君と僕だけの宇宙

手にしていた結晶を午後の太陽へ翳せば、変わり行く光に目を細めて釘付けになる。キラキラと輝いて私を魅了するこの"星の奇跡"と呼ばれる石。太陽へ翳せば翳す程に自分から光を集める様に反射して。その部分だけが私の為だけに切り取られた宇宙の様にさえ感じられる。


(まさかこんな凄い物をデイダラから貰えるなんて…)



−−−−−−



久しぶりにデイダラとのツーマンセルを組めた任務帰り。彼が作ってくれた鳥の上で変わり行く景色を見つめていれば、タイミング良く視界に入った村。特に理由があった訳では無い。だけど、何かに引き止められた様な気がして。疲れているであろうデイダラに「どうせ帰るだけなんだし…。ちょっとだけ寄り道しない?」っと小さな我儘を言った私。前で胡座をかいて座って居たデイダラは少しだけ眠そうな目をしながらも「ん?」っと嫌な顔1つせず振り向いてくれて。ひょっとしてうたた寝でもしてたのかな…?なんて無防備な彼の表情に思わず口元が緩む。


(だ、だめよ!自分!こんな所でにやけたら好きなのがバレちゃう…!)



自分の気持ちがデイダラにバレてしまわぬ様下を向くと、好きが顔に出ている自分に喝を入れる。好みのタイプ…っと言う訳では無いだろうが彼の口から何度か聞いた事のあるクールっと言う単語。『クール=アート』これを心得て居ればデイダラの芸術とまではいかないが、私にも多少目を向けてくれるかもしれない。理性と本能が戦い合う中、歪む口元をぎゅっと噤んでスイッチをONにする。今の私はクールな女。少しの事じゃ断じてにやけない!!心で己にビンタをかまして、気合十分にデイダラを見据える。大丈夫。さっきみたいな失態はもう犯さない。そんな真剣な表情の私に「寄り道ってなんだい?うん」なんて余裕たっぷりなずるい笑みを返してきたデイダラ。私の事を絆す様な笑顔に優しく囁かれる声。



ま、負けた…。いや、これは私が悪いんじゃ無い。デイダラが悪いんだ。そんな反則な反応を返されちゃ誰だって理性なんて吹っ飛んでしまう。なんて、クールな猫被りが早速取れてしまった言い訳をのべつ幕なしと自分の中で繰り広げる。勿論その間、心臓が良い子に黙ってくれている訳等無く。再び慌しく騒ぎ出した脈に、熱を発する体と情けなく弧を描き始めた口。普通自分の事を見つめながら奇妙にほくそ笑んでる相手になど、笑顔ではなく怪訝な表情を向けるのが当たり前だと言うのに…。優しく微笑んで待ってくれているデイダラに胸が締め付けられる。そんな顔して待たれちゃったら余計クールになんてなれないよ…。好きな想いが緊張となって私の体を震わす。早くデイダラの問いに答えなきゃ、っと頭では分かっているのに乾いた声しか出て来てくれなくて。震える自分の腕がデイダラに見えない様、外套で隠すと「見て」っと上擦いた言葉と共に下を指差す。




名無しに声を掛けられた時から、彼女が少し先に見える村に行きたがっている事を瞬時に悟っていたデイダラ。(この調子じゃ予定より早くアジトに着いちまうし…。ナイスタイミングってやつだな)なんて少し笑みを溢すと、ガチガチに緊張している名無しにそっと近付き一緒に集落を見つめる。途中睡魔に負けてうたた寝をしていたデイダラだったが、不思議な事にその夢の中に出て来た村と目線の先にある村がよく似ていて。自分の中の好奇心が少しづつではあるが、確実に食い付いている事を実感しながら歪に口角を上げていた。まだまだお昼時と言う事もあって村の至る所に人の姿が確認出来る。しかし…。(なんだこの村。夢と言いこの村と言い…違和感が拭えねぇな)何かがおかしい。見れば見るほどに心に引っかかるものが出てくる不思議な集落に、険しくなる顔。




一方の名無しはと言うと…。デイダラが村に不信感を抱いている事等露知らず。(よし。デイダラも村を見てくれた!後ちょっと…!)なんて彼の顔を横目で確認すると村に興味を示してくれる様に、あれよこれよと必死に頭を回転させていた。「あ!ほら!ご飯屋さんっぽいのもあるよ!私奢るから!ねっ?」なんて険しい顔のデイダラへ懸命に身振り手振りを加えながら精一杯告げる。しかし、どんな謳い文句にもいまいち手応えを感じられなくて。村を見下ろして以降、食い入る様に見つめるだけで、一言も言葉を発しない彼に不安の波が押し寄せる。もしかして…何か余計な事でも言っちゃったかな…?なんて恐る恐る「デイダラ?」っと彼の顔を覗き込めば、相変わらず長い睫毛を伏せたまま集落を見つめていて。不覚にもそんなデイダラの表情に全身が熱くなっていく。こんなんじゃ緊張して余計上手く話せなくなっちゃうよ。本人には到底言えない自分の気持ちを誤魔化す為、自身もデイダラと同じく村に集中する。とにかく今は自然に振る舞わないと、っとこれ以上空回りをしない様に己を奮い立たせながら。




名無しが下を向いたのと殆ど同時に顔を上げていたデイダラ。彼女のお願いへの返答をしようと集落から視線を戻せば、自分が見つめている事にも気付かず、耳まで真っ赤にして必死に話を続ける名無し。基本は馬鹿だが、オイラの事を魅了して止まないこの女。(サソリの旦那にも言われたが…。本当オイラの事が好きなの丸分かりだよな。うん)第三者にでさえ好意があるとバレてしまう様なストレートな言動。しかし、未だに己の気持ちがバレてないと本気で信じている。そんな所が馬鹿だとも思う反面、素直に愛らしい。デイダラは悪戯な顔をすると自身の膝に肘を乗せ、頬杖をつきながら己の想い人を眺める。(オイラがずっと見てたのを知ったら…。コイツはきっと顔を赤くして怒るんだろうな)なんて次に取るであろう彼女の行動を予想すると目を細め優しく笑う。そんな名無しを捉えた彼の瞳も第三者から見れば愛おしさが籠っている事等バレバレで。しかし、己自身もこの気持ちが本人どころかサソリや他のメンバーにさえ気付かれてないと信じて疑っていなかった。




「あ、あのおじさん大きいよ!」なんて目に入ったもの全てに一生懸命話をしていると、突然ケタケタと笑い声がして。それに反応して慌てて顔を上げれば、笑うデイダラと目が合う。不意に絡んだ視線に硬直する体。ひょっとして…ずっと見られてた?嫌な予感が脳裏を過ぎる。恥ずかしさで顔に熱が集中するのを感じながら「も…もしかして、ずっと見…」っと言い掛けた折、言葉の途中で突然掴まれた腰。そのままデイダラはグイッと自身の方へ私を引き寄せると「しっかり掴まってろよ」なんて耳元で囁く。一気に縮んだ距離に思わず固唾を飲めば、呼吸をする事さえ忘れてしまって。突然な至近距離に目を瞑り全てを理解した私は、振り落とされない様ぎゅっとデイダラにくっつく。


落ちる時は急なのに、降着の瞬間だけは衝撃が来ない様にゆっくりと降りてくれるデイダラ。ふわっと綺麗に地面へ着地すれば、私の腰を掴んだまま慣れた手つきで鳥から飛び降りる。不器用に感じる時もあるけれど、それが彼なりの優しさだと分かっているからこそ、多少強引に感じても嫌な気分にはならない。それどころか脇に抱えられて歩くのも悪くないもんだ!なんて思ってしまうのは惚れた弱みなのかな。そんな自分にツッコミを入れながら、平然と村を歩いて行くデイダラに「もう下ろしていいよ…?」っと小さく囁く。私の言葉に驚いてしまったのか、デイダラは一度ビクっと体を震わせると、ぎこちなく下ろしてくれて。自分から言ったくせに少しだけ残念な気持ちを抱きながら2人で集落の中を散策する。



何処にでもある普通の村と変わらない筈なのに、何故か好奇心が絶えない私。キョロキョロと集落の様子を忙しなく見渡していると、突然感じた違和感。そのまま視線をゆっくり頭へ移せばデイダラの手が私の頭に乗せられていて。腕でも疲れちゃったのかな?なんてキョトンっとしたままそんな彼を見つめる。すると「お前も暁なら笠くらいちゃんと深く被れ。うん」なんて少し眉間にシワを寄せながら笠を深く被せてくれるデイダラ。機嫌が悪い訳では無いんだろうけど…。何となく様子のおかしいデイダラに何かあった?っと口を開いた瞬間。先程自分が上から見下ろしていた大柄な男に声を掛けられる。



「お嬢さん!ちょいとそこの可愛いお嬢さん!これ!ここの村にしか無い物なんだけどどうだい?」
「…え?私ですか?」
「ハハッ!そうさ!こんなべっぴん、他にいねぇべさ!それに何より、今この村に居る女はお嬢さん1人だけだしなッ!」
「それってどういう…?」
「この時期、女は星を取りに3つ山を越えた先にある丘に行くのさ」
「星…?」



急に声を掛けられたかと思えば、お店の入り口に置いてあった椅子に大きな体を預け豪快に笑う大男。そんな男の笑い声に少しだけ驚くと、デイダラは再び眉間にシワを寄せ、その場を後にしようとする。…が、大男の前で足を止めてしまったが最後。矢継ぎ早に話を進めていく男に、私とデイダラはその場を離れるタイミングをどんどん逃してしまって。珍しく初対面の相手に圧倒され、お互いにペースを崩される私とデイダラ。店へ案内しようとするおじさんを腕を組んだまま探る様な瞳で吟味するデイダラ。



(このおじさん口が上手いんだ。デイダラが黙っちゃってるもん)



彼から視線を外し再び男を眺める。ぱっと見悪い印象や威圧感は感じない。それどころか少しでも耳を傾けると、おじさんの話に心を奪われていくばかり。星って何の事だろう?話の続きが気になって仕方がない。うずうずと好奇心を掻き立てられた私はデイダラに視線を戻し、気持ちが伝わる様にと願いながら控えめに見つめる。そんな伺う様な私の瞳にデイダラは小さく溜息を吐くと「…しょうがねぇな」なんて微笑みながら私の頭をぽんっと叩いてくれて。おじさんに歓迎されながら先に店内へ入って行くデイダラ。何だかんだ言いつつも私の気持ちを理解してくれる頼もしい背中に心がホワホワする。



その場に立ち尽くしたままデイダラへの想いにふけっていれば「恋だねぇ…」なんておじさんの声。突然聞こえて来た衝撃的な言葉に慌てて横を向けば、事の一部始終見ていた店主と目が合う。まさか、デイダラの事が好きなのバレちゃった…?他人にバレちゃう位顔に出てたなんて!っと声にならない悲鳴が全身を駆け巡る。熱い頬を手で押さえ、溢れる涙を必死に堪えるとクールになれと念じる。そんな私を今も尚、ニヤニヤと見つめるおじさんに「デイダラだけには言わないで」っとお願いしようとした瞬間、


「おい、何してんだ。早く来いよ」なんてデイダラの声。その声に慌てて後ろを振り向くと、先に店内へ入って行った筈のデイダラが暖簾を捲りながらムッと此方を睨んでいて。さっきのおじさんの言葉…聞かれてないよね?!なんてみるみる赤くなる顔に思わず下を向く。そんな名無しにデイダラは少しだけ不思議な顔をすると、それだけ言い残し再び店内へと入っていった。デイダラが居なくなった後も気付かず俯き続ける名無しに「彼氏、先に入ったぜ」っと店主の笑い声。そんな言葉にハッと我に帰ると小さくお礼を言ってデイダラの後を追いかける。



暖簾を潜り、一歩店内へ足を踏み入れれば視界の隅々にまで飾られた世界が広がる。店いっぱいに施されたキラキラと光り輝く硝子細工達。色や形、大きさ、デザイン。全てが絶妙に違って、どの角度から見ても細部にまでこだわって作られているのが分かる。(凄い。こんな夢見たいな所があったんだ…)まるで宇宙にでも来たかの様に感じられる空間に歓喜の溜息を漏らす。右を見ても左を見ても、乙女心を擽る様な綺麗な装飾品達に目移りしてしまって。早速落ち着きがなくなる。そんな名無しの様子を頬を緩ませ(オイラの芸術作品には到底敵わないが…。名無しをここまで喜ばせた事は褒めてやろう)なんて商品を眺める振りをしながら、彼女を見つめるデイダラ。勿論、名無しがその視線に気づく事等なく…。



大々的に飾られていた硝子玉達を1つ1つ手に取り眺める。綺麗にディスプレイされた横にはアクセサリーとして細工されている物も見られ、全てに見惚れいく。(欲しい…。これは非常に欲しいぞ…)なんて己の物欲と戦いながら自身の懐を確認する。決してお金が無い訳ではない。しかし…。売物の筈なのに、何故か値札が見当たらない商品達に些かに不安を覚える。欲しいと言ってそれが高額だったら…。デイダラに計画性の無い女だと思われるかもしれない。もとより残金が足りなくて恥ずかしい場面を見せる可能性だってある。そんな事を考えながら1人唸って居れば不意に感じた視線。



デイダラでも店主のものでもないその気配は店の奥から感じられて。手にしていた商品を一度棚へ戻すとゆっくり視線を上げる。決して広くはない店内の筈なのに、奥へ行けば行く程暗くなっていく構造に、一瞬怪訝な表情を浮かべる。さっきまでは何も感じなかったのに…。冷汗が背中を伝っていく感覚がもどかしい。敵意は感じられないが、普段己に向けらる気配とは違ったそれに、どうしても違和感を感じてしまう。何とも言えない雰囲気に目を細め意識が途切れさせない様集中させる。



闇に目が慣れた頃、漸く物陰から此方を見つめていた正体と目が合う。…子供?あの子に見られてたのかな?視線の先には小さい男の子が居て。今も尚、カウンターの陰から此方を大きい瞳で見つめている。(てっきり幽霊か何かかと思った…)緊張して強張っている男の子とは対象的に自然と笑顔になっていく私。気配の正体が分かった事で張り詰めていた糸が一気に切れたのだ。


年は5歳程だろうか。おかっぱ頭が特徴的な可愛らしい男の子に思わず笑みが溢れる。体は隠していても目は逸らさない辺り、怖がられている訳では無いのかもしれない。お互いに見つめ合ったまま、一向に陰から出てこない彼に少し屈んで「初めまして」っと声を掛けてみる。そんな私に少しだけ笑顔を見せてくれると一歩足を踏み出してくれた男の子。このまま出てきてくれるかも!っと淡い期待を膨らませながら見守っていると、突然小さい体をビクッと震わせて。そのまま逃げる様に再びカウンターの奥へと隠れてしまった。



(怖がってないっていうのは、私の早とちりだったのかな…)出て来てくれると期待していただけに意外とショックが大きい。その事にひっそり肩を落としていれば「お前の笑った顔が怖かったんだろうな。うん」なんて、いつの間にか横に居たデイダラにおちょくられる始末。デイダラが自分の隣に居た事にも、一連の流れをばっちり見られていた事にも顔が赤くなる。またしても恥ずかしい所を見られてしまった。…しかし、それより何より。一言彼に物申したい。傷付いた乙女の心に塩を塗るなんて!


「デイダラの意地悪」っと彼を見上げて思いっきり唇を尖らせてやると、そんな私にデイダラは一瞬固まりつつも再びケタケタと楽しそうに笑い出して。あぁ、この悪戯した後の男の子みたい笑い方も好きだな、なんて不覚にも又1つ彼を好きになる。心が絆されるのを感じながら2人の世界に入り掛けた時、突然後ろから響き渡った規格外の大きい笑い声。そんな大声に思わずデイダラと共に肩を揺らせば、続け様に「ゴンター!ゴンタ出てこい!」っと店主。ジンジンとする鼓膜に耳を摩りながら、おじさんが声を投げかけた方向をデイダラと共に見つめる。すると、先程隠れてしまった男の子がモジモジしながら出て来てくれて。



「ゴンタ!あいさつは?」
「い、いらっしゃい…」
「よし!じゃあ、その次だ!!」
「あ、えと…。ゴンタです。ここでとーちゃんとかーちゃんの手伝いをして…ます」
「グワッハハ!!よく言えたな!偉いぞ!!ってな訳で遅くなりましたが、俺はゴンザと申します。この店の店主でコイツは息子。無理に買えとは言いません。見るだけでも良いので、気軽に手に取って見てみて下さい」



耳まで真っ赤にして自己紹介をするゴンタにぎゅっと心が掴まれる。可愛い。子供ながらに両親の手伝いをしているなんて…。なんて立派なんだろう。父であるゴンザの足元に隠れながら、此方の様子を伺う彼の姿に母性すら芽生える。すっかりゴンタに骨抜きとなった私にデイダラは小さな溜息を溢すと、代わって店主に質問をする。「さっき入口で話してた、星ってのは何の事なんだ?うん」そんな彼の言葉でゴンタに夢中だった私は、肝心な事を思い出す。そうだ、お店に入った決定的な理由。それは店先で聞いた星について聞きたかったから。私はそのままゆっくり店主へ視線を移し、デイダラと共に彼が答えを教えてくれるのを待つ。



「お前の話通り…。どうやら今この村には名無ししか女も居ないらしいしな。うん」
「あぁ!そう言えば、話の続きでしたな!失敬、失敬。星って言うのは、星降る丘で取れる不思議な結晶の事なんですわ!」
「この硝子玉みたいなやつか?うん」
「いや、確かに店に出してある商品にはある程度結晶を砕いて混ぜて作ってはありますが…」



デイダラは手にしていた硝子玉を指で遊びながら、振り向き様にゴンザへと疑問をぶつける。そんな彼の問いに最初こそ口頭で説明していた店主だが、突然何かを思い出した様に「話すより見た方が早いだろう」っと小さく息子へアイコンタクト送る。するとゴンタは再び店の奥へと消えてしまって。何かを取りに行ったゴンタの方をぽーっと眺めていると、ゴホンっと咳払いをして話しを進めていく店主。そのまま彼はこの地域に昔から伝わる伝説と習わしをゆっくり聞かせてくれた。天の川が現れ、再び空へと姿を隠してしまう次節、役目を終えた星達は大地へ降り注ぎ、渇いた大地に新たな奇跡を運ぶ。そして、村の女達はその奇跡を総出で摘みに行き奇跡の恩恵を受ける…。



「ってな、訳でワシの女房もつい数日前に出てったきりなんですわ!」
「その丘って…。危なくはないんですか?」
「いーやっ!これっぽっちも!星の奇跡を常に身に付けているからな」



店主の言葉に、御守りみたいな物なのかな?なんて考えていると、「持ってきた」っと言うゴンタの声。3人で声のする方へ視線を向ければ、小さい木箱を大事そうに抱えたゴンタがちょこんっとゴンザの足元まで来ていて。「これだよ」っと丁寧に蓋を開けると、精一杯背伸びをして私とデイダラが見易い様に手を伸ばしてくれる。そんな小さな紳士に「ありがとう」っと微笑み箱の中を覗き込むめば、そこには今までに見たことの無い美しい結晶が大切そうに納められていて。宝石の様な輝きを放つ石に釘付けになる。気付けばデイダラもその結晶に興味が湧いたようで。スコープを外すと私と同じ様に屈んでゴンタの持って来てくれた結晶を凝視していた。


形は歪だが中に小さな花が閉じ込められているこの結晶。それに固唾を飲んで見惚れていれば私達の上で、またもや無意識に体が震えてしまう店主の笑い声が響く。「ゴンタ!説明してやれ!」っと自信満々に腕を組んで息子へ詳しい説明を求めるゴンザに、デイダラと一瞬苦笑いを見せ合う。一方ゴンタはと言うと、そんな父親には慣れっ子なのか当たり前の様に自分が手にしている物がどう言うものかを、拙い言葉で分かりやすく話してくれた。



「これが星の奇跡。ここからちょっと行った丘に伝説のお姫さんが居てね、天の川が出る時期になると、その川まで行って好きな人に逢いに行くんだって」
「お姫様…?」
「うん。それで天の川が消えてちょっと経つと星が降るの。お空では星だったけど、お空じゃなくなると花の形に生まれ変わるんだ。かーちゃんは、伝説のお姫さんの寂しい涙が星になって降るって言うけど、僕は幸せのお裾分けだと思うんだ」
「夢物語みたいな話だな。うん」
「確かになァ!だが!此処からがミソなのさ!その花となった星が結晶になるのは、伝説の姫が居たとされる星降る丘だけなんだ」



にわかに信じられない彼等の話に、疑いの眼差しを向けるデイダラと興味を惹かれて仕方のない名無し。星が花になる事でさえ信じられないのに、更にその花自体から花弁を守る様に結晶化していく等。それこそ自分が言った通り本当に夢物語だ。なのに…。そんな夢物語みたいな馬鹿な話に目を輝かせてるお前を見てると、何だかこの話も本当な気がして。「欲しいのか?」なんて聞いてやれば、顔を赤くして慌てるお前。素直に顔に出ちまってるの、気づいてないのか?そのままデイダラは優しい笑みを溢すと静かに立ち上がり、後ろに立って居たゴンザを真っ直ぐ見つめる。目だけで何を伝えられたか分かった店主は笑顔を見せるとゴンタの頭を撫でて「お包みしてやってくれ」っと一言。




そんな様子を一人未だにしゃがんで見ていた名無しは慌てて立ち上がりデイダラの外套を掴む。そんなに凄い物ならきっと値段だって度肝を抜かさられるかもしれない。ましてや、デイダラに買って貰う気なんて毛頭なかった。嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちが同時に押し寄せて来て余計に慌ててしまう。すると、外套を握る私にデイダラは「まあ、寄り道ついでってやつだな。うん」なんて又私の胸を締め付ける、はにかんだ笑顔を見せてくれて。バクバクと騒がしい胸に手を当ててデイダラを見つめて居ると、何かを閃いたのか再ゴンザに口を開く彼。



「首飾りみたく加工って出来るか?うん」
「あぁ!穴を開けて紐を通すだけだから少し時間をくれれば出来るぜ」
「そうか。なら頼む」
「え?!そんな、悪いよ!」
「名無しは気が抜けてる野郎だし、いつ落とすか分からないからな。うん」
「気が抜けてるは聞き捨てならないけど…。…でもありがとう」



芸術家なだけあって、些細な事にも気付いて機転を利かしてくれるデイダラ。そんな彼の優しさにどれだけ救われてきたか。デイダラとの想い出が頭を駆け巡って胸が締め付けられていく。恥ずかしくて、でもやっぱり嬉しくて。込み上げてくる気持ちをグッと抑えてデイダラを真っ直ぐ見つめる。見つめられてるのが恥ずかしいのか照れ臭そうにしている彼に素直にお礼を告げれば、「おぉ!」なんて返事を返してくれて。それだけ言うと再び口を曲げてそっぽを向くデイダラ。お互い何とも言えない気恥ずかしさにモジモジとしていれば、抑えていた感情が再びザワつき始める。そんな初々しい反応をしている名無しとデイダラの横ではゴンザがゴンタに穴の開け方の説明を進めていた。


嬉しくて溢れそうになる涙を堪えていると不意に掴まれた腕。驚きながら視線を手元へ移せばゴンタが私の手を握っていて。「来て」っと一言。そんな彼にハテナを浮かべながらも、グイグイと歩き出すゴンタに引っ張られる様な形で彼の後を追う。暗闇に慣れて居ない私に気を遣いながら「大丈夫?」や「段差があるからね」っと仕切りに声を掛けてくれるゴンタ。相変わらず奥へ進めば進む程に、不思議と暗くなっていく店内に転倒しないかとヒヤヒヤもしたが、彼の声掛けのお陰で転ぶ事も無くスムーズに歩けていた。すると、ここだよ!の声と同時に離された手と明るくなる空間。思わず驚いて目を瞑れば、小さな笑い声が響く。「僕もよく目つぶっちゃうんだ!」なんて器用に台の上へ登って照明のスイッチを押したままのゴンタ。そんな彼の笑い声に何だか私も連られて笑えて来て。2人で笑いながら眩しかったねっなんて話しながら手際良く準備を進めていくゴンタの手伝いをしていく。


作業台の上には専用の穴を開ける器具や、鮮やかな紐が綺麗に収納されていて。慣れた手つきで器具を取ると、結晶へと穴を開けていくゴンタ。そんな彼の様子を感心しながら見つめていれば、突然手を止めちょいちょいと手招きをされる。凄く楽しそうにしている彼に何だろう?っと促されるままゆっくり近付き彼の口元へ耳をかざす。その瞬間、体に電流が走る様な感覚を覚える。ドクドクと激しくなる脈に上手く機能しない頭。小さい声ではあったがしっかりと聞こえた。余りの衝撃にパクパクと口を動かしていると、「お姉ちゃんの恋は、もう恋じゃなくて愛に変わってるよ」なんて子供とは思えない台詞でトドメを刺してくるゴンタ。



−−−−−−



その後の事は正直よく覚えていない。頭が真っ白のままデイダラの元へ戻って…。ボーッとしていた私に気を遣ってくれたのか「あんみつ食うか」なんて誘ってくれて…。何故かお互いに無言のままあんみつを食べて…。それから冒頭に戻る。この星の奇跡を見つめている間だけは、何となく落ち着いていられて。前でウトウトと弧を描いているデイダラを結晶の中へ閉じ込める様に翳す。そうすると、ほら。花とデイダラが私の手の中に収まった。それだけで心と頬がぽわっと溶けていく。そうだよね。嬉しい事なんだから、そろそろボーッとしてるのもダメだよね。すっかり絆されている頭の片隅で、あの時ゴンタから耳打ちされた台詞を思い出す。



「本当は内緒なんだけど…。この村にはお互い想い合ってる人間達しか入って来れないんだ。1人でも入って来れないし、お互いが大切同士じゃない人も入って来れない。この星の奇跡が認めた、大事な気持ちを持った男と女じゃないとダメなんだ」



それってつまり…。ゴンタの言う事が真実だったとしたら。これは独り善がりの恋なんかじゃなくて。両想いだった…って事だよね?余りの嬉しさで、今の今まで実感が湧かなくて呆然としちゃったけど…。やっぱり確認したい。好きって言いたい。今度こそ、本当に眠りかけているデイダラの外套をぎゅっと握る。もしあの言葉が嘘だったとしても、今更この気持ちを止める事なんて出来ない。いずれは言おうと思ってた。いつ死ぬか分からないんだもん。気持ちを伝えないまま死んでしまったら成仏なんて絶対出来ない。意を決し「デイダラ?」っと震える声で愛おしい人の名を囁く。そんな声にデイダラは一瞬ビクッとすると先程と同じ様に振り向いてくれて。



「んあ?どうかしたか?うん」
「…………好き……」
「あー、好きか。オイラもお前が…って?!オイッ?!!おま、今何て!!!」
「や、やだ!一回しか言わないもん」
「ハッ!?!名無し、おめぇもう一回言わねぇとここから落とすぞッ!うん!!!」
「デイダラはそんな事しないもん!」



一気に顔を赤く染めていくデイダラと私。言え、言わないの押し問答をしていれば、いきなり掴まれる肩。「言わねぇと、キスするぞ…。うん」そんな言葉と同時に迫ってくるデイダラの顔。これって…。この展開って本で読んだ事のあるアレ…?バクバクと煩い心臓のせいで、デイダラに集中したいのに上手く出来なくて。だけど、黙ってちゃだめだよね。情けなく震える声で今言える精一杯の「…言わない」の一言。そのまま恥ずかしい気持ちを隠す様に目を瞑れば、それと同時に軽く重なった唇と唇。柔らかくて、暖かくて。私の全てを受け入れてくれてる様な気持ちになれるキス。


目を閉じてるのに涙が溢れて。止まることを知らない好きが涙になって頬を流れ落ちていき、手のひらに乗せていた星の奇跡を濡らしていく。離れる唇にゆっくり瞼を上げると、大好きなデイダラが目の前に居て。泣きながら笑顔を見せれば、顔を赤くして照れ隠しのムスッとした表情をするデイダラ。柔らかい午後の日差しが、絆されて熱い体をポカポカと包んでいく。まるで夢の中にでも来てしまった様な気分。すると、気恥ずかしそうに私が手にしていた星の奇跡を顎で指すデイダラ。



「それ、つけてやるよ。うん」
「え!い、良いの?」
「当たり前だろ!失くさない様に首飾りにしたんだから。うん」
「そ、そうだよね?へへ。指輪では無いけど…、何か結婚指輪みたい」
「…バッ?!!名無し。お前よくそんな恥ずかしい事言えるよな。頭ん中夢で出来てるんじゃねぇのか?うん」
「いいじゃん!結婚!デイダラはやなの?」
「ッ!??!ハァ!!?オレだって…!つーか、そう言う恥ずかしい事言わすんじゃねぇ!お前がそう思うならそれで構わねぇからッ!!!うん!」



想ってることは一緒だよね…?っとお互いにはにかみながら笑顔を向ければ、再び自然と重なる唇。デイダラからの好きと言う言葉が直接聞けた訳では無いが…。触れた箇所から気持ちが不思議と伝わってくる。唇が重ねられる度に「好きだ」と想いを告げられている様なキスに、思考はショートして。私も自分の気持ちが唇からデイダラに伝わる様に、想いをのせる。ずっとずっと大好きだよ。これから悪い事も良い事も沢山あるだろうけど。この星の奇跡みたく、私がどんな形になったとしてもずっと愛してるから。



−−−−−−



一頻り互いの想いを伝えた後、自分にもたれ掛かりながら眠ってしまった名無し。安心しきって目を閉じる彼女を優しい瞳で見つめて居れば自然と頬が緩む。最初は男しか居ない村に反対しようともしたが…。結果的に降りて大正解だった。あの店主と息子にも感謝だな。なんて親子の顔を思い浮かべていると、会計を終え店主と交わした会話がふと脳裏を過る。



「にぃさん!あんた結構嫉妬深い男に見えるけど…。大丈夫!きっと上手く行くさ!!」
「おい、オヤジ。てめぇそれはどう言う…」
「ガーハッハッ!!大丈夫ってワシが言ったら大丈夫なのさ!きっと今日辺り進展するんじゃねぇのかな?キッスなんかしちゃったりしてよ!!ワハハ」
「…キッス?キッスってそれこそ何…」
「お、お待たせしました…」
「うおッ?!!名無し…?!お前今の会話聞いてたか!!?!うん!」
「……え?あ、ご!ごめんね!ボーッとしちゃって…」



その後の事は正直よく覚えていない。店主との話を名無しに聞かれて無かったと安堵した途端、頭が機能しなくなって…。ぼーっとしたまま店を出れば甘味処が目について…。名無しが喜ぶかと思い立ち寄って…。気恥ずかしさから寝たフリなんかしてたら本当にウトウトし始めて…。今に至る。



そんな事を思い出しながら自分の腕の中にすっぽり収まる名無しを見つめる。こうやって抱き締めて居ると、本当に気持ちが通じ合えたのだと実感が湧いてきて。それが無性に嬉しくて、スヤスヤと気持ち良さそうに眠る名無しをちょっとだけきつく抱き締める。その瞬間、ふわっとオイラの大好きな匂いが鼻をかすめて。それだけで心が爆発しそうになる。そのまま花の蜜に誘われた蝶の様に、彼女の頭におでこをくっつけ鼻をスンスンとヒクつかせる。あぁ、やっぱりお前はオイラを虜にして仕方のない女だ。もっと、もっと欲しい。もっと名無しを感じたい。そんな欲を制御する事なく匂いをかぎ続けて居れば、下から「…んん」なんて可愛らしい声を洩らすお前。ちょっとやり過ぎたか?なんて一瞬固まるオイラに、掠れた声で「…どうしたの?」っと甘い声。眠そうに目を擦っているお前を見てると、世界が平和になってくれと柄にも無く願ってしまう。そんな事ないのにな。でも、そうだな。オレ達だけでも平和で居られる様に、たまにはお前みたく素直になってみるのも悪く無いかもな。



「何でもない。ちょっと匂いをかいでただけだ。うん」



なんて名無しの様に素直に伝えれば、みるみる赤くなっていくお前。名無し。お前って本当ずるい女だ。そんな顔されたら腕の中から一生離してやりたく無くなる。オイラと言う宇宙に名無しを閉じ込められたらどれだけ幸せか。でも、それは出来ないから。せめて、お前の首に掛けた指輪の様に。名無しが花で、オイラはお前を外敵から守る結晶になるんだ。そうすれば、オイラの中に居るのと変わらないよな。その代わり、お前はオイラに閉じ込められている花だから。オイラからは死んでも逃げられない。運命共同体ってやつだ。うん。



「さっきの話。誓えるか?名無し」
「結婚指輪みたいって話…?」
「…どうなんだよ?うん」
「も!もちろん!」
「フッ、名無し覚悟しとけよ?うん」
「デイダラは?」
「オレは…ッ!!」



沈みかけていく太陽を背に、光り輝く結晶の様に笑うデイダラと、可憐な花の様に微笑む名無し。2人の幸せがいつまでも続きますよにっとフライングで輝く星達は囁き合う。どうか彼等が流す涙が悲しみの色ではなく、伝説の姫の様に幸せな色の涙でありますように。