに泣くから。
これ以上苦しめたくない。
分かっている。彼の幸せはここにはない。
監禁生活はもう半年以上続いていた。
半年もこんなに幸せな気持ちでいられるなんて、私みたいな根暗でキョドってばかりのやつにはもったいない。
火神くんがいるべきはここじゃない。
だから………。
「なぁ、苗字」
「うん」
「外に出たいんだけど…」
その言葉を待っていたんだよ。
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