帝光中学校に通い始めた私は、調理部に入部することにした。バスケ部の彼らを支えたいと言う気持ちもあったのだが、この料理スキルをどこまで伸ばせるか……と言う好奇心もあったのだ。それに、作ったお菓子や料理はバスケ部に差し入れに行けば部活的にも全く問題なく、一石二鳥。我ながら完璧な策だと脱帽してしまうほどだ。
「はーい!調理部でーす。差し入れでーす」
いつもの調子で一軍が集まる体育館に今日作ったものを差し入れる。私の声に気付いた征十郎くんがすぐに練習を切り上げてくれた。ぞろぞろと集まってくる後輩たちの先頭を歩くのは敦くんだ。
「◯◯ちーん!今日は何作ってくれたのぉ〜?」
間延びした声で言いながら近付いてくる淳くんについ頬も緩んでしまう。可愛いなぁと思えども撫でたい頭ははるか上に存在して背伸びしても届きそうにない。
「今日はカップケーキを山ほど焼いてきましたー!」
「えーー!まじー?俺がこの前リクエストしたやつじゃん!◯◯ちん天才!!」
私の手の内にある大量のカップケーキに敦くんは目をキラキラ輝かせてから抱きついて来ようとするので、先にカップケーキを避難させてから抱きしめる。うーん、包み込まれている感じだ。
「こら、紫原。みょうじさんをあまり困らせるな」
「むー。はーい」
征十郎くんの凛とした声に叱られて、敦くんは離れていってしまう。あーせっかくの温もりがーと名残惜しくて手を伸ばすと、征十郎くんに笑顔で制されてしまった。悲しい。
「それにしても本当にいただいていいんですか?」
「いいのいいの。貰って」
申し訳なさそうにする征十郎くんにカップケーキが山ほど詰め込まれた袋を渡す。「ありがとうございます」と笑った彼はそれを円になって座ったみんなの真ん中に置いた。
みんなが思い思いにカップケーキを選んでいく。青峰くんと黄瀬くんはどっちが大きいかで争っているし、さつきちゃんはそんな二人に突っ込んでいる。征十郎くんや真太郎くんはカップケーキすら綺麗に食べる。黒子くんはどこだろうと探せば、青峰くんの影に隠れて見えなくなっていた。流石である。
「◯◯ちん、こっち」
呼ばれた声に振り向けば、敦くんが自らの膝の上を叩いて私を呼ぶ。どうやらそこに座って欲しいらしい。確かいつぞやに彼の膝の間で寝てしまったことがあったっけ。なんだか恥ずかしいなぁと思いながらそこに収まると、やっぱりなんだかしっくりきてしまう。
「俺ね、◯◯ちんの作るものなんでも好きだよ」
「ほんと?嬉しいなぁ」
頭上から聞こえる言葉が可愛くて、思わず微笑んでしまう。なんだか征十郎くんと真太郎くんからの視線が痛い。敦くんはそんな二人もどこ吹く風のようだ。
「だから、もっといっぱい◯◯ちんの作るものが食べたいなぁ」
「えー?頑張っちゃおうかなぁ」
「まじでー?やったー」
無邪気にはしゃぐ敦くんにどんどん母性本能が満たされていく。ずいぶん大きいけれど、こんな息子が欲しい。敦くんはカップケーキを両手に持ち、凄い勢いで平らげていく。その様子に危機感を抱いたのか、青峰くんと黄瀬くんは争うのをやめた。敦くんは戦争を止める力を持っているのかもしれない。
しばらくするとカップケーキが底をついてしまう。ゴミを袋に集めた私はそれを捨てようと彼の膝から立ち上がる。するとがしりと腕を掴まれてしまった。そちらを辿れば敦くんだ。
「もうちょっといてよ」
「え?でもカップケーキ無くなっちゃったよ?」
「いーの。俺は◯◯ちんがいれば」
そのまま力任せに引き寄せられ、さっきの場所に戻ってしまう。少し恥ずかしいなぁと身をよじると、「動くの禁止」と優しい声で言われてしまう。今日はいつもより甘えん坊らしい。
「◯◯ちんって甘い匂いするね」
「カップケーキ焼いたからだよ」
「ふぅん。でもケーキとはちょっと違う匂い」
「え!?なんだろう。そんなに匂う?」
香水とかはもちろんつけてない。シャンプーとか柔軟剤だろうかと自分の匂いを嗅いでみるが全然わからなかった。
「うん。甘い匂い。俺が好きな匂い」
「え……?」
すぐ近くで声がしたから振り向くと、彼の顔がすぐ横のあった。もたれかかっているようで、長い前髪がうなじを撫でてくすぐったい。彼はカップケーキの匂いがした。
「これからもずっと、俺にお菓子作ってねー」
「ず、ずっとって……。いつまででしょうか……」
「大人になってもずっとだしー」
これはもう、ほぼプロポーズなのでは……?と邪なことを考えてから、まさか敦くんがそんなことを言うわけがないと首を振る。「じゃあ、バスケ続けてくれる?」と聞いたら、すごく嫌そうな顔をされた。
その後敦くんは征十郎くんと真太郎くんに何やらお叱りを受けていた。二人とも今日は機嫌が悪いのだろうか?
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