生まれるいつかを夢に見て


*やんわり死ネタ注意

あなたがこの手紙を読んでいるころ、私はもうこの世にいないでしょう。なんて、いつかあなたと見たドラマのようですね。あのときの私はまだ、ドラマのヒロインの感情がよくわかりませんでした。実際に大切な人と別れたことはありませんでしたし、これから先もそんな風に愛せる人ができるのかもわからなかったからです。直接伝えるのはあまりにも照れくさいので、手紙で伝えますね。素直になれなかった私を、どうか許してください。

あなたと出会ったばかりのころ、まさかあなたと恋仲になるなんて思いもしませんでした。きっと、あなたもそうだったでしょう。私は人間で、あなたは神さまでしたから、どこか近寄りがたい思いもありました。それはあなたにだけではなくて、みんなに対して思っていたことでした。というのはあくまで私が審神者として新米だったころの話です。いつしか私はあなたたちを恐れることなく、絆を深めることができるようになりました。雅を愛するあの人とはまるで親子のような関係を、誰よりもスカートが似合うあの子とはまるで古くからの友達のような関係を、そしてまたある人とは兄妹のような関係を築きました。そしてあなたとは、恋人という特別な関係になりました。私のあなたへの感情が恋に変わったのは、ある春の日でした。単純だと思われることが、いえ、簡単に恋に落ちる女だと思われることがどうしても嫌だったので、今まであなたに伝えたことはありませんでしたね。ついに私の秘密をあなたに伝えるときが来ましたよ、なんて。
あなたは覚えていないかもしれませんが、私とあなたの手が一瞬触れたときがありました。恋人になるなんて思ってもいなかったころの話です。初めてあなたが近侍になった日のことです。覚えてなくても無理はありませんが、思い出してほしいとは思うので、私が覚えている限りのことを書きますね。わがままでごめんなさい。
あなたが初めて近侍になった日、いつもよりも書類の仕事が多くてあなたにもたくさん迷惑をかけてしまいました。2人で並んで書類を片づけて、あなたは最後の1枚を私に手渡しました。主の判がいるみたいだよ、と言われてその書類を受けとろうとしたとき、本当に一瞬でしたが、2人の手が触れてしまったのです。もしかしたらあなたは気づいてさえいなかったかもしれませんね。一瞬でしたし、恥ずかしかった私がすぐに離れてしまいましたから。こうして思い出しながら書いていても、胸が高鳴ります。あなたを思い出すだけで、どきどきしてしまいます。もうそんな歳ではないというのに、あなたが関わると私は少女に戻ってしまうようです。触れた手が熱かったことを覚えています。きっとあのとき私は顔も赤くしていたでしょう。たったそれだけのことなのに、どうしようもなく嬉しくて、どうしようもなく恥ずかしかったのです。

あなたに告白をされたときは驚きました。それはもう、大変驚いたものです。だって、あの日以来恋焦がれていた人から愛を囁かれたのですよ。驚かないはずがありません。そして驚きと同時に、嬉しさがこみ上げてきました。あれは寒い冬の日のことでしたね。雪が積もって短刀たちが外で遊んでいる姿を、2人で見ていました。どこか夫婦のようだとも思っていました。恋する乙女の恥ずかしい妄想でした。恋は盲目といいますから、今思い出すと恥ずかしくて穴に入りたくなるくらいですが、そのときはそんな妄想をすることが楽しくて、幸せでした。寒いね、とあなたが言って私はそうだね、と返しました。こんな中身のない会話のあとに告白されるとは思いませんでした。突然あなたは私の手を握り、真っ直ぐに私の瞳を見つめました。恥ずかしくて目を逸らそうとするとあなたが「逸らさないで。僕を見て」なんて言うものですから、私は逸らすこともできず、恥ずかしさをこらえてあなたを見つめ返しました。そしてあなたは私に好きだ、とそう言いました。手を握られて見つめられるだけで私の頭は爆発寸前だったのにあなたはさらに爆弾を落とすものですから、私はその言葉を理解するのに少し時間がかかってしまいました。そして理解したとき、わたしは大変驚いて、そして泣きたくなるくらい嬉しいと思いました。私も、とそれだけしか言えなかった私の頭をあなたは笑って撫でてくれましたね。

初めてキスをした日も、初めて身体を繋げた日も、あなたと過ごした日々は全部私の宝物です。きらきらと輝いていて、とても手放すことなんてできません。なので、全部持っていきますね。あなたも同じように思っていてくれたら、これほど嬉しいことはありません。私を思い出して毎日泣くようなことだけはしないでくださいね。でも、忘れないでください。たまにでいいから、思い出してください。そしてたまに泣いてください。あなたの泣き顔はあまり好きではありませんので、たまにでいいですよ。私のことを好きだった日々を思い出してくださいね。

審神者としての日々は、私の人生で1番楽しい日々でした。ありがとうございました。審神者として至らないところも多々あったと思うけれど、今までついてきてくれてありがとう。愛してくれてありがとう。愛させてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。宝石のように輝く日々をありがとう。
次に会うときは、同じように歳をとり、共に生きていけるような2人になりたいですね。

愛する光忠へ、ゆりより


僕の、僕たちの主はあまりにも短命だった。審神者という職業についた人間は寿命が短くなるという話は聞いたことがあった。でも、それにしたってあまりにも短い人生だった。彼女はもともと病気がちだったから、審神者という仕事がさらに彼女を苦しめたのだろう。彼女はいつだって笑っていた。だけど本当はいつも苦しんでいたのではないか。そう思い始めると止まらなくなって、彼女の変化に僕なら気づけたはずなのに、と自分を責める。
彼女が最後に残した手紙を読み終えたとき、彼女はもういないんだとやっと理解できた気がした。彼女は人間で、人間には寿命があって、彼女は寿命を迎えてしまったのだと。ずっと一緒にいられると思っていた。馬鹿みたいだけど、不思議な力が働いて彼女は僕のそばにいられるんだと思っていた。当然そんな奇跡は起こらなくて、僕と彼女はもう一生会えないんだと理解したとき、僕は涙が止まらなくなって、みんなの前で情けなく泣いていた。

ありがとうって、そう思ってるのはこっちの方だよ。僕はきみのおかげでこんなに楽しい毎日を過ごせたんだ。楽しい、嬉しい、悲しい、切ない、全部の感情の隣にきみがいて、忘れることなんて到底できないのに、きみは僕を置いていってしまう。

いつか、いつかまたきみの隣に並べる日が来たら、今度は僕を置いていかないでね。主が最後の最後に僕だけに教えてくれた名前を、誰にも聞こえないような声で、呟いた。


title by誰花

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