※高校設定です。
「この通りっす!!」
あの顔面超勝ち組の黄瀬くんがその綺麗な顔を前面に押し出してこちらを見上げてくるのだからたちが悪い。しかし了承したくないのも事実で思わず「でもなぁ」としぶってしまう。ちらりとそちらを見れば相変わらず犬のような可愛らしい顔で目を潤ませており、なんて小悪魔なんだと心が揺れる。
「まじでまじでお願いなんすよー!!先輩にしか頼めないんす!!」
「でも私別に可愛くないし……」
「謙遜まじでよくないっすよ!先輩はちゃんとかわいい女の子なんすから!」
「ねっ!」とウィンクされては言葉もない。とにかく自分をよく見せるのが上手い子だ。
黄瀬くんが私に頼んできたのはモデルの代役だった。というのも、今日の放課後の撮影で来る予定だった相手役のモデルさんが急遽お休みを取ってしまったらしく、部活も休みだし私にやってみないか?と打診が来たのだ。黄瀬くんはずっとこの調子で頼み続けてくる。今は昼休みだから周りの視線が痛い。自分がモテる自覚をしてくれ(十分自覚してるだろうけど)。
「ねー先輩!お願い!!」
「さつきちゃんは?さつきちゃん。黄瀬くん仲良いでしょ?」
「桃っちは今日も青峰っちのおもりっす!」
「おもり……」
桐皇に行った二人のことを思い出す。きっと今吉くんが上手くまとめているのではないだろうか。今吉くんは暴れ馬を乗りこなすのが好きだし得意だから。
「えーでもなぁ。黄瀬くん女友達いっぱいいるでしょ?」
「いやっすよ勘違いされそうだから」
「相変わらず辛辣だなぁ」
黄瀬くんは基本いい子なのだが、心を許していない相手以外には冷たいところがある。私にこうやって頼み事をしてくれているってことは、きっと信頼はされているのだろう。そう思うとちょっと心が動いた。
「かわいい服着て、綺麗にメイクしてもらって、髪の毛もふわふわ〜って巻いてもらえるんすよ!?」
「うう……」
「しかもプロに!!」
「うぐっ」
「タダで!!」
結局「タダ」という言葉に背中を押されて撮影現場に来てしまった。なんて貧乏くさいんだ……と思いながらも、経験できるならしておくべきだと前向きに切り替える。黄瀬くんは先にソロショットを始めたようで、私はプロのメイクさんに化粧を施されていた。人にメイクされるなんていつぶりだろう。高校生になってから少しばかり気を使うようになったが、それでもファンデーションやリップ程度だ。とにかく十代は肌の張りがいい。それに私は大人になってから張りが失われることを知っているため、だいぶ前から対策を講じていた。メイクさんに「肌綺麗ですね」と言われて、お世辞だとしても鼻高々だ。
「はい、できましたよ」
メイクの後、髪をセットされやっと鏡を確認する。そこに映る人物に、思わずパチクリと瞬きを繰り返してしまった。鏡の中の人物も同じように驚いた表情をしている。
「誰……?」
渋谷とかを普通に歩いていそうなかわいい子が写っている。ふわふわの巻き髪、コーラルピンクでまとめられたメイクが華やかだ。ていうか目おっき!鏡を凝視するとメイクさんに笑われた。あとで化粧品のオススメ聞いておこう。
それにしてもこれが私か……。「化粧」なんてよく言ったものだ。「化け」にも程がある。でもちょっぴり気分が上がる。別の自分になれたみたいで楽しかった。
黄瀬くんに合わせるために慣れない高いヒールを履き撮影スタジオに入る。服は人気ブランドの新作で、自然と気分は上がる。やはりかわいい服と化粧品はエネルギー源だ。心が枯渇した社会人時代にボーナスでデパコスを買い漁ったあの日を思い出す。散財したなぁなんて思いながらスタジオを見渡すと、雑誌の担当さんに手招きされた。
「可愛くなったね〜」
「あ、ありがとうございます」
「黄瀬くんのソロショットもうすぐ終わるからね」
「はい」と頷きホワイトバックにポーズを決めていく黄瀬くんを見つめる。普段とは違う「仕事の顔」をしていた。バスケをしている時もかっこいいけど、仕事中はなんだが少し雰囲気が違う。大人の世界にいるような気がする。
しばらく撮影を見守っていると、ソロショットの撮影が終わった。ライトを浴びて汗だくになった黄瀬くんのメイク直しにすかさずスタッフが入る。私は担当さんに背中を押されてホワイトバックに足を踏み入れた。目がチカチカする。強いライトを反射した黄瀬くんの髪の毛が金色に輝いて見える。彼の隣に立つといつもより距離が近く感じた。ほんの少しヒールがあるだけなのに。
「…………」
メイク直しが終わった黄瀬くんがじーっとこちらを見ている。そんなに見られるとは思っておらず、長い髪で顔を隠すとヘアメイクさんに「髪いじらない!」と怒られる。慌てて手を離したが、いたたまれない。とにかく恥ずかしい。小さな声で「ごめんなさい……」と呟くと、黄瀬くんはやっと「なまえ先輩?」と声をかけてくれた。
「なに?黄瀬くん」
「え、先輩!?まじすか!?」
「そんなに変かなぁ……いやうん、ちょっと若々しい感じがするけど……」
「いやなに言ってんすか!先輩まだ高校生っすよ!華のJK!」
そう言われてハッとする。しまった精神性がおばちゃんすぎた。そうだ、私まだ女子高生なんだった。だからこういう格好をしてもおかしくないはず……だ。
「に、似合ってないかなぁ……?」
「そ!んなわけ!!ちょーーっかわいいっす!!」
まじで!と黄瀬くんは何度も頷いてくれた。そこまで言われると流石に照れ臭い。でも、いつもの私よりは自信を持って黄瀬くんの隣に立てる気がした。
「私ポーズとかよくわかんないから、教えてね?」
「簡単っすよ!恋人って言うコンセプトなんすから」
黄瀬くんは少しだけ屈んで、私に顔を近づけるといつもとは違う優しい微笑みを浮かべた。
「俺を好きになってください」
思わず顔を背けてしまった。
いやそれは仕方ない。絶対私は悪くない。だって、そんな言い方ずるいじゃないか。「こっち見てくださいよー!」なんて今更そんなことを言っても遅い。これじゃあ落ち着いて撮影なんてできないじゃないか。
「黄瀬くんのばかっ」
「ひどっ」
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