無言でご飯を食べさせて、小さな「ごちそうさま」を聞いて、部屋を出る。彼の思いを聞いてしまったあの日から、私たちの関係は希薄になっていた。
食事の前の問答もなくなって、必然的にご飯を食べなくなっていく。食欲がでない。お腹は空いてるんだけれど、食べれない。口に、入らない。喉を、通らない。

おかしくはない。
戻っただけだから。
いいんだ。彼を閉じ込めていられたらそれで。

…………なんで、監禁なんてしたんだっけ。
ああ、そうだ。
外が危険でいっぱいだから……。私が、護らなくちゃって……。
だから、私は………。

そう考える度に、あの日の彼の顔を思い出す。
笑顔とは程遠い顔。
私が監禁なんてしたから…。
彼はあんな顔をしなくちゃならなくなった。
私が、一番苦しませていた。

きっと彼は私に好意を抱き始めている。
何度も嫌悪の目に晒されてきたから、分かる。
だから彼はあんな顔をした。

だって、彼にとって私は最低なやつ。
悪。
恨むべき相手。
こうやって閉じ込めて、彼を苦しめている。
彼はバスケをしたいんだと思う。仲間の元に帰りたいんだと思う。

でも、世界は非情だから。優しいだけじゃない。
物理的な危なさもある。車とか犯罪とか。バスケをしているならボールや、接触も有りうる。
だけどそれだけじゃない。
人間関係は、時に凶器に成り代わる。
私が一番怖いのはそちらだ。
信じていたら裏切られて。嫌いとか好きとか。ああして、こうして。
どうしてあの子はあんなに−−。

人間は怖い。
無自覚に人を傷つける。
痛い。すごく痛い。

それが監禁をする理由。

なのに彼は揺れている。
恨むべき相手なのに、好意を抱いてしまったことに。
あれは、自分を嫌悪していた。
仲間に申し訳ないと思っているのだろう。

「…………ハハッ…」

アイデンティティの崩壊。
私の恐れているのはそれだ。

ぽろぽろと涙が落ちる。

「やったじゃん……私」


−−こんなやつを、火神くんが好きになってくれたよ−−


違うんだよ。
好きになってもらうのなんか、二の次なんだよ。
一番は、護ることなの。
それが私のアイデンティティ。
だから、私が苦しませるなんて、あってはいけない。
私では、彼を護れない。


「やった……じゃん………すごい、よ………本当……」


床を塗らす涙が憎い。
自然と漏れる声が憎い。

私、こんなに脆かったっけ。

「うぐぅ…………うう………あああ…………うああ………」

口元を押さえて、声を抑えて。
私は一人ぼっちで泣いた。