※中学設定です。



目の前を可愛らしいフリルが踊る踊る。ふわふわ、ひらひらと。なんともかわいいものだと同級生たちの姿についつい心も躍る。気持ち的にはお母さんだった。ああ、こうやって見ているだけならとっても幸せなのに。

なのに。

「みょうじー!出てこいって!」
「絶対やだ!!!やだ!!!!」

執事服に身を包んだ男のクラスメイトがカーテンにくるまる私にそう声をかけてきた。しかしこの姿を晒すことは絶対に許されない。ぎゅっとカーテンを強く握って激しく首を振った。断固抗議だ。

「お前……決定の時はノリノリだったじゃん……」
「だってそれは、みんなのメイド服が見たかっただけなの!!」

そう、私が衆目に晒したくないのはこの身を包むメイド服である。

今は5、6時間目の学級活動で、一ヶ月後に控えた文化祭の衣装合わせの時間だった。我がクラスの出し物はメイド&執事喫茶。実行委員によると流石の名門私立中学ということもあり文化祭の予算も潤沢で、質の良いメイド服と執事服を用意できたらしい。そこまでは良い。非常にいい。だって現に今クラス内で繰り広げられている世界は一言で言えばユートピアだ。一回行って見たかったんだよね、メイド喫茶。それをかわいいかわいいクラスメイトがやってるのだ。そんなの無条件で全肯定してしまうじゃないか……。おかえりなさいませ、ご主人様って言われたいなぁ……などという幻想はあくまで幻想。

私は忘れていたのだ。私もこのクラスの一員ということを。つまり私はご主人様ではなくてメイドなのである(当然)。

もちろん心はちゃんと女だし、かわいい服は無条件にテンションが上がる。実際、テンションが上がったから現在メイド服を着ているわけだし……。それでも流石にひらひらがいっぱいついたミニスカートだけはいたたまれない。体は中学生だから周りから見たら可愛らしいものかもしれないが、私の精神的には全然可愛らしくない。それに気付いていたから小学生の時からロングスカートかパンツスタイルしかしてこなかったし、今もできる限り制服のスカートを長くして履いているというのに……。今更 膝……どころか「ふともも出せ」なんてハードルが高すぎる。

「出てこいってみょうじーー!!」
「やめろ!!すておけ!!」
「すておけねえんだってば!!」

さっきから私を引きずり出そうとしているのは文化祭実行委員の一人だった。彼的にも仕事で仕方なくやっているのだろう。他のことだったら喜んで協力するのだが、今回だけはそうはいかなかった。

教室の隅でそんな攻防を繰り広げていると、クラスメイトが小さくざわついた。何事だろうとそちらに目をやれば、執事服を着た花宮くんがおり目を奪われる。やっぱり、顔がいいだけあって執事服は映える。特に彼には黒がとても似合うから、制服の何倍も魅力的に映った。

「花宮くんかっこいい!」
「そうかな?少し恥ずかしいけど」

クラスの女の子にもてはやされた花宮くんはいつも通り猫をかぶってそれに受け答える。相変わらず覇気のない雰囲気だったが、見方を変えれば温和にも見て取れた。

「いやもう花宮くんがいたら私いらないじゃん」
「何いってんだよ。このクラスはただでさえ女子少ないんだからメイドは必要なの!」
「裏方で料理ならいくらでもやるから!!メイドだけは勘弁して!!」

引っ張り出そうとしてくる実行委員に必死で抵抗する。絶対カーテンから出てやらない。花宮くんの晴れ姿を近くで拝めないのは非常に残念だが、それでも背に腹は変えられない。

「まぁまぁ、無理やりはよくないよ」

そう言いながら近づいて来たのは当の花宮くんだった。彼はニコニコと笑って私と実行委員の間に入る。そして実行委員に「あとは任せて」というと人払いをしてしまった。おかげで私たちの声が聞こえる範囲に人はいない。

「は、花宮くん……どういうつもりですか?」
「どうもこうもねえよ。俺がこんな格好してんだ。お前も出てこねえとつり合いが取れないだろ?」

これは絶対逆恨みというやつだ。花宮くんがクラスの話し合いでは本性を出せないことをいいことに、「花宮くんの執事姿!いいと思います!」と意見したことに対する逆恨みだ。別に嫌がらせとかではなくて、単純に見たかっただけなのに……。

「なぁ?早く出て来やがれ」
「……っ」

花宮くんは決して実力行使には出ない。ただ綺麗な顔を近づけてくるだけだ。いつもとは違うサイドをかき上げたヘアスタイルがなんとも耽美で見惚れてしまう。

「なぁ」
「うっ」
「なぁ……?」
「ぁっ、うっ」

この性格だとしても綺麗な顔には違いない。そしてそれを完全に理解してこの圧の掛け方だ。敵ながらあっぱれとしか言いようがない。どんどん近づく彼の端正な顔立ちに比例して、顔に熱が昇っていく。首の後ろまで熱かった。

「うう……わかったよ……」
「ふはっ。最初からそうすればいいんだよ」
「でも恥ずかしいから……花宮くんだけ先に見て大丈夫かどうか判断して」
「は?」

心底不思議そうに顔を歪める彼だけに見えるようにカーテンの前側を少しだけ開ける。さっきまで私を隠していた布が一枚なくなるだけで心許ない。足が空気にさらされてスースーし、つい膝を擦り合わせてしまった。ストッキングぐらい履かせてくれてもいいのに。

「どう、かな……?」

恐る恐る花宮くんの反応を伺うと、彼は無表情で固まっていた。固まるほどひどいのだろうか、と自信を失っていると、彼はカーテンの端をぎゅっと握り勢いよくそれで私を包み込む。

「うわっ!!」

一瞬で蓑虫のようにされてしまった。何事だろうと花宮くんの様子を伺えば、なんだかとても機嫌が悪いようだ。いや、でも耳の先は赤い……?

「もっと丈のあるスカート履けばか!!」

そう叫んだ花宮くんは蓑虫状態の私を置いてクラスメイトが集まる方に大股で歩いて行ってしまう。どういう反応なんだろうと思っていると、ふらっと私の元に戻って来た実行委員に「どういう状況?」と心底不思議そうに言われた。