Obsession



目覚ましが鳴るよりもずっと早い時間。
物音がして目を開けると隣で一緒に寝ていたはずの彼がおらず、シーツの上にあったはずの熱さえ残っていないかった。寝ぼけた頭でどこに行ったんだと部屋を見渡すと、クローゼットの前で服を着替えている姿を発見した。

「…どこか行くの?」
「! 起こしたか、悪い」

穂刈くんは驚いたようにこちらを振り向くと、ジャージのジッパーを閉めながら私に近付いて来た。そのままベッドの上に腰を下ろし、睡魔で上手く開かない私の瞼に一つキスを落とした。

「行ってくる、ランニングに」
「朝から凄いねぇ。私はもうちょっと寝るね。今日も仕事とか信じられない…」

眠いよ仕事行きたくないよとぶつくさ悪態を吐きながら再度寝ころび布団に包まろうとすると、なにを思ったか穂刈くんはその布団を引っぺがした。急な冷気が体を包み「寒…っ!」と声が出る。一体なんなんだと奇行の主を見ると、彼は私を見下ろしながら「一緒に行くか、走りに」と言った。

「は? なん…なにって?」
「いつまでも眠たいぞ、だらだらしていると。すぐに目が覚めるからな、運動をすると」
「えぇ…本気で言ってる?」

穂刈くんは私の腕を引き無理やり立ち上がらせると、またもや半ば無理やりジャージに着替えさせた。クローゼットから出したばかりの服は朝の空気を吸って冷えており、寝起きの私には氷を着たのかと思わせる程だった。


*


「ゆっくりでいい、最初は。リズムだ、大事なのは」

家を出て河川敷をすぎたところにある公園まで行って往復するのが本日の朝トレメニューだ。
普段からあまり運動をしない私にいきなりランニングはきつかろうと、ジョギングレベルの速度で彼は一緒に走ってくれている。
まだ人の少ない早朝の冷たい空気が肺を満たし、聞こえてくる鳥の囀りが私を清々しい気持ちにさせた。軽く会話をしながら周りを見ると車もそれほど走っておらず、同じようにランニングをしている人や犬の散歩をしている人がちらほらいるくらいだった。いつもぎりぎりまで布団に籠って時間が来たら急いで準備をして、朝ごはんも摂らずに慌ただしく家を出るのが日課だった。こんなゆったりとした気分で外を見渡すことなんてあまりない。彼はいつもこの景色を見ているんだろうなと隣を一緒に走る横顔を見て思う。同じ時間を共有していることになんだか少しむず痒い気分になった。


目的の公園に辿り着き程よく息も切れていたため、一休みするために私はベンチに座った。一緒に座るかと思い端っこに詰めたが、穂刈くんはベンチの目の前でスクワットをして汗を流し始めた。彼はこれを毎日やっているのかと思うと尊敬する。

「穂刈くん凄いね、朝から筋トレまでやるんだ」
「普段はしねぇぞ、走るだけだ」
「そうなの?」

私の問いに「あぁ」と一言だけ答えて、彼はトレーニングに集中し始めた。その姿をぼーっと眺めてそろそろ汗が冷えてきた頃、彼は百回のスクワットを終えて一つ大きく息を吐いた。

「今日は一緒だからな、なまえが」
「ん?」
「筋トレも捗るってもんだ。気分がいいからな、一緒に体を動かせて」

嬉しそうに顔を綻ばせながら汗を流す穂刈くんに釣られて私も頬が緩む。普段は面倒くさがって誘われても一緒に運動をすることはないが、こんなに嬉しそうにしてくれるならたまには体を動かすのもいいかもしれない。そう思いながら私はベンチから立ち上がり、大きく伸びをした。








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