彼がこの家を出て三時間が過ぎた。
もう泣き晴らして涙も流れない。カラカラだ。出しきった。
幸せな時間だった。
彼との思い出を思い出しながら泣く、幸せな時間。
この時間だけで、これからを生きていける。
後はみんなの中で笑っている彼を見ていられたらそれで。
きっと私はもう監禁なんてしないだろう。
本当に好きな人と、本当の幸せを知ったのだから。
あの日の彼の顔の答えはこれだったんだ。
彼は私より日常と仲間を取った。大正解。それでいい。私も、それがいいと思った。
今ごろ彼は何をしているのかな。
失った体力を取り戻すために走り込んでるかも。
いや、仲間に会いに行ってる?
久しぶりの自室でゆっくりしてるかも。
ああ、本当に私は変われないな。頭の中が火神くんでいっぱいだ。
うそ、やっぱり変わった。
だって、彼が目の前にいなくても不安じゃない。外は危ないけれど、彼なら危険なんて吹き飛ばしてしまいそう。嵐のような人だから。
わがままと本音を言うなら、後少しだけ傍にいて欲しかったかも。
私の瞳から枯れたと思った涙が、一滴だけ流れた。
「ただいま」
がちゃりと、玄関が開く音。
私は耳を疑った。
ただどうすることも出来ず、リビングの扉を見つめる。
開く……。
「わりぃ。ちょっと遅くなった」
入ってきたのは紛れもなく火神くんで、私は声にならない声をあげながら立ち上がる。
「あ!目、赤くなってる!………もしかして泣いた?……あー…、本当にごめん。こんなに遅くなるつもりは…」
「どういうこと………?」
目の前に彼がいる光景が信じられなくて、口をついて出たのがその言葉だった。それを筆頭に、ぽろぽろと言葉が溢れる。
「なん、で…!!なんで帰ってきたの!!?私は、出ていったんだと…!! 火神くんが幸せならそれでもいいって…!!!」
「は?俺が幸せになるためには苗字が必要不可欠だろ?」
「あっ…………」
言いたかった言葉が、消えてなくなる。
そんなに当たり前のように言われたら、どうしていいか分からない。
どこに隠してたんだと思うほど涙が流れる。
彼に飛び付いて、ぎゅーっと抱き締める。
「おかえり……!!」
「おお、ただいま。 ……それから」
彼は私を離すと、おもむろに跪いた。そして何かを差し出してくる。四角い、紺色の箱…。
「悪い。可愛いの探してたら時間が無くてさ……」
彼は申し訳なさそうに笑ってから箱の蓋を開ける。
思わず息を飲んで、口元を押さえた。
「俺と、幸せになろうぜ。結婚、しよう」
ハートの装飾が施された可愛い指輪に、耳を疑うほど素敵な申し出。私は声にすることが出来ず、ただただ深く、何度も頷いた。
「おっしゃ!なら今からバスケしに行くぞ!」
「え、ま、待って!」
指輪を受けとり、指にはめて感慨に耽るのもつかの間。彼は私を抱えあげると外に飛び出す。太陽がやけに眩しくて、頭がくらっと揺れた。
「バスケしたくて仕方ねーんだよ!」
「あ、危ないよ!」
「外か?かもな!」
あっけらかんと火神くんは笑う。でもすぐに悪戯っ子の笑みを浮かべた。
「俺が護るって言ったら、大丈夫な気がしねぇ?」
「………するから悔しい…!!」
「ははははっ!だろ!?」
ああ、こんなに幸せでいいのかな?
ううん、いいんだよね。
彼が笑って、私も笑えるなら。それを幸せだと呼ぶんだから。
カガミタイガ ノ シアワセ ノ カタチ
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